No.34:それこそ井の頭公園とか


 そして週末の日曜日。

 お昼時間に、明日菜ちゃんはやってきた。


「お邪魔します」


「どうぞ。入って」


 今日の明日菜ちゃんは、少し涼しくなったせいか紺色のスウェットを着ていた。

 胸元には、アメリカのカレッジのロゴが入っている。

 膝上のミニに、今日はストッキングを履いていた。

 さすがに生足は、もう寒いのか。


 そして今日は髪を後ろでまとめ、ポニーテールにしている。

 スポーティーで、とても可愛い。


「今日はポニーテールなんだね。初めて見るよ」


「そうでしたっけ? へ、変ですか?」


「凄く可愛いよ。まあ明日菜ちゃん、どんな髪型でも似合うけどね」


「もう……」


 顔を赤くして、照れる明日菜ちゃん。

 こういうところが初々しい。


「これ、昨日の夜たくさん作ったので、食べて下さい」


 そういってプラスチックの容器に入っていたのは、唐揚げだった。

 それも結構な量がある。


「こんなに貰っちゃって、いいの?」


「はい、ちょっと作り過ぎちゃいました。あとこれは、今日のお好み焼きのトッピングです」


 袋の中に入っていたのは、小さく切ったお餅とチーズだった。


「ああ、餅チーズのお好み焼きか。絶対ウマいやつだ」


「そうですよね! 是非やってみましょう!」


 俺はお好み焼きのタネを作り始めた。

 明日菜ちゃんはいつものように、椅子に座ったまま俺に話しかけてくる。


「綾音さんは、不参加なんですね。残念です」


「ああ、すごく行きたがってたけどね」


「そうだったんですね。では、またの機会ですね」


 埋め合わせで一緒に紅葉を見に行かされることは、黙っておくことにした。

 俺も学習効果がでてきたようだ。


「明日菜ちゃん、あのコンビニの時だけだよね? 綾音と会ったのって」

 あのカウンター越しに、綾音が壊れた時だ。


「あ、はい。でも綾音さん、絶対に悪い人ではないと思いましたし。それに瑛太さんたちのお友達ですから、一緒だったら楽しいかなって」


「ああ、いいやつだよ、綾音は」

 明日菜ちゃんがそう思ってくれたことも、俺は嬉しかった。


 焼けたお好み焼きにソースを塗りかつおぶしをかけて、2人で食べ始める。

 明日菜ちゃんは、またハフハフしている。

 小動物みたいで、可愛いのだ。


「おいしいです。チーズの香りが、食欲をそそります」


「お、今日はちゃんと飲み込んでから言えたね。えらいえらい」


「もう……子供扱いしないで下さい」

 

 明日菜ちゃんは、頬を膨らませて拗ねる。

 やっぱり子供みたいで、可愛いな。


「それで、紅葉はどこへ見に行こうか?」


「はい、本当は高尾山に行きたかったんです。紅葉がとても綺麗で、山頂からの眺めもいいって聞いていたので。でも、もの凄く混雑するらしいんですね」


「そうなんだ。行ったことないから分からないけど」


「他にどこか、紅葉が綺麗な所ってご存知ですか?」


「いや、わからないな。て言うか、地方出身者だし」


「そうですよね……」


「どうせなら、それこそ井の頭公園とかでいいんじゃない?」


 井の頭公園は、吉祥寺駅の目と鼻の先にある。

 ここから歩いて20分だ。


「え? でも……それだと近すぎませんかね?」


「そうだね。だからランチを、俺と誠治のバイト先で食べるっていうのはどうかな」


「あ! 瑛太さん、それナイスアイディアです!」


「行ったことなかったよね? オステリア・ヴィチーノ」


「ないです、ないです。行ってみたいって、ずっと思ってました」


「じゃあそうしようよ。オススメのメニュー、教えてあげられるしね」


「やったー! すっごい楽しみです!」


 明日菜ちゃんはバンザイして、派手に喜んだ。


「井の頭公園って、中に小さな動物園があるんですよ。そこにも行ってみましょう」


「そうらしいね。俺は行ったことないから分からないけど」


「この辺だと、幼稚園とかの遠足で行くんですよ」


「そっか。明日菜ちゃん地元だもんね」


 てことは、誠治も退屈なのかな?

 まあでも可愛いJK2人と行くわけだから、文句はないだろう。

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