悪役演じる魔王様

エンゼ

第1話 転生、そして把握

「……ん」


 意識が浮上していく。深い眠りから目覚める感覚だ。これほど深く眠っていたのはどれくらい振りだろう。そもそも何で俺は眠っていたのだろうか。


 段々と意識が表面化していく。同時に俺にあらゆる疑問が沸いて出てきた。


 ──俺は誰だ……なぜここにいる……?


 すると突然、俺の頭に大量の記憶が流れてきた。


 ──そうだ。俺は確かあの時、


 死んだはず。そう思った瞬間、また別の記憶が頭を巡る。


「……は?」


 数々の今まではあり得なかったことが記憶として定着していく。


 自身は魔王という存在であること。この世界は魔法という文化があること。近年魔物と呼ばれる存在が世界に出現し、人類を襲い始めたことなど───創作でしか聞いたことのない事柄が事実として有ること。


 そして最後に───自身がこの世界の『癌』であるということも分かってしまった。


「どういう……ことだよ……?!」


 魔物の存在を完全に無くすためには魔王が死ななくてはならない。だが、ただ死ぬのではなく、『完全な力を持った魔王』をだ。


 他にも世界を襲う自然災害は魔王が放つ『悪風』が原因で起こっているのだという。


 しかもその悪風は止めることが出来ない。無意識に流れ出してしまうものだ。


 魔王が消えない限り、この世界は平和になることが出来ない。


 つまり、この世界は現在多数の悪で混沌としている。しかし『完全な力を持った魔王』が死ねば、それらは消え去り平和になるってことだ。


「俺が死ねば……世界は平和になる……」


 改めて自身で言葉を発して確認をする。


「……」


 自身の肉体を確認する。前とは変わらず人型で、全身に黒っぽい煙を放つ鎧、頭には角のようなものが二本生えていた。


 更に、今までは感じたことのなかった全能感。知らないはずの魔法への理解。


 やろうと思えば、俺はこの世界を滅ぼすことが出来るのだろう。人類を虐殺することなんて容易いのだろう。


 だが……俺は前は人間だった。現代日本の一般の人間として生活していた。だから殺しなんてしたくないし、するつもりもない。


 ならばこれからどうする?

 自殺か? いや、何度かしてみようしたがダメだった。自分で自分は殺せないようになっているみたいだ。

 ならどうすれば死ねる? 『勇者』という称号を持つ者の聖剣でしか完全に死ぬことは出来ないらしい。


──あぁなんだ。なら一つじゃないか。


「……勇者に俺を殺してもらう、か」


 さっきから『完全な力を持った魔王』と言っていたが、俺はまだそうではない。今から『完全な力を持った魔王』になるためには約10年の時が必要のようだ。


 仮に完全でない魔王で死んでしまった場合、魔王の因子が世界に残ってしまい、また新たな魔王が誕生してしまうようだ。

 ……本当に癌じゃないか。


 なんとなく、自身の役割がはっきりしてきた気がする。今さっき言ったように、魔王というのはこの世界の癌。


 言い換えれば、そういうシステムなんだ。


 ここからは推測なんだが、システムという性質である以上、魔王には意思が無かったのだと思う。そこに偶然、俺という意思が宿ってしまった。


 そしたらどうなる? より効率良く殺されることができるってわけだ。


「……そういうこと……なのか」


 落ち着くために深く考えるのは少し置いておき、ここがどこなのかを見てみることにした。


 どうやら、城という感じの建物の中にいるよう。汚れている箇所は無く魔王城という感じの内装がなされていた。


 外は雷雨で激しい光や音がなり続け怪しげな雰囲気が漂っている。


 この城には俺一人しかいない。創作とかで良く出てきていた四天王や魔王軍のようなものは存在しないみたいだ。


 城を歩けば歩くほど、ここが現実なんだと思い知らされる。正直まだ夢なのではないかと疑ってたので、落ち着くつもりであったのに段々気持ちは沈んでいく。


 何が楽しくてまた死ななきゃならないんだ……どうして俺がこんな役割に……。


 逃げちゃえよと囁く自分がいる。どうせこの世界は未知の世界なんだ。知り合いなんて誰もいない。滅ぼしたって誰も『俺』のことは責めたりしないよ、と。


 だけど、死ななきゃ世界は滅びる。自分一人の命程度で世界が救われるならば、それでもいいかもと考える自分もいる。


だが、そうだとしても────



「……やっぱり、俺は人間だ」



 俺は結果として後者の道を選ぶことにした。世界を救うため、その身を捨てることにした。どうしても俺には前者を選ぶことが出来なかったのだ。それに、俺は生前何もしていなかった。意味も無く生き、何かに貢献したこともなかった。


 だが、今なら役に立てる。世界こそ違えど、初めて俺はちゃんとした役割を持てている。そう考えれば少し気が楽になった気がした。


「……よし」


 それから、自身が死ぬための計画を考えることにした。いつ、どのように、どういう過程を経て死ぬのか。精密にしっかり漏れがないように構築していく。


 もし万が一漏れがあり死にそびれたりして、新たな魔王が生まれてしまったら? そしてその魔王に俺以外の別の魂が入ってしまったら?


 ……こんな変な思いをするのは俺だけでいい。


 それからどれくらい経ったかはわからない。だがその計画は……ついに完成した。あとは……実行に移すのみ。


「さぁ始めよう。この世で最初で最後の計画を」










──続く。



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