第127話 不審者
ダイスくんとの話が終わった僕はラクネの家へと戻る。
するとラクネの家の近くに黒いフードを被った怪しい人影が見えた。
ここから見えるだけでも5人いる。
さっきダイスくんから聞いた話を考えるとリリスちゃんを取り戻しに来たのではないかと思う。
もしかして後をつけられていたのかな……。
ただ、怪しいというだけで本当にそうだとは限らないので、少し隠れて様子を伺うことにする。
僕は隠密のスキルを使用して不審者に近づく。
「クソ!やっぱりどこからも入れない。どうなってるんだよ」
1人がイラつきながら呟いている。
やはりラクネの家に侵入しようとしているようだ。
「昨日も同じだっただろ?最悪目立ってもいいと言われている。色々と今日は持って来ているから、この見えない壁を壊すぞ」
昨日も来ていたらしい。
昨日、家全体に結界を掛けておいてよかった。
ラクネの部屋だけにしていたら、ラクネの家族に危険があったかもしれない。
男は近くにあった木箱から大きなハンマーを取り出し、結界をぶっ叩く。
ガン!ガン!
大きな音が鳴ったことで、近くの家の人が何人か出てくる。
侵入しようとしていた人達は、物陰に身を隠した。
「少しずつ試すのは良くない。落ち着いた所で一気にやるぞ」
「こんな所であれを使って本当に大丈夫か?」
「何人か死ぬかも知れんが、失敗したら俺達の命がないんだ。それに俺達にあれを持たせた時点で使えということだ。やるしかない」
あれってなんだろ?
僕は木箱の中を漁る。
中には色々と武器が入っていた。剣やハンマー、斧など入っている。
武器の他に丸い魔道具が入っていた。
これのことかな……?
何かわからないし、とりあえず全部回収しておくか。
僕は木箱ごとアイテムボックスへ入れる。
僕はお姉ちゃん達に外のことを教える為に、一度家の中に入る。
外には出て来ていなかったけど、ラクネの両親とお姉ちゃんが玄関まで出て来ていた。
僕は一旦隠密を解く。
「やっぱりエルクね。急に玄関の扉が開いたから驚いたわ」
「驚かせてごめんね」
「さっき近くで大きな音がしたけど、エルクは何か知らない?今確認しに行こうかどうかを迷っていたんだけど……」
「この家に侵入しようとしている人が少なくても5人はいたよ。さっきはそのうちの1人がハンマーで結界を叩いたんだ。さっきダイスくんに聞いたんだけど、リリスちゃんについてた護衛の人も、人質にする為に第二王子派が差し向けた人なんじゃないかって言ってたよ。だから外にいる人達はリリスちゃんを狙って来てるんだと思う。危険なことに巻き込んでしまってごめんなさい」
僕はラクネの両親に謝る。
「実際には危害を受けていないのだから謝らなくていいわよ。それに娘達からエルクくんのこともエレナちゃんのことも聞いているから、なにも心配はしてないわ」
ラクネのお母さんに言われる。
「ありがとうございます。リリスちゃん達は今はどうしてるの?」
「ラクネちゃんの部屋から出ないように言ってあるわ。家の中に万が一入って来たら私が、万が一私をすり抜けたとしてもリーナがリリスちゃんを逃してくれるわ」
正面から攻めて来てお姉ちゃんがやられるとは思えないので、僕でいうところの隠密などのスキルを使って戦わずにすり抜けるしかない。
「お姉ちゃん、これが何かわかる?」
僕はさっき見つけた魔道具を見せる
「なにこれ?」
「何人か死ぬかも知れないみたいな物を使うって言ってたんだけどこれかなって。とりあえず使われる前に回収したんだけど、これじゃなかった場合に困るから、捕まえてくるね」
「……気をつけてね」
「うん。万が一の為にみんなにスキルを追加で掛けておくね」
僕は全員に隠密のスキルを掛けてから外に出る。
外に出て来ていた近所の家の人は戻っていったようだ。
「おい、武器がなくなってるぞ。どうなっている?」
不審者は木箱があった場所に集まっていた。
「探せ!あれがないとこの壁を壊せないだろ」
あの魔道具がさっき言っていた“あれ“で合っていたようだ。
僕は土魔法で4人を拘束する。
「なんだ!動けねぇ。どうなってやがる」
僕は声を出せないように口元まで土魔法で覆うことにする。
「くそ、壊れねぇ。硬すぎる。おい、俺はどうしたらいいんだ」
拘束しなかった1番下っ端ぽい男がオロオロしている。
僕はしばらく男を見守る。
「助けを呼んでくる」
男は仲間をこのまま放置して離れるようだ。
僕は拘束した4人に隠密を掛けて隠してから、男について行く。
男は薄暗い路地裏の方に入っていき、周りを気にしながらボロボロの家の中に入っていった。
僕も入らせてもらう。
床に隠し扉があり、男は地下へと降りていく。
「ボス!すみません、しくじりました。兄貴達が拘束されてます」
地下には10人程おり、筋肉質の男がここのボスらしい。
ドン!
