第120話 悩み相談
クラスの方も、チームの方も無事に準備は終わり、学院祭当日になった。
今日から5日間学院祭が続く。
僕はローザ達が代わりに焼きそばを売ってくれることになったので、ローザ達がやる出店に今日の分の焼きそばを届けた後、ラクネと学院祭を見て回っていた。
ローザは、これ目当てで来たお客さんが私達の商品も買ってくれるかもしれないから、こちらも助かるみたいなことを言っていた。それから石鹸のお礼だとも。
だから気にしないでいいと言っていたけど、やっぱりズルいことをしているよなぁと思う。
でも、接客するような気分にはやはりなれないので、正直にいってとても助かる。
「そういえば、ダイスくんはどうしたの?」
3人で回る予定だったけど、ラクネしかいない。
「朝にたまたま会ったんだけど、急用が入ったから一緒に回れなくなったって言ってたよ。えらく慌ててたから、城の方に行かないといけなくなったのかな?」
ダイスくんは王子だからね。そっちで用事が入れば学院祭よりも優先しないといけないよね。
「そうなんだね。ラクネも僕と一緒じゃなくてもいいよ。僕といても多分楽しめないよ」
「エルクくん、ずっと思い悩んでるでしょ?何を悩んでるかはわからないけど、学院祭の間くらいは楽しんだら?」
「楽しみたくないわけではないよ。でもそんな気分になれないんだよ」
「本当はダイスくんとこの学院祭でエルクくんを元気付けようって言ってたんだよ。私に悩みを解決することは出来ないかもしれないけど、少しでもエルクくんが元気になればいいなって思ってたんだよ。踏み込んでいいのかわからないけど、エルクくんの悩みって悩んでれば解決することなの?」
「……悩んでも何か答えが出ることではないかもしれない」
「だったら気分転換してもいいんじゃないかな?気持ちが変われば何か違うことに気づけるかもしれないよ。それに気持ちが落ち込んでいると、悪いことばかり考えるようになるから、悩んだ末に答えが出たとしても、多分それは良い方向には進んでないんじゃないかなって思うんだよ。……ごめんね、よく知らないのに勝手なことを言って」
「ありがとう。ラクネの言う通りだと思うよ。無理矢理になるかもしれないけど、学院祭を楽しむことにする」
「うん、そのほうがいいと思うよ。エルクくんはどこか行きたい所はある?」
ラクネが出し物のリストを見せてくれる
「えっと、学院長の所に……」
「学院長先生の所?」
なんで僕は学院長の顔が急に浮かんだんだ?
特に用事はないはずだけど……
「なんでもないよ。そうだね、なんだかお腹が空いてきたからどこかで何か食べたいな」
最近食欲がなくて、あまり食べていなかった。
実感はあまりないけど、お腹が空いたって事はラクネに言われた事で少し気持ちが楽になったのかもしれない。
「何を食べようか?とりあえず、この辺りに出店が固まっているから行ってみようか」
「うん」
僕はラクネに案内されて出店の固まっているエリアにやってきた。
美味しそうな匂いが漂っている。
僕達は目についた物を食べ歩きしながら、訓練場の方へと向かった。
訓練場では、実際の騎士の人を招いていて学生と模擬戦をしていた。
模擬戦といっても、騎士の人は手加減している感じで戦闘の指導をしているといった感じだ。
騎士と学生が戦っているのを見て、やはり自分の力は明らかにかけ離れているのだと実感する。
今なら、学生が手を抜いているわけではないことはわかる。自分が異常だと理解しているから。
でも、自分の力が周りとかけ離れていないと思っていたあの頃の気持ちで考えると、遊んでいるようにしか見えない。
騎士の人は本気ではないにしても、今まで学生同士で試合をしたりしているのを見ていたはずなのに、どうして僕は自分の力に気づかなかったんだろう?
