第136話 探索

お母さんから一緒に王都に帰ることは出来ないと断られてしまった。


「なんで……?ぐすっ」

断られる可能性はあったわけだけど、実際に断られるとは思ってなかった。

家が完成して、もう少ししたらいつでも会えるようになると勝手に思っていた。

期待が大きかった分、落胆も大きく、涙が出てきた。


「お母さんの言い方が悪かったわ。村を出るにも色々と準備があるから明後日に一緒に行くことは出来ないってことよ。せっかくエルクが家族で一緒にいられるように考えてくれたんだもの。もちろん引っ越しはするわよ。ただ、話をちゃんと直接聞くまでは決められなかったから、明後日までには準備が間に合わないってだけよ」


「ほんと?」


「勘違いするような言い方をしてごめんね」


「よかった……」

一緒の馬車で王都に行けないだけだった。

僕はホッと一安心する。


「家の中の物を整理したり、畑とか土地を返さないといけないから、早くても1週間は掛かるわ。村の人に挨拶回りもしたいから、2週間後くらいにゆっくりと向かうわ。遅くても雪が降る前には王都に着くように向かうわね」


「うん。待ち遠しいよ」


「それで、あの馬車のこと教えてくれる?」


僕は馬車を借りた経緯を説明する。


「2人が無事でよかったわ。あまり危険なことに首を突っ込んだらダメよ。でも、お貴族様ばかりの学院で友達が出来たみたいでよかったわ。お勉強はみんなに付いていけてる?村だと勉強することはないから、心配してたのよ」


「う、うん」

実際には算術以外は全然付いていけてないけど、飛び級しているので仕方ない。


「勉強が出来なくてもエルクには他に良いところがたくさんあるからね。学院での事、お母さん達に教えてくれる?」

お母さんにはバレバレのようだ。


「うん」


僕とお姉ちゃんで学院での出来事を話す。

どうしても良いことばかり話して、自慢話みたいになってしまったのは仕方ないと思う。


「2人とも魔力が多いとは思っていたけど、それほどだったのね。なんで私達からこんな優秀な子達が生まれてきたのか不思議なくらいだわ」


ご飯を食べ終わってからも話続ける。


「もう寝る時間よ。お母さんもまだ聞き足りないけど寝ないとダメよ」

まだまだ話したい事はいっぱいあるけど、寝る時間になってしまった。


「うん……。あ、お母さん達に布団を買ってきたんだ。暖かそうななやつだから使って」

僕はアイテムボックスから布団を取り出す。


「ありがとう。寒くなってきたから嬉しいわ。早速使わせてもらうわね」

お母さんが布団を敷く。


「お母さん、一緒に寝ていい?」

「あ、お姉ちゃんズルい。僕も一緒に寝たい」


「急に甘えちゃって。4人で一緒に寝ましょう」


僕は懐かしい温もりに包まれて就寝した。


翌日、お母さん達は村を出ることにした事を村長や村の人に話してくると出掛けていった。


「私達は何しよっか?」

お姉ちゃんに聞かれる。


村には基本的には何もない。

なのでお母さん達がいないとやる事がない。


「少し森の方に行かない?動物が村を荒らしに来るって言ってたでしょ?森に食べる物が全然ないなら今度は魔物が村に来るかもしれないし……。何もなければ、散歩ってことで」

妙に森の方が気になった。

今行っておかないと後悔する気がする。


「前にお母さんが森には魔物が出るから近づくなって言ってたけど……今なら問題ないわよね。他にやる事もないし行こっか」

魔物とは何度も戦ったので大丈夫だ。

流石にルインダンジョンの魔物よりも強いということはないだろう。


「うん。一応シールドと身体強化、隠密は掛けとくね」

僕は自分とお姉ちゃんに魔法を掛ける。


お姉ちゃんと森に向かう。

村長から馬車は戻ってきているけど、散歩も兼ねているので歩いていく。


森に入る手前で猪を見つけた。


「村のみんなにお土産にしよう」

僕は風魔法で猪を狩って、アイテムボックスへ入れる。

血抜きや解体は出来ないので、それは村の人に任せるしかない。


「まだ森に入ってないのに猪がいるなんて、やっぱり森の中には食べ物がないのかな?」

お姉ちゃんが言った。


「そうかもしれないね。少し中に入ってみよう」


僕達は森の中へと入っていく。

気分は探検だ。


「普段がどのくらいなのかわからないけど、あまり木の実とかはなってないね」

比較対象が無いけど、お姉ちゃんの言う通り多くはないと思う。


「草もあまり生えてないよ。食べ尽くされたのかな?枯れてる感じにも見えるけど……。もうすぐ冬だからかな?」

正直、動物達がいつも何を食べてるのかよく知らないので、影響があるのかはよくわからない。


僕達はさらに奥へと進む。


動物を見掛けるけど、どれも痩せているように見える。

やはり森の中に食べ物がないから、動物達は村へと行っているようだ。


歩いていてずっと何かが引っ掛かっていたけど、ようやく違和感に気付いた。


「お姉ちゃん、魔物を見た?森に入ってからスライムですら1匹も見てないよ」


「見てないわ。これだけ歩いていて、動物はいるのに魔物はいないのはおかしいわね。でもそんなことありえるのかな?魔物も動物もいないならわかるけど、魔物だけいないなんて……」


「何か理由がありそうだね」


異変に気付きつつもさらに森の奥へと進んでいく。

森の奥に行くにつれて、木の実などの食べ物を見かける。

動物達はお腹が減ってもこの辺りに近寄らないみたいだ。


そして、異変の元凶と思わしき物体を発見する。


禍々しい色をしたヘドロのような液体が池のように広がっており、その中には魔物が無数に浮かんでいた。


「お姉ちゃん、ここって元々池だったのかな?」

僕は現実を見て見ぬふりして聞いてみる


「森に入ったことないから知らないよ。そんなことよりもマズいよね?」


「……うん。魔物がいなかったのはこれが魔物を吸い寄せてたからかな?魔物は生きてるみたいだし、魔物を餌として吸い寄せたわけじゃないのかな?」

プカプカと気持ちよさそうに浮いている魔物はどうやって食べているのかわからないけど、丸々としている。

この液体が魔物の栄養となっているのかもしれない。


「そうかもしれないね。何でこんなことになってるのかわからないけど、放置しない方がいいよね?村長さんに報告した方がいいかな?」


「村長に報告しても、領主に報告するか、冒険者を呼ぶくらいしか出来ないんじゃないかな?とりあえず浮かんでる魔物は倒しておく?」


「そうね……。見えている魔物は倒しておいてから村長に報告して、後は任せるのがいいかもね」

お姉ちゃんも魔物を倒すのには賛成のようだ。


ガサっ!


とりあえず魔物を倒そうかと思ったところで、後ろから音がしたので振り向くとローブを深く被った男がいた。


「大分集まったな。そろそろ頃合いか」


隠密を掛けていたので、僕達には気づいていないみたいだ。


「この人がこんなことをしている元凶みたいだね。様子を見ようか」


「そうね」


僕達は男の動向を探ることにする。

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