第122話 子猫を追って

翌日、久しぶりに気持ちのいい朝を迎えた。


フレイと話をしてからずっともやもやしていたけど、スッキリとした気分だ。


朝食を食べた後、ラクネと合流する。

ダイスくんは今日も忙しいようだ。昨日の夜に明日も用事があって一緒には行けないと言われた。


その時にダイスくんからは、「元気が出たみたいでよかったな」と言われた。

パッと見でわかるくらいに表情が違っていたのだろう。


「ダイスくんは今日も忙しいから一緒には行けないって言ってたよ」


「そうなんだね。エルクくんはスッキリした感じだけど、もしかして悩みが解決したの?」


「うん。昨日ラクネが気分を変えてくれたのがきっかけになったよ。ありがとう」


「いつものエルクくんに戻って良かった」


「心配掛けてごめんね」


「大丈夫だよ。今日はどこに行こっか?」


「初等部の方に行ってみない?これなんて面白そうだよ」

僕は出し物のリストを見て、初等部にいかないか聞いてみる。


「いいよ。それじゃあ私はここに行きたいな」


ラクネも初等部に行ってもいいとのことなので、2人で初等部へと移動する。


「エルクくん、どうしたの?」

初等部へと向かっている途中に僕が突然止まった為、ラクネに聞かれる。


「急に止まってごめん。向こうに子猫がいたような気がしたんだ」


「エルクくんは猫が好きなの?」


「うん、かわいいよね。ラクネはどうなの?」

僕は前世の頃から猫派だ。こっちの猫は向こうの猫とは少し違うけど、可愛いことには変わりない。


「私も好きだよ」


「少し遠回りになるけど、こっちの道から行ってもいい?気のせいかもしれないけど、まだそこにいて逃げられなかったら触りたいなって。それにまだ子猫のように見えたから、ご飯を食べれているのか確認したい」


「いいよ」


僕達は子猫が見えた方へと歩いていく。


「あれ、いないね。気のせいだったかな?」

子猫はいなかった。


「逃げちゃったのかもしれないね」


「残念。あっちの路地裏の方に行ってみてもいい?なんだか猫が集まっていそうな感じがしない?」


「そうなの?私にはわからないけど、急いで初等部に行かないといけないことはないから、エルクくんが行きたいなら私は構わないよ」


「ありがとう。これでいなかったら諦めるよ」

僕達は猫を探しに路地裏へと入っていく。


「あ、ほら猫がいたよ。やっぱり溜まり場になってるんだ」

路地裏を進んでいくと猫が1匹いた。さっき見えた気がした子猫とは違う、大人の猫だ。


「あ、逃げちゃったね」

近付いたら逃げてしまった。


「この辺りにさっきの子猫がいるかもしれないから、少し探していい?」


「うん、私も探すよ」

2人で子猫を探すこと数分、塀に登ったりもして探したけど、さっきの大人の猫以外はいなかった。


「見つからないね。最初に見た子猫も気のせいだったかもしれないし諦めるよ。付き合ってくれてありがとう」

僕は子猫探しを諦めることにする。

マタタビを使うか迷ったけど、創ってあるものがないし、集まり過ぎる気がするのでやめておいた。


「また今度一緒に探そう」


「うん、ありがとう」

ラクネが付き合ってくれると言ってくれるので、休みの日にでもまた探しに来ようと思う。


「あ、エルクく」

「きゃっ!」


後ろ髪を引かれつつも初等部に向かって歩き出したら、人にぶつかってしまった。


「ごめんなさい」

僕が謝りながら前を向くと、首元に剣を突きつけられていた。


「え?」

予想外のことに僕の思考は停止してしまった。


「待ってください。私は大丈夫です」

僕がぶつかったであろう女の子が僕に剣を突きつけている男性に訴えかける。


あれ、この子見たことあるな。

ああ、思い出した。遺跡調査に行った時に同じ馬車に乗ってた女の子だ。

確かリリスちゃん。


学院の制服を着ているのは良いとして、なんで護衛を2人も連れているのだろうか?


「この人には大きな借りがあります。その剣をすぐに下ろしてください」


リリスちゃんは僕のことを覚えているようだ。

でも大きな貸しをつくった記憶はない。あの時、何をしたっけ?


