No.36:紅葉狩り


「オーダー入りまーす! 5番、ボロネーゼ1、カルボ1、マッシュピザ1です!」


 吉祥寺のオステリア・ヴィチーノ。

 夜の7時過ぎが、混雑のピークだ。

 平日にも関わらず、店はほぼ満員状態だ。


 9時前になり、ようやく一段落した。

 俺も誠治も、疲労の色が濃くなった。


「お疲れさま。ようやく落ち着いたね」

 詩織さんが、俺たちに声をかけてくれる。


「本当に毎日、忙しいですよね」


「まったくだ。皆どっから情報を仕入れて、ここに来るんだろうな」


 この店の立地は、決してよくはない。

 駅から5分以上は歩くし、大通りから2本入った裏路地だ。

 それでも予約は入るし、ウォークインのお客さんも、ひっきりなしだ。


「宣伝は全然してないようだけど、やっぱりSNSだよ。それと値段が手頃だからね。立地が悪いぶん家賃が安いから、メニューの単価も抑えることができるみたいなんだ」


 詩織さんは、このお店のオーナーからもかなり信頼されている。

 よくオーナーと、経営面の話もするらしい。

 大学を卒業したら正社員になってくれと何度も懇願されたらしいが、詩織さんは大手商社の道を選んだ。


「ところで詩織さん。日曜日のランチ、オレたち客として来ますんでよろしくです。JKとダブルデートなんですよ」


「ああ、聞いてるよ。まったく……瑛太君と2人して女子高生とデートとは、なんだか犯罪臭がするな」


「詩織さん、それはひどいです。犯罪臭は誠治の方だけで」


「なんでだよ? 瑛太こそあんな美少女に言い寄られて。実は隠れて、よくないイタズラとかしてるんじゃねーか? 雨に濡れたJKを、自分の部屋でシャワーを浴びさせるぐらいだもんな」


「な、なんだって? 瑛太君、そんなことをしているのかい? 即刻事案発生じゃないか。君たち法学部だろう? 新聞沙汰とかにならないようにして気をつけてくれたまえ。お店に悪い評判がたってしまう」


「俺はなにもしてませんから。その推定死刑みたいなの、やめてくださいよ」


 なんだか、みんな同じような反応をするんだよな。

 まああれだけの美少女だから、仕方ないのかもしれないけど。

 

 日曜日は女の子と一緒に、ランチと紅葉狩りか。

 それもあの美少女の明日菜ちゃんとだ。

 俺は自分でも気づかないうちに、心が弾んでいた。


        ◆◆◆


 そして週末の日曜日。

 俺はアパートを出て、歩いて吉祥寺へ向かう。

 お昼前に俺たち4人は、吉祥寺の駅の改札前に集合することにした。


 吉祥寺の改札前に俺がついた時には、他の3人はもう待っていた。


「瑛太、遅い!」


「そんなこと言って。誠治さんだって、1分前に来たばかりじゃないですか」


「そうですよ。瑛太さん、こんにちは。まだ集合時間前ですよ」


 どうやらそれほど待たせたわけではないらしい。


 エリちゃんは、スウェットシャツにタイト目のデニム、ブランドロゴが入ったキャップというスタイルだ。

 スポーティーで、ポニーテールの髪型とマッチしている。


 明日菜ちゃんは、薄手のセーターの上に白い鍵編みニットカーディガン、淡いピンクのキュロットスカートで、その長い足を今日も惜しげもなくさらしている。

 生足ではなく、薄いストッキングを履いているが。


「明日菜ちゃん、足元寒くない?」


 俺はちょっと心配になって、聞いてみた。

 さすがに11月半ばとなれば、朝晩は冷え込む。


「そうなんですよ、瑛太さん。明日菜に『ちょっとそれは寒いんじゃない?』ってさっき聞いたら、『だって可愛いって言って欲しいもん』って」


「ちょ、ちょっとエリ!」


 明日菜ちゃんは、頬を紅潮させる。


「そんなことしなくても……明日菜ちゃんは、普通でも十分可愛いんだから。風邪でも引いたら大変だよ」


「もう……瑛太さん、すぐそういうこと言うんだから……」

 明日菜ちゃんが、モジモジする。


「おい、さっきからオレは置いてきぼりか?」


「ああ誠治、いたのか?」


「ふざけんな!」


 そんな感じでわいわいと言いながら、俺たちは移動する。

 吉祥寺の駅から、歩いて5分強。

 駅から離れて細い道を入っていく。

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