第135話 帰省

生まれ育った村の近くまでやってきた。


村の中は騒ついている。

馬車が来たからだ。

しかもフランベルグ家から借りた馬車には、家紋まで入っている。


貴族が来たのだと騒ついているのだ。


税の徴収を除き、この村に貴族関係者が来ることは珍しい。

僕が覚えているのは2回だけだ。


1つは盗賊に食料等を奪われたから補給させて欲しいというもので、もう1つは馬車が故障して動けなくなったので、迎えが来るまで滞在させて欲しいというものだ。


どちらもトラブルによるもので、この村に用があるわけではなかった。

貴族の申し出を断ることは出来ないので、村長がその時は代表して対応し、村にある貴重な食料を集めて提供していたけど、村にとって悪いことばかりではない。


謝礼を貰ったからだ。

相手にもよるだろうけど、僕の覚えている2つの時は、後日謝礼として食料が村に届けられた。


もちろん謝礼があるかはわからないし、貴族にも悪い人がいるのは村の人も理解している。

そもそも貴族を騙った悪人かもしれない。


そういうこともあり、良くも悪くも貴族関係の馬車がやってくると村は騒つくのだ。


村の前で馬車を一度止める。

村長が走ってきたからだ。


「村長のスルグと申します。本日はどういったご用件でしょうか?」

村長が御者台にいるお姉ちゃんに聞く。


家紋のある馬車に乗っているからか、子供だからと対応を変えることはないようだ。


村長はお姉ちゃんだということには気づいてないのかな?


「村長さん、お久しぶりです。エレナです。弟のエルクと帰省で来ました。この馬車はフランベルグ家からの厚意で借りているだけなので、以前のように接してください。後で改めて挨拶に行きます」

お姉ちゃんが答える。

僕も馬車から顔を出して挨拶する。


「エレナちゃんか。大きくなってて気づかなんだ。エレナちゃんが王都に行ってから……2年くらいじゃったか?エルク君も元気そうで何よりじゃ」

村長は僕達のことを覚えていてくれたようだ。


小さい村ではあるけど、覚えていてくれたのは嬉しい。


また後で挨拶に行くので、村長とは軽く話だけして家に帰る。


騒ついていたからか、お母さんとお父さんは家の外に出ていた。


「お母さん、お父さん、ただいま」

「ただいま」


2人でお母さんに抱きつく。


「おかえり。無事に帰ってきてくれて嬉しいわ。手紙の事もだけど、あの馬車の事も教えて欲しいわ」

お母さんは頭を撫でてくれながら、少し困った顔で言った。


「僕もお母さんに話したい事が沢山あるよ」


「楽しみね。畑の収穫だけしてくるから、中で休んでて。疲れたでしょ?」


「僕も手伝うよ」

「私も」


「すぐに終わるから大丈夫よ」


「……そうなの?それじゃあ先に村長さんの所に挨拶してくるね」


「わかったわ。気をつけてね」


僕はお姉ちゃんと馬車で村長の家へと向かう。


「村長さん、改めましてお久しぶりです」

村長の家を訪ねて、挨拶する。


「2人とも連れて行かれてしまって心配じゃったが、元気そうで安心した。今は学院は休みなのかの?」


「休みです。冬前の休みは短いので明後日に戻る予定です」


「それだけしか居られないのか。寂しくなるのう。村におると世情に疎くなる。外のこと教えてもらえるじゃろうか?」


僕達は村長に王都の事を話す。

内容は世間話のようなことばかりだ。


「フランベルグ家に馬車を借りたと言っておったじゃろ?あれはどうしたんじゃ?」


僕は村長にローザの事を説明する。

先日、街が襲撃されたことも説明したけど、馬車自体は元から貸してもらえる話になっていたと話す。


「物騒じゃのう。2人が無事で良かったが、領主様が狙われたとなれば継承権絡みかのう。内乱になって儂らにまで招集が掛からなければよいが……」

徴兵されたら断ることは出来ない。

逃げるなら家を捨てて今の領主が所有する領地から離れなければならない。

冒険者や商人なら可能かもしれないが、農民には無理である。


「……馬車に食料を積んできたので、多くはないけど村の人に分けて下さい」

重い空気を変えるように、お姉ちゃんが積荷の話をする。


村長のところに来た目的のメインは食料を渡すことだ。


アイテムボックスに入っていたので、積んだのはさっきだけど……


「気を使わせてすまないな。今年はあまり収穫出来なんだから皆喜ぶじゃろう」


「育ちが悪かったんですか?」


「動物が畑を荒らしに何度も来てな。魔物じゃないだけマシじゃったが、それでもかなりの量をやられてしまったわい。冬を越せない者も出るかと思っておったが、2人のおかげでなんとかなりそうじゃ」

動物が何度も来るってことは、森で動物が食べ物を確保出来ない状態になっているのかな?


「それは何よりです。私達はそろそろ帰りますね。積荷はどうしたらいいですか?」


「家の前にそのまま馬車を置いておいてくれれば、村の者に降ろさせよう。食料じゃから皆喜んでやってくれるはずじゃ。馬車は降ろし終わり次第届けさせる」


「わかりました」


僕は村長の家を出てお姉ちゃんと歩いて帰る。

お姉ちゃんにはよく散歩に連れて行ってもらっていたので懐かしい気持ちになる。


「「ただいま」」

家に着いたら、お母さん達も畑から戻ってきていた。


「おかえりなさい。もう少しでご飯が出来るからね」


「うん。村長さんが畑を動物に荒らされたって言ってたけど、うちは大丈夫だったの?」


「うちの畑は荒らされてないわ。何度か荒らしには来たけど、諦めて帰っていったみたいよ。エルクが作ってくれた塀のおかげね」


「塀が役に立ったんだね。作っておいてよかったよ」

うちの畑の周りは僕が前に作った塀に囲まれている。塀の上にはネットを掛けてあるので鳥も侵入出来ないはずだ。


「話してる間に出来たわ。持っていって。食べながら色々と教えてちょうだい」


「うん」


ご飯を食べながら、家族で話をする。

王都で食べるご飯の方がもちろん豪華だけど、家族揃って食べるご飯の方が美味しく感じる。

懐かしい味がする。


「何があったか色々と聞かせて欲しいけど、先に爵位をもらったって話を聞いていいかしら。それと家の話もね」


僕は両親に説明する。

勇者のことは秘密にしないといけないので、国が探し求めていた装備をたまたま見つけたと話した。

断ったらダメらしいので、仕方なく準男爵になってしまったと話す。


「それで、褒美で家と土地をもらったんだ。手紙でも書いたけどお母さん達も王都で暮らせるように。やっぱり離れて暮らすのは寂しいから、一緒に王都に帰ろう」

手紙に書きはしたけど、返事はまだ聞いていない。


「いつ村を出るの?」


「明後日だよ」


「それなら一緒に行くことは出来ないわね……」


「えっ……」

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