「いや、しかし……」

迷うのはいいけど、人の首元で剣先をフラフラとするのはやめてほしい。


「いいから早く下ろしなさい」


「こんなガキは関係ないだろ。早く下ろせ」

剣を突きつけている方ではない護衛の男性も下ろすように言うが、なんとも失礼な言い方だ。


やっと首元に剣がなくなった。


「私の護衛がすみませんでした」

リリスちゃんに頭を下げられた。


「気にしてないから大丈夫だよ」

シールド掛けてるから、別に命の危険はなかった。

不愉快なだけだ。


「リリスちゃんは1人なの?友達と学院祭を回らないの?」


「私、友達いないから……」

聞いてはいけないことを聞いてしまったかもしれない。

というか、ぶつかっただけで剣を突きつけてくる護衛なんて連れているから友達が出来ないのではないだろうか?


前に会った時は護衛なんて連れてなかったのに……。

今思うと、ローガンさん達は馬車の護衛じゃなくてリリスちゃんの護衛だったのかもしれない。


僕はラクネに相談をする


「リリスちゃんも一緒に学院祭を回らないか誘ってもいい?」


「私はいいけど、護衛の人が許してくれるのかな?それに貴族っぽいけど大丈夫かな?」


「僕も前に少し話しただけだけど、貴族だからって偉ぶるような子じゃなかったよ。護衛に関しては話をしてみてかな」


「それなら、とりあえず誘ってもいいよ」


「ありがとう」


「よかったらリリスちゃんも一緒に学院祭を回らない?」

僕はリリスちゃんを誘う。


「いいの?」


「もちろん」


「何を勝手に決めているんですか?」

リリスちゃんから良い返事をもらったので一緒に行こうとするけど、護衛の人に止められた。


「護衛対象がいいって言ってるんだからいいじゃないですか」

僕は反論する


「そのせいでリリス様が危険になったらどうする気だ。一緒に行動するならお前達も俺達は護衛しないといけなくなる」

とても口が悪い。本当に貴族の護衛なのかと思ってしまう程だ。


「リリスちゃんの為に言うけど、護衛は選んだ方がいいよ。自分の命を任せるんだから」

少なくてもこの人達に僕は命を守られたくない。


「いつもは他の人なんです。前に馬車を護衛してくれていた冒険者の方達が護衛してくれているんですが、外せない用があるとのことで、この方達が学院祭の最中だけ臨時で護衛してくれているんです」

やっぱり、ローガンさん達はリリスちゃんの護衛だったようだ。


「臨時の護衛で良かったね」

僕は思ったことをそのまま口にしてしまったけど、リリスちゃんは返事をしなかった。


「このガキが!言いたい放題言いやがって」

最初に剣を突きつけて来た方の怒りが上昇している。


「落ち着け。リリス様の機嫌を損ねて解雇されたらどうする。お前もあまり怒らせるようなことを言うな。それからさっきこいつが言ったが、一緒に行くことは出来ないから諦めろ」

もう1人の護衛が落ち着くように言い、僕達に諦めるように言った。


「別にあなた達は誘ってませんよ?」


「俺達がいなければ誰がリリス様を護衛するって言うんだ。お前が代わりに危険から守るって言うつもりか?」


「そうですね。僕が代わりにちゃんと護衛しますので御2人は帰っていいですよ」

この2人がいない方が楽しめそうなので、帰ってくれないか聞いてみる


「お前みたいのに護衛が務まるわけないだろ」


「あなた達よりは護衛出来ると思いますよ」


「そんなわけないだろ。寝言は寝てから言ってくれ」


「なら、あなた達よりも僕の方が護衛として優秀か証明すれば文句はないですね。僕がリリスちゃんに危害を加えようとしますので、守ってみてもらえませんか?」


「クソガキが。いいだろう、痛い目に見せてやる」

煽りすぎた僕も悪いと思うけど、子供相手にこのセリフはヤバいと思う。

本当にちゃんとした護衛なのかな?


半ギレではあるけど、相手の了承も得たので僕はリリスちゃんを誘拐することにする。


やり方は簡単だ。

まずは護衛の2人の足を土魔法で固定する。


「うわっ!なんだ、動けねぇ」


後はリリスちゃんの手を繋いで初等部の方へと歩いていくだけだ。


「それじゃあ行こっか」

僕はリリスちゃんを連れて初等部へ向かう。

困惑しながらもラクネも一緒だ。


「おい待て、クソガキ。クソ、なんだよコレ、壊れねぇ」


「何回も叩けば壊すことが出来るはずですので、頑張って下さい。リリスちゃんはちゃんと護衛しますのでご安心下さい」


やり過ぎちゃったなぁと思いながらも、僕達はリリスちゃんと遊びに出かけた。

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