第125話 妹

翌日、ラクネの家を出た僕とリリスちゃんは中等部の女子寮の前へと向かう。

今日はラクネとは別行動だ。

ラクネはリーナさんと学院祭を回るらしい。


僕はローザ達と回る約束をしているので、女子寮の前で待ち合わせをしている。


女子寮の前に着くと、既にローザ達が外で待っていた。

ルドガーさんも一緒だ。


「お待たせ。ルドガーさんお久しぶりです。今日はフレイの護衛ですか?」


「エルク様、その節はお世話になりました。本日は私が代表して皆様の護衛をさせて頂きます。お嬢様方全員に専属の護衛を付けられますと大人数になりすぎてしまいますので」


「そうですよね。またお願いします」


「お任せください」


「エルク、少しいいかな?」

到着してすぐフレイに呼ばれて、みんなと少し距離をとる


「どうしたの?」

僕はフレイに聞く


「私と話をした後から元気がなかったわよね?大丈夫?」


「大丈夫だよ。フレイの話を聞いて思うところがあって悩んじゃってたけど、そんなことはなさそうだってわかったからね」


「そう。よかったわ」


「心配させてゴメンね。ありがとう」


僕とフレイはみんなのところに戻る。


「焼きそばを代わりに売ってくれてありがとうね」

僕はちゃんとお礼を言えてなかった気がしたので、改めてお礼をする。


「気にしなくていいわよ。置いてあるのを売るだけだし、一緒に私達が作った料理も売れたからね。元気になったみたいで良かったわ」

ローザに言われる


「うん、心配してくれてありがとう」


「エルクに1つ聞きたいのだけれど、なんでリリス様と一緒にエルクがいるの?」

ローザに聞かれる。リリス…様?

ローザよりも上位の貴族なのだろうか。


「リリスちゃんとは前に1人で依頼を受けた時にたまたま知り合ったんだよ。元々付いていた護衛の人があんまりな人達だったから代わりに僕が護衛することにしたんだ。気持ち的には護衛というより遊びに誘ったって感じだけど」

僕はローザ達に先日の護衛と揉めた件を説明する。


「そんな護衛聞いたことないわね。貴族の護衛をさせるのだから、依頼を受ける側もある程度選別されるはずだけど、相当なハズレを引いてしまったのかしら。エルクが護衛してくれる状況だったのだし、すぐにでも解任して正解だったわね。そんな護衛だと、本当に危険な状況になった時に見捨てて逃げそうね。それに守るどころか危険を作りそうで怖いわ」

ローザに言われてやっぱりあの人達はおかしかったんだなと再認識する。


「そういうわけだからリリスちゃんも一緒に学院祭を回ってもいいかな?」


「私はいいわよ。敵対派閥ってわけでもないし。フレイとアメリもいいかしら?」

やっぱり貴族は派閥とか気にしてるんだね。

それからやっぱりリリスちゃんは貴族のようだ。


「いいわよ」「構わない」


「ありがとう」


ローザ達がリリスちゃんに自己紹介する。

面識自体はあるようだけど、家名も名乗るガチガチのやつをしている。


「あの……そんなにかしこまらないで下さい。皆さんのところに私がお邪魔しているのです」


「リリスちゃんもこう言ってるし、そんなに気を張らなくてもいいんじゃないの?そもそも学院では貴族だとか平民だとかは表向きかもしれないけど関係ないんでしょ?」

堅苦しい空気では楽しみが半減すると思ったのでローザ達に言う。


「そうね。そうさせてもらうわ。それからエルク、ちょっといいかしら?」

今度はローザとみんなから距離をとる


「一応確認だけど、リリス様が誰かはちゃんとわかって護衛しているんでしょうね?」

ローザに聞かれる。


「誰ってどういうこと?貴族だってことはわかってるよ。ローザよりも格が上ってことはかなり偉い貴族みたいだね」


「わかってなかったようね。貴族の護衛をする時はちゃんとどこの家の者かを確認するようにした方がいいわよ。派閥とかは今のところエルクには関係ないからそこまで気にする必要はないけど、護衛する方法なんかも変わるだろうから。それからリリス様は王族よ。第一王女になるわ」


「え?……とういうことは、リリスちゃんはダイスくんの妹なの?」

ローザの言ったことに驚く。

ダイスくんに妹がいる話は知ってたけど、リリスちゃんがそうだとは知らなかった。


「そうよ。ちなみに私達3人の家は第一王子側の派閥に属しているわ。リリス様を女王にさせようとしている派閥もあるけど、実質的には第一王子側の派閥みたいなものだし、敵対する必要もないから良かったけど、私達が第二王子側だったら断るしかなかったわよ」