ボスが机を叩きつける
「しくじっただと!それで1人だけ逃げ帰ってきたのか」
「……は、はい」
逃げて来た男は萎縮している。
「……ふぅー。何があった?」
ボスは一度息を吐いた後、事情を聞く。
「例の家を襲おうとしたのですが、ハンマーで叩いたくらいでは入ることが出来ませんでした。それで他の家の住人が出て来たので身を潜めていたら、いつの間にか木箱ごと用意していただいた武器が無くなっていました。それでどうするか話し合っていた時に兄貴達が土に覆われて動けなくなりました」
「……なんでお前は動けるんだ?」
「……わかりません」
「バカ野郎!お前はつけられていたんだ。何者かは知らないが、ここがバレたと考えるべきだ。お前らここは捨てるぞ」
「……すみません」
「あいつらはお前がここに来ることを止めなかったのか?」
「……喋れなくされていました」
「まあいい。どちらにしてもお前1人ではどうしようもなかったか。任務を失敗すれば俺達は切られていただろうからここに来たのは正解だったのかもしれない。全員であの家を襲って王女を誘拐した後、別のアジトへ移動する。すぐに出発するから準備しろ」
「外に出ている団員はどうしますか?」
「……部隊を2つに分ける。1つは俺と誘拐しにいく。もう1つは散らばっている団員に知らせろ。入れ違いになった奴の為に暗号を残しておく」
ボスはそう言って壁に文字を書き始めた。
暗号と言っていたし読む事は出来ない。
男達は準備が終わり、武装した状態で地下室から出ようとする。
「おい、出られないぞ。どうなってる」
先頭にいた男が喚く。
「ボス!あの家と同じです。見えない壁があるんです」
「クソ!閉じ込められた」
僕が結界を逆向きに張っただけだ。誰でも入ることは出来るけど、許可した人しか出ることは出来ない。
僕は風魔法で男達を部屋の奥へと吹き飛ばした後、土魔法で拘束する。
これで地下室に入らないと異変には気づかないだろう。
外に出ているという団員が戻ってきて地下室に降りれば、出れなくなる。
悪い組織みたいだし、この際だから全員捕まえよう。
僕は防音のスキルも使い、中の音が外には漏れないようにしてから、ラクネの家へと戻る。
「終わったよ」
僕はお姉ちゃんに知らせる。
「もう大丈夫なの?」
「アジトまで突き止めて制圧しておいたから大丈夫だと思うよ」
「そこまでやったのね。それじゃあみんなには安心して寝ていいって伝えておくね」
お姉ちゃんはラクネの部屋へと入っていった。
僕は拘束した人達をどうするか迷う。
衛兵に知らせるべきか、冒険者ギルドに知らせるべきか……。
僕は迷った結果、ダイスくんに知らせることにした。
狙われているのはリリスちゃんだろうし、どうするかはダイスくんに相談してから決めよう。
「拘束した人達をどうするか、ダイスくんに相談してくるよ。お姉ちゃんは先に寝てていいからね」
僕はお姉ちゃんに行き先を伝えてから家を出た。
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