第139話 side 俺④

エルクのロックされた記憶を覗こうと俺は試行錯誤していたが、突破口を見つけられぬまま時間だけが過ぎていく。


長期休暇が終わり、エルクのクラスに転入生がやってきた。

エルクは宿題のことで頭がいっぱいのようで、クラスに1人増えていることに気づいていない。


このアンジェリーナという女は無視できない。

強奪というスキルを持っている。


強奪というスキルを見て、俺と同じで神から貰ったのかと疑う。


エルクを俺が鑑定すると、エルクと俺の鑑定結果が別枠で表示される。


フレイという女も同じだ。

フレイ ハーベストとロザリーという2人の鑑定結果が表示される。

これは1度の鑑定で2人鑑定されたということだ。


学院長の場合は同じ枠の中に名前が複数表示されるので、また別である。


アンジェリーナを鑑定しても1人分しか鑑定結果は表示されない。

強奪のスキルをどうしたのかは不明のままだが、俺のような存在がアンジェリーナの中にいるわけではなさそうだ。


アンジェリーナは意を決したようにエルクに強奪のスキルを使用した。


これは学院長とアンジェリーナの会話を盗み聞きしていたのでわかっていたことだ。


学院長はエルクが特殊なスキルを持っていると睨んでいるようで、アンジェリーナに奪わせて、自分の都合の良いように使わせるつもりのようだ。


アンジェリーナの境遇に関しても聞いていたので、いくらでも創れるスキルの一つくらい奪わせてもいいかと放置した。

俺が自ら出来ることもないしな。


一応、俺から創造のスキルを奪った時の為に強奪のスキルを創っておいた。


エルクは認識していないから俺が獲得しているスキルを使えないだけで、認識させれば創造と同様に強奪も使えるはずだ。

だからエルクには、今後水晶で鑑定させるわけにはいかない。

俺が獲得した、エルクには身の覚えのないスキルがたくさん表示されるからだ。


創造を奪われたら、エルクに強奪させて奪い返すように仕向けようと思う。


エルクはアンジェリーナにアイテムボックスのスキルを奪われた。

創造ではないからいいが、運が悪いとしかいいようがない。


火魔法とかなら奪われたところですぐに創り直せるのに、よりによってアイテムボックスか……。


エルクはアイテムボックスが使えないことに気づき、意味がわからないようで慌てた後、ヘコんでいた。

アイテムボックスに入れていた物もなくなったので、さらに落ち込む。


頑張れと陰ながら応援するしかない。


それからさらにしばらく経ち、エルクが護衛訓練をすることになった。


訓練当日、冒険者が護衛対象役をするという話だったが、そこにいたのはライオネットと名乗る学院長だ。

見た目は冒険者で、顔も違う。

学院長は変装というスキルが使えるようなので、多分このスキルを使ったのだろう。


俺には鑑定が使えるのでバレバレだが、エルク達はあれが学院長だとは気づいていないようだ。

まあ、鑑定結果以外は完璧なので気付く方が異常か……。


学院長の企みは全てわかっており、今まで様子を見てきてやっと動いたのかという印象だ。

企み通りに進むならエルクに危険はないので放置する。

エルクに訓練に参加しないように念を送ったところで、なんだか参加しない方がいいのかなって思うだけで、理由のわからないエルクは参加することになるだろうしな。


学院長はエルクがアイテムボックスを使っていると言い、作り話っぽい話をエルクにした。


アンジェリーナから強奪でアイテムボックスを奪ったという話を聞いていたから気づいたのか、カマをかけたのかどちらかだろう。


馬車の中にはエルクの姉であるエレナの姿をしたイルラという女が乗っている。

この女が何者か詳しくは知らないが、学院長の変装のスキルでエレナに化けている。


エルクは姉と再会したことに喜んでいるが、姉の皮を被ったイルラと話をしているうちに少しずつ様子が変わっていく。


学院長のように別人に変装するなら気付かれないが、知り合い……それも姉と話しているのだ。

鈍感なエルクであっても流石に違和感を感じているようだ。

偽物だと確信は得られてないみたいだが……


イルラがエルクのスキルについて探りを入れてくる。


同じ馬車にラクネも乗っており、王子も話の聞こえるかもしれない所にいるので話しはしないと思うが、一応創造のスキルの事は話すなと念を飛ばしておく。

あれは本物の姉ではないからな。


本物の姉は学院長の家で幸せそうに寝ている。

後で記憶がないことにする為の工作だ。


夜になり、エルクとイルラが焚き火を囲っている時、エルクがイルラに村にいた時の話をする。


エルクはイルラが本物の姉のエレナかどうかを確認するつもりのようだ。

エルクの中で既に半信半疑のようだ。


エルクが確認している途中、エルクの結界が化け物によって破壊される。

エルクは化け物に風魔法を放つが傷を負わせることも出来ない。

これは学院長が魔法で作った魔物もどきなので、学院長より弱いエルクには倒せない。


イルラがエルクを一人で逃す茶番を見せられる。


エルクがラクネを逃している間に、イルラが身を隠して代わりに姉の姿をした女が寝転ばされる。


この女は盗み聞きした所ではアリエラというらしいが、鑑定しても何も表示されない。

死んでいるからだろう。


化け物は自演自作で倒されて、エルクと王子が現場に到着する。


エルクは化け物がライオネットによって倒されていることに感動した後、姉が死んだ事に気づき絶望する。


学院長はエルクにアリエラを姉が死んだと勘違いさせて生き返らせるのが目的だが、エルクにはそんな事は出来ない。


学院長の企みはここで終わっているので、この後どうなるのかは俺にはわからない。


エルクがアリエラの遺体に回復魔法を掛ける。

もちろん生き返る事はない。


エルクは姉の死を諦められないのか、回復魔法に使う魔力を溜め続ける。


ピキっ!


エルクが制御の限界を超えた辺りで俺が閉じ込められている空間にヒビが入った。


エルクは制御を失いながらもさらに魔力を溜め続ける。


エルクの魔力は完全に暴走して、エルクの制御から離れて暴れ出す。

それと同時に俺を閉じ込めていた空間の壁は完全に壊れた。


エルクの体が俺の意思で動く。


「ははは…………あはははは!」

笑いが止まらない。

遂に外に出られた。

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