学院長は僕には最初の内しかスキルを使っていなかったと言っていた。
それが嘘かもしれないけど、本当だとしたら流石に気づかなかったのはおかしい気がしてきた。
学院長がそう嘘を言っていただけで、実は思考を誘導していたと考えた方が納得できる。
もしも学院長が本当のことを言っていたのなら、学院長とは違う誰かに気づかないようにさせられていた?
その誰かというのが、この体にあるもう一つの魂なのかもしれない。
そうだとして、なんでそんなことをしていたのかはわからないけど、なんだか真実に近づいた気がする。
学院長に本当に僕にスキルを使っていなかったのか確認する必要がある。
「エルクくん、なんだか元気が出てきた?さっきまでよりなんだかスッキリとした表情になってるよ」
「なんだか、悩んでいたことの答えの糸口が見えた気がしたんだよ。気分転換したおかげかもしれない。ありがとう」
暗い気持ちのままだったら気づけなかったことかもしれない。
僕はラクネと学院祭の出し物を見て回った後、学院長の所へと向かった。
「エルクくん、私に聞きたいことがあるみたいだけどどうしたんだい?」
「学院長は前に僕には初めの頃にしか思考を誘導するスキルは使っていないと言ってましたよね?あれは本当ですか?」
「なんでそんなことを聞くんだい?君が最近悩んでいるという話はシリウス先生から聞いてはいるけど、それと何か関係があるのかな?」
学院長に魂が2つある話をするか迷う。
迷った結果、話せる範囲で学院長に説明することにした。
もちろんフレイのことを勝手に話はしない。
「僕は魔力を使い切っても辛くならないんです。今までは辛くなることを知らなかったんですが、自分が特殊なんだということを最近知って、なんで辛くならないのか調べたら、体の中に魂が複数あるんじゃないかって」
「なるほど。それで?」
学院長はあまり驚いていないようだ。
「さっき騎士と学生が模擬戦をしているのを見て、流石に今まで自分の力に気づいていなかったのはおかしいと思いました。学院長が嘘をついていなかったのであれば、他の誰かによって、僕が自分の力に気づかないように思考を誘導されていたのではと思いまして、それが僕の中にあるもう一つの魂なのではと思ったんです。だから学院長が嘘をついていないのだと、失礼ですが確認に来ました」
「なかなか面白い話だね。まずは質問に答えるけど、私は嘘を言ってはいないよ。これは信じてもらうしかないけど、初めの頃……詳しくいうなら君が入学した日にしかスキルを使っていない。エルク君の言う魂が複数あるという話は初耳だけど、魔力を限界まで使っても体調が悪くならない理由なら知ってるよ」
学院長はフレイから聞いた話とは別に、辛くならない理由があると言う。
「教えて下さい」
「先に言っておくけど、この話は他の人には広めないで欲しい。一応閲覧制限の掛かっている書物に書かれていることだからね」
「わかりました」
「分からないことがあったらその都度聞いてくれて構わないからね。実は魔力は体の状態を整える仕事もしていると考えられているんだよ。だから魔力を限界まで使うと、体の状態を整える為の魔力が足りなくなって体調を崩すんだ」
「そうなんですね」
「逆に言えば、魔力を限界まで使っても、体の状態を整える為の魔力を確保さえ出来れば、体調を崩すことはないってことになる。エルクくんがさっき言った魂が2つあるという話も、もしかしたらこれに当てはまるのかもしれないね。魂が2つあって、魂が魔力を持っているのだとすれば、エルクくんの代わりに体調を整えてくれているのかもしれない」
なるほど。フレイはロザリーの魔力で体調を整えているってことだね。
「実は、私もエルクくんと同じで魔力を限界まで使っても体調を崩さないんだ」
「え!そうなんですか?」
「隠していたわけではないけど、特に聞かれなかったからね。エルクくんがそうだということも今知った所だし、もっと早く知っていればその分早く悩み相談を受けることが出来たんだけどね」
フレイに続き学院長までもが、僕と同じく限界まで苦痛を感じずに魔力を使える人だった。
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