最高の復讐
おじゃが
最高の復讐
「うわぁ、
5時間目の図工の時間に、私は後ろの席の
「私の絵、見てごらんよ」
そう言って
「さっすが
それを見ていた周りのクラスメイトたちは、つぎつぎと
「当たり前でしょ?私は上手いんだから」
私が手先が器用でないことは、自分でもよくわかっていた。それでも、絵を続けてこれたのは、大切な読者がいたからだ。
「
中野サチヨ、93歳。私のひいおばあちゃんで、いつも前向きにさせてくれる、大切な読者であり、アドバイザーなんだ。私は普段、彼女を
「最近絵は描いてるの?」
「……」
「なにか、嫌なことがあったの?」
なにも答えない私の顔を、
「
私の問いかけに、
「すてきな絵だと思うよ」
と答え、女神のようにほほえんだ。でも、私は納得がいかない。
「やっぱり、私の絵は上手じゃないんだ」
私はわびしい目で
「絵が上手いだけが、魅力じゃないと、私は思うな」
1週間後、私たちは小学校の校舎の絵を描くことになった。上手な人が2名、展示されるらしい。
「
そう言って周りの女の子たちは、花音をほめちぎる。やっぱり、無理なのかな。私は、絵を描く仕事につけるのかな。私はモヤモヤとしながら校舎を右下から見たアングルから写生していった。正直、立体的に書くのは上手じゃないけれど、算数の時間で習った直方体を参考にしながら紙に跡をつけていく。すると、近くで同じように校舎の写生をしていた男の子2人が、ひそひそと話している声が聞こえてきた。
「草田って、楽しそうに絵を描くよな」
「そうだよな。見ていて
その話を聞いて、私は喜びが満たされていった。そして、楽しい気分で2時間の写生の下書きが終わった……はずだった。
授業が終わったあと、担任の竹田先生は
「
と、
「ほーら、この
そう言って自慢げに話す彼女の鼻を、へし折りたくなるぐらい腸が煮えくり返っている私。それと同時に、彼女の絵に追いつけない虚しさが、私の心を黒く染めていった。
「もう、絵なんか描きたくない」
私は
「わたしは、
と
「絵が下手だから、描いても無意味だし……」
「どこが下手なの?」
「全部、ぜんぶ下手なんだもん!上手い子から、下手だねって言われたんだもん!」
私の
「
と私は不愉快な気持ちを表現した。
「上手いって、そんなに大事なことなの?」
大ばあばは私に問いかける。
「そりゃあ、大事だよ」
「
なんでいきなり字の話をするのだろうか。
「知らない、そんなこと」
「字が大きいとおおらかだとか字が小さいと内向的とかね」
「そんなの絵に関係ないじゃん」
「それは、絵に通じるところがあるんだよね。絵にも、その人の生き様が描かれるんだ。面白いもんでね」
そう言って、
「この紙はね、
「でも、
「なるほどね。絵が描きたくなくなったのはそれが原因だったのか」
「それで、どうしたいの?」
「私も
「そっか。じゃあ
「とっておきの方法?」
「それはね、バカにした相手のことを気にしないで幸せに楽しくすごすことが、最高の復讐方法なんだよ」
「でも私下手だし」
「
「……」
「
私は言われるがまま花音の絵を見せた。
「なるほど。花音ちゃんは絵のバランスがいいね」
「やっぱりそうなんだ」
「でも、
私は
「つまり、バランスがとれるようになればもっと良くなると」
「さっすが
ということは、私にも希望があるかもしれない。
「私、絵を
「うん。また出来たらわたしにも見せてね!」
そう言って、私はすがすがしい気持ちで家に向かった。
「草田のやつ、写真にも絵にも定規でマス目を作って……。なにやってるんだ?アイツは」
「しかも真剣だしな」
後ろの男の子のひそひそ話を聞いてないふりをしながら、一心不乱にマス目を引いていく。そう、これが松下花音に対抗する究極奥義『補助線作戦』なのだ。補助線を引くことでどのパーツが
「どうしたんですか?」
と聞くと、
「草田さん、補助線を使って全体のバランスを良くしようと考えたんですね。その積極性、すばらしいですよ。
そう言って、竹田先生は他のクラスメイトの写生を見るために去っていった。
っていうことは……、花音ちゃんと同等ってこと?
「やったーーーっ!!」
って言うのをこらえながら、心の中で喜びを噛みしめた。もちろん、竹田先生は私の絵を授業終わりに紹介してくれた。これで絵を描くことが趣味だって皆に宣言できる。
「
「そうかな?絵を描くことが好きだからほめてくれて嬉しいよ」
「……」
私のその対応に、
私の最高の
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