「そうなんだね。教えてくれてありがとう」

リリスちゃんに友達がいない理由がわかった。

ダイスくんが前に教えてくれた。

ダイスくんのお母さんの事で、妹も孤立してしまっていると。


「ローザ達もリリスちゃんと友達になってあげてね。無理にとは言わないけど、リリスちゃんはいい子だよ」


「立場的に私から友達になってとは言いにくいわ。だけど、リリス様が友達だと思って下さるなら、私個人としては断る理由はないわ」


「貴族って面倒だね」


「それが上に立つものの責務なのよ」

貴族は貴族で大変なんだなぁと思う。


僕達はリリスちゃん達のところへと戻る。


「エルク達は昨日までどこを回っていたんだ?」

アメリに聞かれたので、昨日はお姉ちゃん達の劇を見て、一昨日は中等部で騎士と学生の模擬戦を観戦していたと答える。


「あの劇、スゴい話題になってるのよね。見たかったわ」

ローザが呟く。


「最終日もやるって言ってたよ」


「昨日もスゴい人で混雑してたんでしょ?さらに人は増えるだろうから見にいけないわよ。昨日行かなかったことを後悔してるわ」

ローザは劇を見なかったことを残念がっている。


「お姉ちゃんに特別席を貸してもらえないか頼んでみようか?」


「特別席って?」


「観客席の一段高い所に天幕の張られた所があるでしょ?あそこだよ」


「あそこって使っていいものなのかしら?」


「いいみたいだよ。僕達は昨日そこから観たよ。スゴかったから人混みが嫌だって理由で見ないのはもったいないよ。リリスちゃんはもう一回観たい?」


「観たい!」


「それなら最終日にみんなで観れるようにお姉ちゃんにお願いしておくよ。少し狭いかもしれないけど、それは許してね」


「いいのかしら?」


「一応、お姉ちゃんに聞いてみないと断言は出来ないけど、ラクネがリーナさんに特別席を用意してあるって元々言われてたみたいだから大丈夫なはずだよ。今日の夜にお姉ちゃんに会うから聞いておくね」


「ありがとう。お願いするわね」


最終日はローザ達とお姉ちゃん達の劇をもう一度観ることになった。


「ローザ達はどこを回ったの?」


「昨日までは自分達の出し物をやってたから、順番に中等部の出し物を少し見たくらいよ」


「そうなんだ。今日の予定とかって何か考えてる?」


「実を言うと最近エルクの元気がなかったから、エルクを楽しませようと3人で考えてたんだけど、もう元気になってたから予定が狂っちゃったわ」


「気を使わせてたみたいだね。ありがとう」


「そういうわけだから特に予定は決めてないわ。高等部の方は最終日に行くことになるわけだし、初等部の方に行ってみようかしら?」


「僕はそれでいいよ。リリスちゃんもいいかな?」


「はい」


僕達は初等部に行き、目的は決めず目に入った出し物を覗いていく。


「エルク、少し離れましょう」

楽しく見ていた時、ローザから言われる。

離れるって何から?って思ったけど、ローザが見ている方を見て何から離れるのかはわかった。

理由はわからないけど……


そこには僕よりは年上だろう多分初等部の男の子がいた。


護衛を連れており、同級生と思われる男の子が2人一緒にいる。

僕達だけでなく、他の人も少し距離を空けているようだ。


一緒にいる男の子2人は友達なのかなって思ったけど、なんだか違う気がする。

僕の主観でしかないけど、友達っていうより従者って感じだ。

中心の男の子は一見楽しそうに見えるけど、なんだか寂しげに見えなくもない。


向こうも僕達の方を見た後、意図的に離れるようお互いに距離をとった。


「さっきの男の子は誰なの?」

僕はローザに聞く。


「あの方は第二王子のクウザ様よ」


「そうなんだ。なんだかピリピリしてたね。それに周りの空気もおかしかった」


「それは仕方ないわよ。少し前までは第二王子が王座に就きそうだったのに、今は第一王子派が優勢になってきている。今が第二王子派にとって生きるか死ぬかの瀬戸際なのよ。周りもどちらに就くべきか様子を伺っているの」


「みんな仲良く出来ればいいのにね」

僕は思ったことをポロッと口に出してしまう。


「無理よ。王座に就けなかった方の末路は悲惨だもの。それを知っていて手を取り合うなんて出来ない。それに私も無関係ではないわ。クウザ様が王座に就かれたら、フランベルグ家の権力は落ちてしまうわ。その影響はフランベルグ領の民にまで及ぶもの」


「軽々しく言ってごめんね」


「エルクが謝ることではないわよ。それに私も内心はそう思うわ」


「王座に就けなかった方の末路は悲惨だって言ったでしょ?どうなるの?」

少し聞くのが怖かったけど、知らなかったとはいえダイスくんに肩入れしてしまっている僕は聞かないといけないと思った。


後悔しているわけではないけど、僕がいなければあの装備は手に入ってない可能性が高い。

そうなればダイスくんの派閥が優勢になることもなかった。


「王座に就いた方がどうするかだけど、今までの通例だと軟禁のような状態になるわね。ある程度の自由はあるけど、反逆されないとも限らないから、牙を剥くことが出来ないようにはするのよ。罪を犯しているわけではないから殺されることはないと思いたいけど、何かしら理由を付けて処刑させるかもしれないわね」


「ダイスくんが王座に就いたら、さっきの男の子がそうなるのかな?」


「私にはわからないわ。エルクが何を思っているのかは大体分かるけど、知りたいなら本人に聞くしかないわ。ただ、甘い選択をすれば爆弾を背負った状態で王政を敷くことになるし、厳しい選択をすれば周りから反発を買うわ。どちらにしても茨の道になるでしょうけど、それを覚悟して決めているはずだからあまり引っ掻き回すべきではないわよ」


「うん、わかったよ」

ローザにはこう返事をしたけど、既に僕が引っ掻き回してしまっている以上、ダイスくんに話を聞かないといけない。

クウザって子のことはよく知らないけど、結果として僕のせいで処刑されたりするのは嫌だからだ。

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