第6話
「えーい‼︎」
先頭のバイソーが思いがけずやられたせいなのか、群れは戸惑っているようにその場を動かずにいた。
その群れの新しい先頭の一頭に向かって、私は握りしめた拳を振りかぶり――
盛大に空振りをした。
「あぁ! 私のおててが小さすぎるし、腕も短すぎる‼︎」
未だに幼女になったことに慣れておらず、距離感が狂っていた。
突き出した可愛らしい傷一つないすべすべとした拳は、狙ったバイソーの脚のかなり前で止まっていたのだ。
「そもそも、相手がデカすぎる! 顔を殴れば一発なのに、届かないじゃない!」
先ほどのバイソーは、私を角で串刺しにをしようと、頭を地面すれすれに下げた状態で突進してきていた。
そのおかげで、小さくなってしまった私でも、届くことができた。
今一瞬、ファイの顔で、「アリシアは元から小さいだろ」と言うのが聞こえた気がしたけれど、幻聴だろう。
流石の私でも今の幼女姿の私よりは大きかったもんね!
「はっ⁉︎ 関係ないことをついつい考えてしまっていたわ。それにしてもどうしましょう。何度やってもあいつら意外とすばしっこくて攻撃が届かない……」
別のことを考えている間も、私は果敢にバイソーに向かって攻撃を繰り出していた。
しかし、いくら攻撃しても、腕の長さの不利が災いし、一度も攻撃を当てることができない。
「あー、もう! なんか長くておっきいものがあればいいのに! あ、そういえば……」
私はふと目線を広場の中央に向ける。
そこには先ほど見た、金属か何かでできた大きな柱が地面に突き刺さった状態で立っていた。
「確か、あれを引き抜こうとしてたわね。と言うことは、抜ける? おねえさん! あの金属の柱みたいなの何⁉︎」
私は今度は後ろを振り返り、未だに柱の影に隠れたまま、「やれー! そこだー! おしいー‼︎」と声援を送ってくれているおねえさんに向かって叫んだ。
まさか自分に話が飛ぶとは思わなかったのか、一瞬身体をびくんと跳ねさせた後、おねえさんが金属の柱のことを説明してくれた。
「それは、この町に古くから伝わる伝説に登場する、戦神ガウスが使っていたとされる破城槌です‼︎ 戦神ガウスが悪神ワルイーヤーツを殺した後、その破城槌をこの地に突き刺し去っていったとされています‼︎」
「なるほど! おねえさん、ありがとう‼︎」
何故かおねえさんは敬語になっていたが、この際そんな細かいことは気にしないでおこう。
とりあえず、このでっかい柱、破城槌を抜ければ手頃な武器になりそうだ。
「えーと……持つところは……あ! あった‼︎」
ちょうど私こうでの高さのところに、大人の手の平を二つ並べて持てる分ぐらいの長さの柄がある。
とりあえず、そこを掴んで上に引っこ抜いてみる。
「んんんー!! 抜けなーい!! ……抜けたッ!!」
土に刺さっていた部分の長さはさほどでもないが、とにかく重い。
全長は一際背の高いファイよりも大きいだろうか。
太さは、大の大人がすっぽりと隠れることができるくらい。
先端は中心に向かって緩やかに尖っている。
「よーし。ちょっと重いけど、これなら避けられないでしょ! あんたたち、覚悟しなさい!!」
既に私が相手をしていた以外のバイソーたちは、広場にある建造物を壊し始めている。
早く倒さないと、どんどん被害は広がるだろう。
私はとりあえず身近にいた一頭に、破城槌を振りかぶった。
グシャっ!!
あまり心地いいとは言えない奇妙な音とともに、破城槌で殴られたバイソーは動かぬ肉片と化した。
ちょっと、勢いをつけすぎたかもしれない……
「わ、私が悪いんじゃないわよ!! ちょっとこの槌、重すぎるのがいけないんだから!!」
誰に言っているのか自分でも分からないけれど、ひとまず言い訳はしておこう。
もしかしたらおねえさんが聞いてくれているかもしれない。
そう思って、笑顔を作ってからおねえさんの方を振り返る。
すると、「ひゅっ!!」という息を吸い込む音が聞こえ、まるで怯えたような素振りを見せるおねえさんの姿があった。
「あ……柱に完全に隠れたし……」
何故か驚かせてしまったようだ。
いけない、いけない。少し力加減を考えないと。
「まぁいいわ。とりあえずはバイソーたちをやっつけないとね! やー!!」
破城槌を抱えたまま、私は次に近くにいたバイソーにそのまま体当たりをする。
破城槌にぶつかった瞬間、まるで重量がないかにように、バイソーは吹っ飛んでいった。
「次!!」
家屋に体当たりを繰り返し行っているバイソーには、上から下に破城槌を打ち付ける。
超重量物に押しつぶされ、通算四匹目のバイソーも息絶えた。
さすがにそこまでやると、バイソーたちも誰が危険なのか気づいたようで、一斉に私の方を振り向き、威嚇を始めた。
「あらー? ようやく私の凄さに気づいたってところ? 馬鹿な魔獣にも少しは考える頭があるのね!」
「あ……馬鹿って言った……」
……おねえさんの声が聞こえた気がしたけれど、気のせいだろう。うん。
私はいいの! と心の中で叫びながら、すぐに対応できるように破城槌を構えた。
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