No.218 最終話:この素晴らしい仲間たちと


 式が全て終わって着替えも済ませた俺たちは、ホテルのビーチサイドのバーに集合した。

 バニヤンツリーと白いパラソルの下、俺たち8人はなんとか席を確保できた。


「でも本当に明日菜ちゃん、綺麗だったよ!」


「綾音、ずっと泣いてたよな?」


「ず、ずっとじゃないわよ! でもガラス張りの祭壇の向こうに海が見えてさ……本当にいい式だったよね」 


 誠治のツッコミを受けた綾音は、まだ式の余韻に浸っているようだった。

 そういう綾音と誠治も、年明けに札幌で結婚式を挙げることが決まっている。

 

 アジアン・ヌードルハウスの勢いは、とどまるところを知らない。

 フランチャイズを含めた店舗数は全国150店舗をこえ、向こう3年以内に300店舗を目指すそうだ。

 さらに2年後を目処に、エイエス・フードサービスは東証マザーズ市場への上場準備を進めているらしい。

 誠治がマザーズ市場とはいえ、上場企業の社長となる。

 数年前まで胃潰瘍で入院していたとは思えない躍進だ。


 ちなみに我がフューチャーインポート社も、業績は絶好調だ。

 来年には東証2部への上場を予定している。

 従業員数も今年で150名を超えた。

 業績を牽引しているのは、新たに始めた自社ブランドの家具だ。


「小春ちゃん、ミラノから長旅だったね。疲れてない?」


「そうでもないですよ。東京でゆっくりできましたから。」


 その業績を牽引する立役者は、もう22歳の立派なレディーになっていた。

 小春ちゃんはミラノから一旦東京の実家へ戻ってから、俺たちと一緒に8人全員で同じフライトでハワイへやってきた。

 俺と明日菜ちゃんは7泊、他の皆は4泊の滞在予定だ。


 KOHARUブランドの家具は、去年の年末クリスマス商戦に合わせて販売を開始した。

 確実に売れると確信した社長は社内に通信販売部を新たに設立し、満を持して自社で専用の販売Webサイトを立ち上げたのだ。

 これなら卸売やAzomanルートより、確実に利益率が高くなる。


 そして販売初日。

 午前9時に販売が開始となると、販売サイトにアクセスが集中。

 9時3分に、サーバーがダウンしてしまった。


 復旧作業に数時間要したが、予定個数分は即日完売となった。

 さすがにこれではマズいので、次の販売は抽選とした。

 それでも申込みが殺到して、予約分だけで半年待ちの状態となっている。


 ベトナムの提携工場もラインの組み換え等で拡張対応をお願いしているが、すぐには難しいだろう。

 来年東証上場で得られた資金で、自社工場を建てるかどうかを目下検討中だ。


 そんな訳で会社としては今期の業績は前期比売上50%増、当期利益70%増を見込んでいる。


「でも本当に小春ちゃん、救世主だよ。社長も喜んでたんじゃないかな?」


「うーん……お父さんは喜んでいるというより、びっくりしている感じでしたね。それより……小春の方こそ、瑛太さんにお礼を言わないといけないんですよ」


「? 俺が小春ちゃんからお礼を言われることなんて……何かあったかな?」


「小春が高校生の時、スケッチブックを見て褒めてくれたじゃないですか。あの時『将来デザイナーとかになったら? 絶対才能あるよ』って言ってくれたのが本当に嬉しくて……だから今の小春があるのは、瑛太さんのおかげなんです」


「ああ……そんなこともあったね。いやそんな事より、小春ちゃんの才能がずば抜けていただけだよ」


「でも好きな道に進んでよかったです。少なくともあのまま明青大に進んでたら、今の小春はなかったわけですからね」


「明青大OBとしては、耳が痛いけどね」


 でも本当に小春ちゃんの才能と努力の結果だ。

 そして結果的に、うちの会社を救ってくれたことにもなった。


「ところでエリは、いい結婚式場は見つかりそうなの?」


「うん、最終候補で二つに絞ったとこ。でもなあ……今日の明日菜の結婚式を見たら素敵すぎて、どっちの式場も霞んじゃったよ」


「そりゃハワイの一流ホテルのチャペルと比べられるとな。でも南野、本当に綺麗だったよ。それに瑛太先輩もかっこよかったッス」


 明日菜ちゃんの問いかけに、エリちゃんと海斗がそう答えた。

 二人は来年の挙式に向けて、式場選びの最中だ。

 海斗は大学を卒業して就職すると、「俺と結婚してくれよな」とずっと言い続けて来たらしい。

 「結局押し切られちゃった」と笑うエリちゃんは、ちょっと恥ずかしそうで可愛かった。


「いいなぁ……結局私を除いて、皆結婚しちゃうんですねぇ」


 弥生ちゃんはそうボヤいていたが……

 

