第146話 家
何も考えずに作った物置小屋を修正するべく、まずはすぐに分かるところから始めることにする。
まずはドアを作る。
実際の使い勝手を考えれば考えるだけ、構造は細かくなっていくはずだ。
そうなれば、作る時に精密な魔力制御が必要になるだろうから、訓練の目的としての効果も高まるはずだ。
とりあえずドアを作ってみる。
開き扉のドアだ。
蝶番も付けて、開け閉め出来るようにして、ドアノブも付ける。
「重っ!」
僕はドアを開けようとして、思わずに口に出す。
強度を上げた土の塊というのは、石と変わらない。
何も考えずに開けようとした結果、ドアが開くことはなく、肩が外れそうになった。
身体強化をして、ズズズズ!と音を立てながら両手でドアを開けた結果、蝶番が壊れた。
そして、ドアが大きな音を立てて倒れる。
元々訓練場で物置を建てている僕の方を見ている人はいたけど、さらに注目が集まる。
恥ずかしい気持ちに耐えつつ、作ったドアを一度砂に戻して、作り直す。
問題は蝶番の強度とドアの重さ。
それから、ドアと建物本体との隙間だ。
あれではドアを閉めても中に風がバンバンと入ってきてしまう。
何度も試行錯誤をして、とりあえずドアは完成した。
完成したといっても、パーツごとに分けて何度も作り直した結果、なんとか許容出来るものになったというだけだけど……。
でも、蝶番作りは熟練度を上げるのには良かったと思う。
記憶を頼りに、建物側には丸い受けを、ドア側には丸い穴の開いた大き目の金具をそれぞれ10個ずつ取り付けて、そこに丸いピンを入れる。
建物側とドア側で穴の位置がズレるとピンがうまく差さらないし、ピンが穴よりも小さすぎるとドアがスムーズに動かずにガタガタになる。
材質は変えられないので、ドアは開け閉めしても自壊しないギリギリまで薄くして、隙間がないように枠に対してキッチリ作る。
風などで勝手に開かないように、鶏小屋に付いているような留め具も作った。
本当はドアノブを回すと留め具が引っ込むように作りたかったけど、構造がわからなかったのでここは妥協する。
遅くなってしまったので、今日はここまでにして寮に戻る。
ちゃんと魔力量を増やす訓練をしてから寝る。
これを1日のサイクルとして、少なくてもロック君と戦って、お姉ちゃんに勝つまでは続けようと思う。
訓練漬けの日々を過ごしていたある日、いい知らせが届く。
お母さんとお父さんが王都に着いたという知らせだ。
今日の自主訓練はお休みして、お姉ちゃんと建ててもらったまま放置していた家に行く。
「ただいま」
帰ってきたという感じは全くしないけど、今日からはここが実家になるので、ただいまと言って僕は入ることにする。
お母さんもお父さんも玄関にいた。
「おかえり。本当にこの家で合ってるの?立派過ぎない?」
家に入るとお母さんに聞かれる。
「合ってるよ。恩賞で建ててもらったからか、立派過ぎるものが建っちゃったよ。初めは落ち着かないかもしれないけど、慣れれば過ごしやすいはずだよ。もう中は見てまわった?」
「まだ見てないわ」
「それじゃあ、見て回ってから必要な物の買い物に行こ」
4人で家の中を見て回り、両親が村から持ってきた物を取り出してから、必要な物を買いに行く。
「王都を案内するね」
案内役はお姉ちゃんに取られてしまったので、お姉ちゃんを先頭に王都を歩く。
「なんだか体が楽になったわ」
お母さんが言う。
「ずっと歩くと疲れちゃうから、身体強化のスキルを掛けたよ」
歩き続けるのは大変なので、負担を軽減させる。
「疲れたら回復魔法を掛けるから言ってね」
「ありがとう。2人ともいい子に育って嬉しいわ」
「今はどこに向かっているんだ?」
お父さんがお姉ちゃんに聞く。
「教会に向かってるよ。神父様にお母さん達を紹介するね」
「神父様にはエレナが何度もお世話になってるから、ちゃんとお礼を言わないといけないわね」
「そうだな。あの時神父様が偶然村に来てなければエレナは助からなかっただろう。改めてお礼を言わないとな」
前にお姉ちゃんが神父さんに病気を治してもらったって話かな……?
「お姉ちゃんの病気ってそんなに酷かったの?」
「あの年はずっと不作でね。食べる物が全然なかったの。病気にならなくても飢えて死んでしまうほどにね。それなのに、エレナったら私達の知らないところでエルクに自分のご飯を分けてたのよ。それで自分が体を壊したの。体の弱かったエルクよりも先にエレナが体を壊したからおかしいと思って、やっと判明したのよ。あの時、冬を越せるだけの食料は残ってなかったの。1日でも長く生きて欲しかったから、2人にはご飯を作っていたけど、家族全員で死ぬのを待つしかなかったわ。神父様が村に来たのは食料が底を尽きた後だったから、エレナがエルクにご飯を分けてなければ、エルクは死んでいたと思う」
知らなかった。
僕は昔、お姉ちゃんに命を救われていたみたいだ。
「神父様が村の不作を心配して、雪の中食べ物を運んで来てくれたんだ。そのおかげでこうして家族4人、笑っていられる。神父様には感謝してもしきれない」
神父様は僕の命の恩人だった。
僕は大事なことを知らずに生きていたみたいだ。
「お姉ちゃんは僕の代わりに病気になってくれたんだね。ありがとう」
「覚えてないからお礼を言われても恥ずかしいだけよ」
照れながらお姉ちゃんが答える。
覚えていない過去の話を聞きながら歩いて、教会に到着する。
「神父様、両親が王都に引っ越して来ましたのでご挨拶に来ました」
お姉ちゃんが神父さんを呼んできて、両親の紹介をする。
「娘がお世話になっております。また、以前に助けて頂いたこと、改めてお礼を言わせてください。本当にありがとうございました。おかげでこの子達の成長した姿を見ることが出来ています」
お父さんが神父さんにお礼を言う。
「私に出来ることをしたまでですので、あまり気になさらないで下さい。エレナちゃんは教会の仕事を頑張ってくれています。私には手に負えない方の治療もしてくれていまして、エレナちゃんに感謝している方は沢山います。エレナちゃんが以前に私が助けた女の子というのは不思議な縁を感じます」
「今後とも娘をよろしくお願いします」
「もうご両親には話をしたのかい?」
神父さんがお姉ちゃんに聞く。
「まだしていません。まだ王都に着いたばかりなので落ち着いてから話そうと思っていました」
「時というのは長いようで短い。話せる時に話した方がいい」
「はい。神父様の仰る通りです。家に戻ったらゆっくりと話をします。相談に乗ってくださりありがとうございました」
お姉ちゃんは何か神父さんに相談をしていたらしい。
お母さん達には言いにくいことみたいだし、いい事ではないのかもしれない。
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