第2話【超々強化】

 あまりに出来事に唖然あぜんとしている間に、ブレイブたちは私を置いて去っていた。

 今さらながら、自分の状況を理解し、理不尽に追放されたと思っていた三人の言動も、今は理解できる。


 目の前の鏡に映るのは、ピングブロンドのふるゆわロングヘアー。

 くりくりの大きな緑色の瞳。


 私の自慢の特徴だ。

 それに変わりはない。


 ところが、私の特徴を持つ人物は、少女を通り過ぎ、幼女というしかないような見た目をしている。

 年齢でいれば、せいぜい五、六歳だろうか。


「そりゃあ、こんな幼女を危険な旅に連れ回せないわ……下手したら、いえ、下手しなくても大の男三人が幼女連れ回してたら変態のレッテル貼られるわ」

「アリシアさん」


 一人呟いているところに後ろから声が聞こえた。

 おそらく、ブレイブが私のことを頼んだシスターだろう。


 振り向くと、物腰柔らかな白髪の老婆が、優しげな笑みを浮かべて私を見つめている。

 彼女は目線を私の高さに合うように腰を屈めると、ゆっくりとはっきりとした声で話しかけてくる。


「大変でしたねぇ。主は、私たちに様々な試練を与えます。でも、安心してください。主を信じ、祈り続ければ道は開けますよ」

「は、はぁ……それはどうも……」


 彼女は胸の位置で両手を組むと、主への祈りを捧げた。

 私も彼女にならって両手を組む。


「それでは、色々と不便なこともおありになるでしょうが、今日からこの協会を我が家と思ってすごしてくださいね

「ありがとうございます……」


 聖女の私が言うのはなんだけれど、彼女は典型的なシスターのようだ。

 苦難や問題は主の試練、良いことが起これば主の思し召し。


 嫌いではないけれど、外の世界を知ってしまった私としては、少し、いいえ、かなり窮屈に感じてしまう。

 この幼女の状態が治るのか、どのくらいかかるのかは分からないけれど、ずっとここで生活する気にはなれない。


「どうしました? さぁ、中へ入りましょう。もうすぐ食事の支度も終わると思いますよ」


 そういえば、そろそろお昼の時間帯だ。

 教会にいれば食事はもらえるだろうし、今後どうするかは腹ごしらえしてからでも良いかな。


 私はシスターに手を引かれ、教会の中へと入っていった。

 はたから見たら、おばあちゃんと孫にしか見えないわね……と思いながら。



「飽きたわね……」


 結局、一日だけ教会のお世話になった。

 結果分かったのは、教会の生活は刺激が全くないということ。


 まず基本的に何もやらせてもらえない。

 いくら幼女でももう少しは手伝いくらいさせてもらえるぞ、ってくらいまだ危ないからという理由で全て他の人がやってくれる。


 ここら辺はありがたくない勇者の威光のせいだろう。

 もし何か間違いがあって怪我でもさせたら……と、シスターたちが思うのは仕方がないことだと思う。


 だからといって、行動的な私としては、ただじっとしているというのが苦痛だった。

 ということで、こっそり窓から抜け出し、街に出ることに決めたのがさっき。


 思い立ったらすぐ行動。

 私のいい所なのだが、何故かメンバーたちの受けは悪かった。


 まぁ、今回の件は確かに私の性格が災いしたと言っても過言じゃないけど……

 過ぎたことをグチグチ考えないのも私のいい所なので、そんなことは綺麗さっぱり忘れることにした。


「大変だー!! 建材が崩れたぞー!!」


 私があてもなく街の通りを歩いていると、そんな叫び声が聞こえてきた。

 気になって見てみると、聞こえた声の通り、巨大な木の建材が崩れ、土煙をあげていた。


「おい!! 早く人を集めてこい!! お頭が崩れた下敷きに!!」

「なに!? そりゃ大変だ! 急がないと手遅れになるかもしれん!!」


 どうやらあの建材の下に人が下敷きになっているらしい。

 大きさは重さに直結する。


 その下敷きになっているとしたらただじゃ済まないだろう。

 早く建材を撤去して助け出し、回復魔法をかけなくては。


「おい! ここから持ち上げて退けるぞ! いっせーので、だ! いっせーの!!」


 屈強そうな男が四人がかりで建材を一本ようやく持ち上げる。

 しかしその動きは遅々として進まない。


「気をつけろよ! 間違って落としたらもっと酷いことになるぞ!!」

「ゆっくりだ! ゆっくり!! 焦ったら手を滑らせて落とすぞ!!」


 そんな掛け声をかけながらようやく一本の建材が退けられ、ちょうど私の目の前に置かれた。

 私のことは視界の中に入っていないのか、気づいていないようだ。


「もう! あれじゃあ、間に合わないかも! 私に力があれば……」


 そう思いながら、何気なく目の前の建材に手を当て、無意識のうちに握りしめようとしていた。


 めきめきっ。


「ん?」


 おかしな音に私は目線を自分の手に向ける。

 すると、小さな幼女の手のひらの形に、建材の一部が握り潰されていた。


『自分の能力を超々強化させる秘法だよ!』


 突然一昨日の商人の言葉が脳裏に浮かぶ。

 息を吐き、意識を集中させてから掴んだままの建材を持ち上げようと腕をあげた。


「わぉ。凄い!! ほら! 私は間違ってなかったじゃない!!」


 私の目の前には、私の腕によって持ち上げられた重い建材が、浮かんでいた。

 身体は幼女になってしまったけれど、商人の言った通り能力は超々強化されていたらしい。


「そこのあなたたち! 退けなさい!! 私がやるわ!!」


 私は颯爽さっそうと崩れた建材の山へと進んで行った。

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