宝石の夜

雨世界

1 また、君に会えるかな?

 宝石の夜


 登場人物


 三田雪 癖っ毛の長い黒髪の明るい少女 十七歳 (嘘の)笑顔が得意


 大友幸 どこかぼんやりとしている優しい黒髪の背の高い少年 十六歳 無口


 大友福 中学生の少女 幸の妹 十五歳 おしゃべり


 谷口小鳩 中学生の少女 福の親友 物語の見届け人 十五歳 まるで双子のように、福によく似ている


 プロローグ


 また、君に会えるかな?


 本編


 リメンバー、ミー。(古ぼけたスケッチブックの端っこに書かれている手書きの言葉)


 もし明日までしか生きられないとしたら、あなたはその日、人生最後の日に、誰と、なにをして過ごしますか?


 死後の世界って本当にあるのかな? って、そんなことを思ってしまうときがときどきある。(……ちょっと、なさけないけど……)

 三田雪は暗い窓の外を見る。

 そこにはいつものように美しい、光り輝く大都市の夜景が広がっていた。

 その一つ一つのあかりが、まるで誰かの今、輝き続けている命の光のように思えて、雪はなんだかとっても、希望に溢れるような、感動するような気持ちになって、泣くつもりなんて全然なかったのだけど、病院の真っ白なベットの上で、一人、涙を流して泣いてしまった。


「大丈夫、雪ちゃん」

 少し時間がたったあとで、雪の病室に入ってきたいつも優しい羽根さんという名前の看護婦さんが、そう言って、いつものように優しい声と優しい笑顔で、雪に声をかけてくれた。

「はい。大丈夫です」

 にっこりと笑って涙を水色の(かえるの模様の描かれている)パジャマの袖で拭きながら、雪は(真っ白な看護服を着ている)羽根さんを見てそう言った。

 すると優しい看護婦さんの羽根さんは安心して窓のカーテンを閉めて、明かりを消してから、雪の病室を出て行った。


「おやすみなさい」と羽根さんと言った。

「おやすみなさい」と雪は言った。


 それから少しして、雪はごそごそと体を動かしてベットの中に隠してあった一冊の画用紙(スケッチブック)を取り出した。

 その画用紙にはまだ、なんの絵も描かれていない。

 そのすべてのページが真っ白なままの画用紙だった。(そこには無限大の可能性があると雪は信じていた)


「『……私たちは一日一日新しく生まれ変わる』」

 雪はその真っ白なページの一枚をじっと見つめながら、とても小さな声で、まるで魔法の呪文のように、あるいはおまじないのように、……あるいは神様に祈りを捧げるようにして、そう言ってから(それは雪が毎日眠りにつく前に行っている『おやすみの儀式』のようなものだった)雪は今日も、いつものように安心できる場所で、ぐっすりとした眠りについた。

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