第126話 傀儡

初等部を回り学院祭を楽しんだ後、ローザ達と別れてまずはラクネの家へと向かう。


お姉ちゃんに最終日、前に紹介したローザ達と劇を見にいくから特別席をまた貸してほしいと頼む。


二つ返事で了承してもらった。


それから、僕はダイスくんと2人で話をしたいので、リリスちゃんのことをお姉ちゃんにお願いする。


リリスちゃんはお姉ちゃんやラクネ、リーナさんと大分仲良くなったし、お姉ちゃんに護衛をお願いすれば誰が襲いに来たとしても安心出来る。


みんなにシールドを掛け直して、ラクネの家に結界を張ってから僕は寮に戻り、ダイスくんの部屋へと向かう。


「どうしたんだ?こんな遅くに」

ダイスくんは部屋に戻っていた。


「今じゃなくてもよかったんだけど、ダイスくんに聞きたいことがあってね。それから報告することも」


「とりあえず、中に入ってくれ」

僕はダイスくんの部屋に入る


「それで何が聞きたいんだ?」


「先に報告の方からするね」


「ああ」


「ダイスくんの妹のリリスちゃんの護衛を学院祭中は僕がすることになったよ」


「……エルクが護衛してくれることに関しては特に言うことはないが、なんでエルクが護衛することになってるんだ?確か冒険者ギルドに高ランクの冒険者を手配してくれるように頼んだはずなんだが」


僕はダイスくんに経緯を説明する。


「ありがとう。礼を言わせてくれ」


「ローザから聞いたけど、普通の護衛はあんなんじゃないんだってね。相当のハズレを引いたんじゃないかって言ってたよ」


「多分そうじゃない。嵌められそうになってたんだ。タイミングが良すぎる」


「どういうこと?」

運悪く粗暴な冒険者が依頼を受けちゃったってことじゃないの?


「ここ数日、俺は学院祭に行けてなかっただろ?それは城での会議に参加していたからなんだが、その結果によっては俺を支持する派閥が大きく力を増すことになる。会議の内容に関しては話すことは出来ないが、会議は明日までの予定なんだ。多分第二王子派の誰かがリリスを人質にとって俺に言うことを聞かせようとしていたんだと思う。護衛がリリスを害そうとすれば防ぐのは難しいからな。だからエルクには感謝している。多分俺が相手の思惑に気付いたとしても、護衛に扮してリリスに近づかれていたら助けることは出来なかった」


「そうだったんだね」


「俺の憶測に過ぎないが、冒険者ギルドがそんな明らかにおかしい人間を王族であるリリスに付けるとは思えない。どこかで護衛が入れ替わったと考えた方が納得がいく。それで今リリスはどこにいるんだ?」


「ラクネの家にいるよ。護衛はお姉ちゃんにお願いしたから安心していいよ。学院祭の間は護衛のためにラクネの家に僕も一緒にリリスちゃんと泊まることになったからね。何かリリスちゃんに用事があったらラクネの家に来てね」


「エルクの姉が見てくれているなら安心出来るな。それから、ラクネの家を俺は知らないから教えてくれ」

僕はダイスくんにラクネの家の場所を教える


「わかった。報告ってのはこれだけか?」


「うん。そうだよ」


「それじゃあ聞きたいことっていうのを言ってくれ」


「今日、第二王子に会ったんだ。継承権争いに敗れた方は悲惨な末路を辿るって聞いたんだけど、ダイスくんは王座に就いたら第二王子をどうするつもりなの?」


「言われていた通りになったな」

ダイスくんは小声で呟いた


「言われていたって誰に?」


「いや、なんでもない。忘れてくれ。エルクが心配しているのはクウザのことだろう?」


「うん。ダイスくんのお母さんの事も聞いてるし、ダイスくんが王様になるっていうのには僕も応援するんだけど、今の状況になってるのって僕のマップのスキルが起因してるよね?普通に探索してたらあんな隠し部屋は見つかってないと思うんだ」


「ああ、そうだな。それに前にスレーラ領のダンジョンを発見してくれただろ?そのおかげでリリスがムスビド家と婚姻を結ばずに済んだ。それから、リリスが間違えてスキル書を使ってしまっても何も言わなかった。俺はエルクに助けられ続けた結果、今の地位に立っている」

忘れていたけど、スキル書をリリスちゃんが間違えて使っちゃったんだったね。

リリスちゃんが大きな恩があるって言ってたのはこのことかな?


