第119話 学院祭

フレイの秘密を聞いた日から、自分が何者なのかずっと考えているけど、自分が何者だろうと僕は僕だと、特に困ったことが発生しているわけでもないし、別に気にしなくてもいいのではないかという気持ちになってくる。


そんなわけはないのだけれど、なんでもないことのように考えてしまうのは何故だろうか。


僕の体の中に魂が2つある。これはなんだか気持ち悪い気がするだけで、そこまで思い悩む必要はないのかもしれない。

もちろんすごく気にはなるけど、僕の体が勝手に動いたりするわけでもないし、今のところ実害は受けていない。


ただ、今までは僕がエルクとして転生してきたのだと思っていたけど、本当は元々存在していたエルクという子供の体を僕が無理矢理奪い取ったということなら、なんでもないことのはずがない。

元々この体にあった魂を僕が体の奥底に追いやって出てこれないようにしているということだからだ。


もしそうだとしたら、この体を元の持ち主に返すべきだ。

そう思うけど、仮にそうだとして、返すことが出来たなら、僕はどうなるのだろうか?

僕が代わりに体の奥底に眠る事になるのか、それともこの体から出て成仏するのか。

はたまた魂の状態で幽霊みたいに彷徨うのか……。


わかってはいるのに、思い悩んでいるとそんな事はないと楽観的な気持ちになってくる。


「おい、エルク。大丈夫か?」

僕が悩んでいると、ダイスくんに話しかけられて僕はビクっとする。


「え、大丈夫だよ。何か用?」


「大丈夫ではなさそうだな。相談くらい乗るから、俺に話せる事なら言ってくれよ。それから今は学院祭についての話し合いの最中だけど、何か別のことを考えてる様だったから声を掛けたんだ。今はこのクラスで何をするのかを話しあってるところだ。クラスとは別にチームでも何かやらないといけない。それは後でラクネと3人で決めるから、何かやりたいことがないか考えておいてくれ」


「うん。ありがとう」

相談したいけど、こことは違う世界から来たなんて言うことは出来ないので、気持ちだけ受け取っておく。

誰にも話せない以上、自分で解決するしかない。

何か自分の体の状態を調べるスキルが創れないか考えよう。


何も解決はしていないけど、今はとりあえず学院祭の事に集中することにする。


全然話を聞いていなかったけど、1ヶ月後くらいに学院祭があるようだ。

学院祭は5日間を通して行われる。


クラス毎に何か出し物をして順位をつけるらしい。

上位に入ることは名誉なことらしいけど、何か特典がもらえるとかではないようだ。


それからチームでの出し物に関しては、他のチームと共同でもいいらしい。


今はクラスでの出し物を決めている最中とのことだけど、何をするのかが全然決まらないようだ。

僕は文化祭のようなものをイメージして、食べ物の屋台だったり、喫茶店を思い浮かべる。


みんなの話を聞いていてわかったけど、屋台とかはチームで出すのが基本のようで、クラスでやる出し物はもっと大ががりな事をやるらしい。


なんだかんだとみんなが話し合った結果、宝探しを企画する事に決まった。

学院のどこかにいくつかの数字の書かれたボールを隠して、それを学院祭に来た人に探してもらうという内容だ。

ボールを見つける事が出来れば書いてある番号の景品がもらえる。


範囲は中等部だけではなく、初等部や高等部も含まれるので、かなり範囲が広い。


初日はヒント無しで、2日目、3日目と徐々にヒントを出していくことで、5日目まで出し物を続ける予定だ。


やらないといけない事は

隠す場所を決める

隠した場所を示すヒントを考える

景品を用意する

学院祭の前日くらいにボールを隠しに行く

これだけだ。

他にやるとしたら告知と宣伝くらいなので、やる事は少ない。


僕は楽そうで良かったと思う。


この案に決まった理由も僕が思った通りで、チームの方の出し物の準備もあるので、クラスの方の出し物は大掛かりに見えて、準備に時間が掛からないものがいいという理由だ。


クラスの出し物は決まったので、次はチームの出し物を決める。


「何かやりたい事はあるか?」

ダイスくんが僕とラクネに聞く


「ごめん。特にないよ」

僕は正直に答える。今は学院祭を楽しめるような気分ではない。

ただ、特にないという答えは2人に悪いと思ったので、謝罪も付けて返事をした。


「エルクくん、最近ずっと悩んでるみたいだけど大丈夫?やっぱり元気がないよ?私に出来ることなら協力するから遠慮せずに言ってね」


「うん、ありがとう。でもこれは僕の問題だから大丈夫だよ」

フレイと話した翌日にもラクネから大丈夫かと聞かれた。

その時も今と同じような答えを返した。


「エルクくんが悩んでいるのは、私には話せない問題なの?」


「…そうだね。ラクネにってことではなくて、誰にも話せるようなことじゃないよ」


「そうなんだ…。なら聞かないけど、本当にどうしようもなくなったら話してね。私に何が出来るかはわからないけど……」


「ありがとう。その気持ちが嬉しいよ。こんな気持ちでごめんね、出し物決めようか」


「無理はするなよ。それから無茶をする前に相談してくれ。力になれるはずだ」

ダイスくんにも言われる


「うん」


その後、なんとか学院祭の方に気持ちを切り替えて出し物を決める事が出来た。


僕達のチームは焼きそばを売ることにした。

普通ならお客さんがいる前で焼いて売るわけだけど、前もって作った焼きそばをアイテムボックスに突っ込んでおき、当日に弁当のようにして売ることにする。

さらに、当日販売するのも他のチームの人に任せるつもりだ。

任せるわけだけど、集客効果としてそのチームにもメリットはあるので悪い話ではないはず……。


これは2人が僕に気を使ってくれた結果で、出来るだけ準備や当日に時間が掛からないように考えてくれて弁当形式に決めてくれた。


焼きそばにしようと言ったのは僕だ。

あれなら高等部の観客席や冒険者ギルドで作っているので既に知っている人もおり、今更隠す必要も無い。それに一気に何人前も作れる。


後日、学院祭どころではない様子の僕を見て、理由を秘密にされているのに色々と考えてくれる2人に感謝しながら、僕は2人と一緒に焼きそばを作った。

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