テーアイ飛空012便墜落事件②:墜落


○レイル=バルタザーレ(カカナ連邦 飛空艇事故調査委員会 テーアイ飛空012便墜落事件チーム主任捜査官(当時))の証言

 テーアイ飛空012便は、四大陸に囲まれたカカナ連邦領セントラル島へ向かっていました。


 この便はエデ大陸からの不定期便で、乗客は7人。


 キシー藩国のセタ家老と、その腹心たちを乗せたチャーター便です」





○アキラ=ムラセ(エデ帝国 キシー藩国家臣)の証言

 カカナとエデはセントラル島を挟んでそれぞれ東西に位置し、友好関係を築いています。

 家老のセタ様は主である藩国王からの命を受け、セントラル島でカカナの連邦飛空局と会合を行う予定でした。


 機材のシーシアス号型は確かに古い飛空艇ですが、帝国の基準で言えばそこまで珍しいものではありません。もちろん、世界的な飛空艇メーカーをもつカカナ連邦の人々からすれば、違う見解もあるでしょうが(と彼は苦笑)


 シーシアス号はカカナ連邦にあるブブルグ社製の飛空艇で、古代の竜人がジェットエンジンと呼んでいた推進機関を搭載する飛空艇としては、古い世代のものです。


 数百人を乗せる巨大飛空艇が活躍する昨今の国際線では、すっかりその姿を消しましたが、短距離の国内線では生産数を活かして今なお現役です。


 2発のジェットエンジンは主翼よりさらに後ろの胴体最後部に取り付けられ、垂直尾翼の頂上から水平尾翼が左右に伸びている、いわゆるT字尾翼が特徴です。



 ……当時、我が殿は帝国の発展が飛空艇産業にあると見ておられました。


 が、帝国の飛空業界の有様では、とても発展など望めません。ご公儀の目を掻い潜る無法者達の巣窟と化していたのです。


 そういった者達への対策をどう講じるのが得策か、カカナ連邦飛空局と国際的な協力を模索するのが、セタ様の目的でした」





○レイル=バルタザーレ(カカナ連邦 飛空艇事故調査委員会 テーアイ飛空012便墜落事件チーム主任捜査官(当時))の証言

「テーアイ飛空012便が飛空交通管理部と通信したのは、カカナ標準時22時30分。月のない曇った夜でした。


 テーアイ飛空012便は20時00分にエデ帝国のキクス国際空港を出発。

 西のエデ大陸から東のセントラル空港までは、あと30分を予定していました。


 機長はタニハ=モモチ、副操縦士はゴロウ=イシカワ。

 彼らはセントラル飛空交通管理部に対し、決められた呪文を唱えました。


『セントラル・コントロール、テーアイ012、フライトレベル350』と」






○アルバート=ミラー(カカナ連邦 セントラル飛空交通管制部 対空席担当)の証言

「その日は、いえ、その日もとても忙しかったです。

 なにしろあのときのセントラル島は、魔剣士の世界大会が初めて開催されたときでしたから。

 そうです、世界王者を決めるあの大会です。会場は今も昔もセントラル島ですよ。

 定期便はもちろん、大会目当ての不定期便が列をなして押し寄せてきました。セントラル区は世界で一番せわしない空路ですから精鋭が揃ってますけど、それでも目が回るような忙しさでした。


 で、はい、012便ですね、テーアイ飛空の。


 はい、その時刻、テーアイ飛空012便からの呪文詠唱を確かに確認しました。管制室で。

 なのでこちらも


 『テーアイ012、セントラル・コントロール了解』


 と呪文を返して、続けて針路に関する呪文の遣り取りもしましたよ。決まり通り。


 『テーアイ012、方位080を維持。魔導灯台"ココア"の通過を報告せよ』

 『セントラル・コントロール、テーアイ012、方位080を維持。魔導灯台"ココア"の通過を報告』


 こうした遣り取りは、古代竜人の儀式をそのまま模倣してます。

 彼らは飛空艇が迷わないよう、広い海や地上に魔導灯台を作り、そこから誘導魔法を出してたようで、僕らもそれを真似ました。


飛空艇の航法ゴーレムは自分の速度や方角からある程度の自分の位置を割り出せるんですが、距離が長くなるほど誤差が大きくなって、国際線みたいな長距離便だと、結局は灯台を目指して通った方が安全なんです。


 大魔術師ダークスターの打ち上げた魔導衛星なら、天空から飛空艇を誘導してくれるんですが、対応している飛空艇はまだまだ少なくて……当分は魔導灯台を順繰りに通過して空港まで飛ぶ方式が主流になると思いますよ。


 ともかく、その後は担当する他の飛空艇への対処に追われました。


 けどある時、管制魔導卓に表示されるテーアイ飛空012便を見ると、おかしなことに気付いたんです。

 ……コースが、ずれてたんです。

 012便は東じゃなくて、どんどん北に向かってたんです。

 びっくりして呪文を唱えました。


『テーアイ012、方位を修正せよ。方位120』


 普通ならここで012便から復唱の呪文が返ってくるはずなんですが、何も来ませんでした。


『テーアイ012、魔導通信の感度を確認せよ!』


 呼びかけを何度も行いましたが、反応はありませんでした。

 012便はとうとう真北を向いてしまいました。


『テーアイ012、応答せよ、応答せよ!』


 で、そうしたら突然、僕の使ってる魔導卓が鳴いたんです。警告の声で。

 すぐ気付きました。

 魔導卓には012便の速度と高度が表示されてるんですが、その高度が凄い勢いで下がってるんです。普通じゃあり得ない降下率で。


 墜落だ……、と血の気が引きました。


『緊急事態! テーアイ012急速降下中! 通信応答なし!』


 僕は管制室全体へ警報しました。訓練通り。

 隣の席の空路調整担当が魔導卓を覗き込んで、「なんてことだ…」と呟きました。

 012便の高度の数字は、目を背けたくなるほど小さくなってました。


 そしてすぐ、魔導卓の表示から、機影が……消えたんです」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る