「ムスビド家って何?」

知らない貴族が出てきたので聞くことにする


「いい噂の聞かない伯爵家だ。あの日、エルクがダンジョンを見つけていなかったらリリスはムスビド家と婚約するはずだった。財政難で断れなかったんだ」


「そうだったんだね。そこまでは知らなかったけど、僕がいなかったら第二王子が王座に就いてた可能性が高かったんだよね?」


「ああ。正直手詰まりだった」


「だから、僕のせいで第二王子の将来が真っ暗になるのは嫌だなって思って、ダイスくんに王様になったら第二王子をどうするのか聞きにきたんだよ」


「まず先に言っておくが、クウザが俺が王座に就いた後に反逆するなら容赦をすることは出来ない。国のトップが争っていたら国が荒れるからだ。それをわかった上で聞いて欲しいが、俺はクウザを悪いようにするつもりはない。母上の件であいつの母親には恨みはあるが、だからといってあいつにその恨みをぶつけるつもりもない。形はこれから模索するしかないが、クウザが俺と一緒に国の為に動いてくれるなら何も問題はない話だ。腹違いとはいえ弟を国の為に犠牲にするつもりはない」


「嘘はついていない?」


「ああ。これが嘘だったらエルクが俺を止めに来ればいい。エルクが敵に回ったら、俺が王になっていようとどうしようも出来ない」


「わかった、信じるよ。ダイスくんがそういう風に考えていて良かった」


「ああ、敵に回したくはないからな」


「止めはするかもしれないけど、敵になんてならないよ?」


「ああ、そうだな。それからクウザを反逆させない為には一つ問題があるんだ」


「何が問題なの?」


「今のクウザは母親の傀儡なんだ。王の座を狙っているのも実際のところクウザではなくその母親だ。正直なところ、クウザの母親を今すぐにでも処刑することは可能だ。今回の護衛の件もそうだが、スレーラ領にオークが大量発生した事件で、第二王子派の貴族が手引きしていた証拠が上がってきている。その貴族を問い詰めれば間違いなく繋がるだろう。だからといって母親を処刑すればクウザは俺のことを恨むだろう。そしたら一緒に国を担っていくのは無理になる」

オークの大量発生ってもしかして遺跡のやつかな?ローガンさん達と入ったやつ


「オークの大量発生って遺跡のやつ?」


「ああ、そうだ。エルクも知ってたんだな」


「僕もローガンさん達と一緒に、その時遺跡に入ってたからね。僕は罠を見つけてただけだけど」


「そういえばその頃にスマスラ遺跡と間違えてスレーラ領に行ったって言ってたな。これもエルクが関わっていたのか……」


「そうみたいだね。ダイスくんはなんとかして第二王子を母親の傀儡じゃなくするつもりってことだよね?」


「ああ、そうだ。俺はクウザ本人は悪いやつじゃないと思っている。小さい時から母親に思想を毒されているんだ。だからなんとかしてクウザの意思で母親に歯向かえるようにしてやりたい。自分の意思で行動が出来て、まともな教育を受ければあいつが反逆するとは俺は思っていない。それでも反逆してくるなら最初に言った通り返り討ちにするしかないがな」


「それなら僕はダイスくんを全面的に応援するよ。頑張ってね」


「ああ、任せてくれ。エルクが俺の肩を持ったことを後悔しないようにする」


「聞きたいことが聞けてよかったよ。あと、会議は明日までって言ってたよね?最終日は空いてるの?」


「ああ、最終日くらいは学院祭に参加するつもりだ」


「最終日にお姉ちゃん達の劇をみんなで見る約束をしているんだけど、ダイスくんはどうする?僕はもう一回見たんだけど、迫力がすごくて感動したから絶対見たほうがいいと思うんだ。席も特別に用意してくれているからゆっくり観れるよ」


「そんなにスゴかったのか。なら俺も観させてもらおうかな」


「わかった。お姉ちゃんに1人追加だって言っておくね」


「ああ、頼む」


学院祭最終日が待ち遠しいな

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