「弥生ちゃんだって、そういう話出てるでしょ?」


「え? は、はい……まあ、そうですね……」

 そう言って弥生ちゃんは、下を向いて少しモジモジした。


 実は弥生ちゃんは、俺の兄貴と正式に付き合っている。

 前回のお正月に、弥生ちゃんが長野の実家に挨拶に来たのだ。

 俺と明日菜ちゃんも一緒に実家にいたので、話がはずんで盛り上がった。


 俺の兄貴と弥生ちゃんは、6歳の年の差だ。

 俺はどうせ兄貴が若い弥生ちゃんに、ちょっかいをかけたんだろうと思っていた。

 しかし兄貴の話によると、実際は逆だったみたいだ。


 弥生ちゃんは兄貴とLimeを交換した後、頻繁に連絡を取るようになった。

 そして兄貴が東京へ出張の時は、いつも「会えませんか?」と弥生ちゃんの方から連絡が来るようになったらしい。

 そして一緒に食事をして酒を飲み……そのまま兄貴の宿泊先にお泊りする関係になったという。

 多分俺たちの中で、弥生ちゃんが一番の『肉食系』だったようだ。


 俺の兄貴も弥生ちゃんの家に挨拶は済ませていて、結婚を真剣に考えているのだが……。

 実は弥生ちゃんは2級建築施工管理技士という資格を取ったばかりで、あと数年かけて今の会社で実務を積みながら、1級の資格を取りたいと考えているそうだ。

 この1級と2級とでは、統括できる工事の規模が全然変わってくるらしい。


 一方で俺の兄貴は長野市内の農協勤務で、東京勤務となる可能性はほぼゼロである。

 弥生ちゃんが長野に嫁ぐとなったら、仕事や資格はどうなるのか。

 はたしてそれだけの規模の建築工事を、任せてもらえる仕事に就けるだろうか。

 田舎だけに、まだ女性が現場管理を任されるという環境ではないかもしれない。

 弥生ちゃんは、そんな不安を感じているらしいのだが……


「今日お二人の結婚式を見て、私も結婚したくなっちゃいました。やっぱり好きな人と一緒にいるのが一番ですよね」


 弥生ちゃんは屈託のない笑顔で、そう言った。

 これからどうなるかわからないが、とにかく兄貴とよく話し合ってほしいと思う。

 もし結婚となったら……弥生ちゃんは俺の義理の『姉』になるのか?

 それはそれで、ちょっと面白いかもしれない。



 俺たちはハワイでの短い滞在を満喫した。

 8人乗りの左ハンドルのレンタカーを借りて、誠治に運転してもらった。

 パイナップル畑やノースショア、アウトレットモールへも足を伸ばした。

 

 8月のハワイは、お昼間はとんでもなく暑い。

 俺たちは夕方になってから、ワイキキビーチやプールに繰り出した。


 女性陣は全員ビキニだ。

 日本人観光客も多いので、いつも通り俺たちはめちゃくちゃ目立っていた。


 俺は学生の時の夏休みに、皆で川遊びへ行ったことを思い出していた。

 変わらない笑顔で、今でもこうして皆で一緒にいる。

 そのことが本当に嬉しかった。


「やっぱり皆で来れてよかったです」

 明日菜ちゃんが楽しそうに言った。


「ああ、本当によかった。最高のメンバーだよ」

 俺自身、一生の思い出になると思った。


「せっかくだから、写真撮ろうぜ!」


 リーダーの誠治がそう言うと、俺たちは構図を考える。

 ちょうど太陽が少し西に傾き、ダイヤモンドヘッドをバックに取るには最高のタイミングだった。


「じゃあ小春が撮りますよ」


 小春ちゃんの構えるスマホに、俺たち7人は思い思いのポーズを取った。

 変顔をしたり。

 全員同時にジャンプしたり。

 カップル同士、腕を組んだり。

 何枚も何枚も、写真を撮った。


 そのあと小春ちゃんも入ってもらって、通りがかりの人に撮影をお願いした。

 取った写真はすぐにシェアされた。

 俺はその場で、写真を見た。


 全員満面の笑みだ。

 俺も明日菜ちゃんも。

 誠治も綾音も。

 海斗もエリちゃんも。

 弥生ちゃんも小春ちゃんも。

 皆かけがえのない、俺の仲間だ。


「皆、いい表情ですね」


「ああ、本当だ」


 そして俺のとなりには、明日菜ちゃんがいる。

 世界で一番可愛い、俺の最愛の妻がいる。


 

 これから俺は明日菜ちゃんと一緒に生きていく。

 そしてこの仲間とも一緒に、時を刻んでいきたい。

 全員が結婚しても、子供ができても、年をとっても。

 この素晴らしい仲間たちと、ずっと一緒に。

 俺はそんなことを思っていた。




   ーーーー FIN ーーーー


 ※次話「あとがきと新作」も、是非御覧ください。

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