俺は美少女召喚師!全人類がありふれた職業が天啓として与えられた中で、俺の職業がめちゃくちゃ頭おかしい件!

@kokorotokokoro

第1話始まりの声

 子供の頃から何かに打ち込むことが大好きだった。特に一つのことにのめり込めば日常の嫌な出来事も忘れられて、どんなに酷い状況でも何かにハマっていれば全然怖くないのだ。


 例えば、家が崩壊して瓦礫に埋もれた時はルービックキューブにハマっていて、うす暗い闇の中でも瓦礫の下敷きになっているのも忘れ、救助隊の声に反応することもせずに片足が折れようともパズルを解いていた。携帯ゲームに熱中するあまり、電池が切れるか親が止めに入るまでずっとプレイを続けていたり、歯医者で麻酔の量を誤まって激痛の中でも医者に指摘もせずに倫理問題について考えていた。


 親はそんな俺を心配していたが、中学の頃に大学生レベルまで勉強に打ち込んでトップクラスの成績を修めていたのでカウンセリングにも通わせた理せずに個性として認められて放置されている。




「キャラの排出率とアイテムの排出率のバランス悪いよなぁ……」




 そしてそんな俺、大刀気合だいとう きあい は大学生になった今、ソーシャルゲームにハマっていた。プレイヤーランキング一位を三年以上も守り続けている為に廃プレイヤーと言っても問題ないレベルに達している。


 もっとも、この過疎ゲーで一位を維持することはそんなに難しいことではないのだが。






 『美少女大戦』という五年前にリリースされたもはや化石と言っても良いコンテンツ。現在では最大手のソシャゲメーカーであるガチャクルンの最初期の作品である本作品は、発表当時は大いに盛り上がったが、流石に五年という時間と日進月歩のソシャゲ界隈では二年もしない内に衰退が始まった。


 ゲームの内容も、ガチャを回してカードに描かれている様々な美少女を召喚してキャラクターを育成する古典的なタイプである。キャラクター毎に様々なイベントや選択肢が用意されて親愛度を上げていくのであるが、一昔のコレクティブルカードゲーム(CCG)の要素とギャルゲー要素の組み合わさった当時は斬新でも時代とともに色褪せて、今ではアクティブユーザーは数百人と居ない有様となった。






「カードもコンプリートして、キャラクターレベルもマックス……そろそろ引退が近いかなぁ」




 眺める画面は廃課金と時間をドブに捨てた結果のカンストした美少女たち。札束でぶん殴るタイプのソシャゲではないので、新規が今の俺と同等の勝負がしたいのであれば数千万はぶち込まないと俺が積み上げてきた美少女には敵わないだろう。


 そしてこんな五年前のソシャゲでは競い合う相手も居なければ、もうやり込む要素も何もない。ただ淡々と毎日一時間程のランク戦を完勝して一位を維持するだけ。いくら何かにのめり込む俺であろうと限界が見えて、他に打ち込むモノを探そうという時――




『おめでとうございます!あなたの職業は美少女召喚師です!』


「ん?」




――空耳なのか幻聴なのか頭の中にそんな声が響いた。




「あー……マジか」




 俺は幻聴として片付けたが何となく『幻聴』とツイッターで検索をしてみると、俺と同じように謎の声を聞いたという呟きが、数百数千と書き込まれていた。それも留まることを知らずに、トレンドで瞬く間に取り上げられてネット上では大騒ぎになる。




「絵描きは職業、画家。ボクシングは、拳闘士。医者はそのまんま、医者。俳優も俳優で、学生も職業に入るのか……ん、ヤクザもまんまかよ……」




 真偽は不明であるが、聞こえた声の職業を各々が呟いて互いに自身の関連について探っていた。そして俺はその山のような謎の声の職業の一覧が有志でネット上で纏められるのを眺めながら――




「漁師、警官、運転手、学生、賭博師、軍人……どれも現実の職業と言っても良いものばかりだな……俺のようなファンタジーな職業はないのか?」




――wikiに纏められ、謎の声が認定した職業は全てが現実の職業の延長線上であった。




 もっとも、超能力者だとか魔術師と嘯く輩も居るには居るが、声を聞いたほとんどが現実の職業である為に無視されたり、そんなファンタジーな職業はある訳ないと嘘付き呼ばわりされたりし、wikiに纏められても誰かが消したりするので全貌は把握できないでいた。




 俺はパソコンを立ち上げて、これが世界規模で起こっているものだと知り、朝方まで情報を集めているが、声を聞いた結果に特別な力を得たやモンスターが現れた等の報告は全くないので、この事態に政府の緊急放送では集団幻聴であるので国民は落ち着いてください、と月並みの言葉で片付けられた。




「日本は宗教色薄いからネットで騒ぐ程度だけど……海外はヤバいなぁ……」




 何しろ耳が聞こえない者ですら声が聞こえた為に、宗教指導者にこの現象は何のなのか?と信者たちが殺到する事態になったり、終末論者が騒ぎだしたり、これは神の声だ、悪魔の声だのと言い争いになり殺し合いに発展したりと大パニックである。


 日本でも陰謀論者が全人類の思考操作の実験だとか、三百人委員会による洗脳だと騒いでいる者も居るが、誰も憶測でものを言っている為に小規模で留まっている。




「ふわぁ……なんだかどうでもよくなってきた。少し寝てから大学に行くか」




 しかしどれだけ調べても、超常現象といえるのは謎の声だけであり、現実に発生した実害はその声に踊らされる馬鹿どもであるので急激に危機感も萎み睡魔が襲う。




 そもそも美少女召喚師ってなんだよ。意味分かんねぇ……。




 そう内心でツッコミを入れながら、タイマーを朝の十時にセットして朝焼けの空を眺めながら俺はそのままベッドの中に倒れるように眠りに入る。




 不思議は不思議でも……所詮はただの声。どうでも……いい……。




 そして眠りに落ちる寸前で――




 『第一段階は終了したました。肉体の更新を始めます』




――また謎の声が聞こえたが時既に遅く、俺はそのまま闇に落ちる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る