ゲシュタルト:カオス=アライヴ

三流木青二斎無一門

白い部屋、二畳程しか無い空間に置かれたベッドの上で横になる男が居た。

肉体はがっしりとしている。髪の毛は灰色、目は茶色で落ち着いた雰囲気が特徴的だ。


彼には名前が無い。だが、名乗る名前はある。

名前と言うべきか、それは、正式名称、と言った方が自然だろうが。

彼の正式名称は七九三号……囚人ではない。だが、人権など無い人間以下の存在だ。

彼に両親は居ない。だが、産みの親は居る。


人間が性行為を行い子を孕み産んだとして、その子が産んだ親を親として認識するのならば、彼にとっての親は機械という事になる。

複製品バイオロイド』……人類とは違う存在だ。尤も、この世界を支配する人類は今は存在しないが。


最近の話だ。たった十年前の事。

ある科学者が作った機械が交信を行った。それは、宇宙ではなく、別の世界へと連絡を取る事が出来る機械だった。


その交信は、滅びる寸前の世界と交信する事が出来る終末機だった。

その終末機は交信するだけの代物で、映像はおろか、音を流す事も出来ない電波を送るだけの代物。


だが、別世界の人間は、その電波を感知して、この世界と別世界を繋ぐ術を得た。『次元超越』と呼ばれる物理法則を破る移動手段で、週末世界から、この世界へと到来したのだ。


そして、彼ら異世界生物は、人の姿であれば、獣や、おぞましい姿をする生物でもあった。その生物たちは、故郷が消滅した為に、新しい拠点を欲した。

だから、異世界生物たちは、この星を新しい故郷にしようとして、原住民である人間を滅ぼす行為に及んだ。


人類は多少抵抗したが、異世界生物の未知な能力に圧し負けて、殆どの生物が死んだ。

たった十年で、人類との殆どが死んだ。だが、絶滅はしていない。

人類は絶滅する寸前に、複数の漂流物を解明したのだ。


それが解明された内の一つ、『複製品』を作る事の出来る機械『人間製造機関バイオロイドファクトリー』だった。

『次元超越』は、異世界生物がこの世界へと渡る為に、周囲の物質も引き連れる。

そして移動途中で物質がこそげ落ちていき、その物質は異世界生物から離れた場所に漂流する。


『人間製造機関』は、技術が発達した超科学文明世界であり、何処と無くこの世界と同じ言語に近しかったから、その使い方が理解出来た。

人類は、漂流物を使って避難すると、『人間製造機関』を使って『複製品』を作り、その『複製品』を動かして異世界生物を駆逐しようと考えた。


そして現在。『人間製造機関』は漂流物によって建てられた『塔』にて保管され、彼ら『複製品』は、異世界生物を倒し、世界を奪還する為に動いている。


だが……その殆どは無駄死にでしかなかった。


「D/七九三号、任務だ」


格子の先から声が聞こえて、七九三号は顔を上げた。

其処には黒色の鎮圧武装を着込んだ男性が立っている。

黒色のヘルメットを被っていて表情は分からないが、その声色からして彼を見下しているのが分かった。


「………」


七九三号は何も言わず立ち上がると、男が格子の扉にカードキーを当てる。

ぴ、と音を立てると共に扉が開かれると、男の後ろに居た二名の兵士が七九三号の後ろに付いた。

そして、移送される七九三号。彼らはこの塔を管理する人間の管轄下にある部隊の一員だ。

七九三号と同じ複製品ではあるが、彼と隊員らの階級が違う。

七九三号の階級はDである事に対し、彼ら隊員の階級はS。

階級は下から順にEからAまであり、Sは階級B以上の職に就く『複製品』の直属の部下に当たる。つまり、階級Sである彼らは最低でも階級Bと同等の権限を持っているのだ。


「こちら五二一班。D/七九三号を輸送中。『ターミナル』にて合流を行う」


無線機を使い、そんな声が聞こえて来た。

七九三号は何も言わない。だが、彼の脳裏には、死が連想されている。

基本的に階級D以下は、捨て駒として起用されている。

異世界生物に複製品を突撃させて、異世界生物の能力や強さを測らせる為にだ。

階級Eは人間としての機能が欠けている者を指す。

肉体を強化された状態で特攻させる為だ。

そして、階級Dは人間としての機能を持つ者を指す。

この場合の機能は、人間の心、自我、と形容しても良いだろう。

階級Eとは違って、異世界生物が発生する毒のガスや精神作用を引き起こさせる能力を感知させる為に有効であり、必要な犠牲として任務には必ず一体編成する事となっている。

だが、階級Eとは違い自我があり、階級Dには死を恐怖する心がある。

そして、任務へ参加する事は死へと繋がる行為であり、恐怖を覚えて、逃げたり、嘆いたりする階級Dが多く存在する。

だが、彼らは複製品であり、本物の人間ではない。だから、彼らを無理矢理動かす為に、階級Dの内部には爆弾が埋め込まれている。

もしも命令違反を起こしたりすれば、爆破を起こして死亡する。

そうなりたくなければ、きちんと任務を全うしなければならない。


この爆弾は意外と効果があった。

任務と言えども、生き残る可能性がある。異世界生物から発生する異常現象に異常が見られない場合、隔離をして様子を見る必要がある。

一度任務に出れば、しばらくの間、任務に出なくても良いのだ。

その間は要求があれば最低限の娯楽を得る事が出来る。組織の人間も、恐怖を与えるだけではなく、任務にやりがいと言うものを与えさせて縛り付ける方法も取っていた。


「五二一班、『ターミナル』に到着。これより簡易的な説明を行う。任務権限はS/五二一号が受け持つ。D/七九三号を含める階級E/たちを後方より指揮を行う。任務途中通信が困難になった場合、現場にて最上階級に該当するD/七九三号が指揮代行を務める。任務開始より一時間が経過した場合、隔離施設に転送し、一週間の経過を確認する」


『ターミナル』は『塔』の地下に存在する転移装置だ。

縦に伸びる広間には、均等の間隔に置かれたドラム缶の様な形状をした装置が置かれている。ドラム缶の上部には複数の接続ケーブルが上空に向かって伸びていて、ドラム缶内部に入る生物を別の土地に転送する事が出来る。


「D/七九三号には、武装兵器、『小威銃トリガー』を支給する」


S/五二一号はD/七九三号に黒色の拳銃を渡す。

拳銃と言っても銃口は無い。握る為のグリップと、指に掛ける引き金のみだ。

超科学文明世界が作り上げたその武装兵器は引き金を引くと破壊衝撃が発生する。

使用する者の脳波を感じ取って、目視で定めた空間に破壊衝撃を自由に設置出来る。

破壊衝撃が人体に向けられたら、内部から爆破したり、破壊衝撃を受けて吹き飛んだりと自由に使えるが、弾丸は一発。一度引き金を引けば十五秒程の装填時間を要する。


「そして『超振動ナイフ』だ」


もう一つ渡されたのは鞘に入れられたナイフだった。

そのナイフは一度抜けば刃が振動して鋭利さを上昇させる。

だがそれは気休めでしかなかった。もしもその武器を使う事態に陥れば、その時点で死んだも同然だった。


ナイフと小威銃を見つめるD/七九三号。

みすみす死ぬ事は分かっているが、死にたくはないと思っている。


「時間だ、転送装置に乗れ」


S/五二一号が命令する――――。



【選択肢】

1/ナイフでS/五二一号を攻撃して、逃走をする。

2/異世界生物の情報が無いか、とS/五二一号に質問する。

3/何も言わず、転送装置に乗る。


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