第86話 再会
護衛訓練の日になった。
中等部の前に用意された馬車に行くと、男性が立っていた。
「お前らが俺達を護衛してくれる生徒だな。俺はライオネットだ。本当に危ない時以外は何も口出ししないからそのつもりでな。出発の前に荷物を確認する。全員カバンを前に出せ」
僕はマズイと思う。
ダイスくんとラクネには荷物を渡してあるけど、僕のバッグには何も入っていない。重いのでアイテムボックスにしまっているからだ。
少しでも時間があればバッグに出す事が出来るけど……
「何してる?早く置け!」
バッグに出す時間はもらえなかった。僕は仕方なくバッグを自分の前に置く
ライオネットさんはダイスくん、ラクネと順番にバッグの中身を確認していく。
もう駄目かと思ったけど、ライオネットさんがバッグの中を漁るのではなく、自分で申告しながらバッグの中身を出していき最後にバッグが空なのをライオネットさんが確認していたので助かった。これならバッグの中から荷物を出しているフリをしてアイテムボックスから出せば隠し通せる。
僕は食料や着替えと言いながらバッグから取り出しているように見せかけて実際にはアイテムボックスから取り出していく。
「よし、持ってる物は確認した。これで足りる、足りない物は実際に使ってみて判断しろ。それとそこの、……エルクだったな。話があるからこっちに来い」
名指しで呼ばれてしまった。仕方がないので付いていく
「言いたくないなら見なかった事にするが、さっき何かしただろ?元々あのバッグにあの量の荷物は入っていなかったはずだ」
なんでバレたんだろう?
「…………。」
「言いたくないなら聞きはしないけど、もしかしてアイテムボックスのスキル持ちか?」
僕が迷って答えずにいたらスキルまで当てられた。
創造で創ったスキルだったけど、他に使える人がいたようだ
「……はい」
ここまでバレているなら白状するしかない
「やはりそうか。あの2人は知ってるのか?他に知ってる人はいるか?」
「ダイスくんとラクネは知ってます。他の人には言ってません」
「昔、知り合いに同じスキルを持ってるやつがいたが、面倒ごとに巻き込まれて命を落としたよ。国の補給部隊とか商人が喉から手が出るほど欲しがるスキルだからもっとちゃんと隠せ!気づいたのが俺で良かったが、他の奴が気づいていたらどうなってたかわからんぞ」
あまり知られるのは良くないと思っていたけど、危機管理が足りていなかったようだ。
「心配してくれてありがとうございます。気をつけます」
「ああ、そうしてくれ。あと荷物の中身を確認した意味がなくなるから訓練中は使うなよ」
「わかりました」
僕は馬車の前に戻る
「なんだったんだ?」
ダイスくんに聞かれる
「実はアイテムボックスの事がバレてて、危ないからもっと気をつけろって注意されたんだよ」
「さっきアイテムボックスから出してたのか。使えるのを知ってても全然気づかなかったのに、あの人よく気づいたな」
バレないように気をつけてはいたけど、どこか違和感を感じさせるところがあったのだろう
「昔アイテムボックスのスキルを使える知り合いがいたみたいだよ」
「そうか。それでも、注意力というか観察力がスゴイな」
「この訓練中はアイテムボックスは使わないように言われたよ」
「元からそのつもりだっただろ?」
「うん」
本当はコソッと使おうと思ってたことは秘密だ
「出発の前にもう1人の護衛対象を紹介する。まだ子供だが、回復魔法が使えるので付いてきてもらった。俺は戦う事は出来るが、なにかあった時に治療は出来ないからな」
ライオネットさんがそう言った後、馬車から女の子が降りてきた。
すごく見覚えのある顔だ。
「エレナです。教会から回復要員として同行させてもらうことになりました。よろしくね。……エルク、久しぶり」
お姉ちゃんだった。お姉ちゃんは小さく手を振っている
「お姉ちゃん、学院にいなかったけど教会で働いてたの?」
「理由があって初等部には通えなくなったの。教会はお手伝い程度よ」
「お前ら話は馬車に乗ってからにしてくれ」
ライオネットさんに呼ばれる
「ごめんなさい。すぐ乗ります」
僕は馬車に乗り込む
馬車はダイスくんが御者を務め進んでいく
「お姉ちゃん、あんまり驚いてなかったけど僕がいる事知ってたの?」
僕はお姉ちゃんに聞く
「驚いたわよ。だから落ち着くまで馬車の中で待ってたのよ」
それでライオネットさんが1人で外で説明していたんだね
「そうなんだ。教会の手伝いだけで生活できてるの?」
「回復魔法は貴重だから、よくしてくれるのよ」
そうなんだ。僕も将来教会で働くのもアリかな。でもお姉ちゃんがお手伝いなら、お姉ちゃんより回復魔法が上手く使えない僕はあまり役に立たないのかな……
「エルクはあれから何が出来るようになったの?」
創造で創った物について聞かれていると思うけど、馬車の中にはラクネもライオネットさんもいるからちゃんと答えることは出来ない。
創造は秘密ってこと忘れてるんじゃないかと心配になる
「色々出来るようになったよ。お姉ちゃんは今回みたいに冒険者の人とお仕事することがあるの?」
僕はぼかして答えて話題を変えることにした
「一応登録もしてあるし、たまに冒険者の仕事もするよ」
運が良かったらもっと前にギルドで会うことも出来たかもしれなかったみたいだ。
「エルク、そっちの子は友達?」
「ラクネだよ。御者をしてくれているのがダイスくん。友達だよ。チームも組んでるんだ」
「学院は楽しい?」
「楽しいよ。冒険者活動を一緒にやってる友達もいるし、この前はフレイって子の別荘にみんなで行って遊んだんだよ」
「楽しそうでよかったわ」
うーん。本当はお姉ちゃん、もっと学院に通いたかったのかな?
御者がダイスくんしか出来ず、代わることが出来ないことに申し訳ないなと思いながらも、ラクネも交えてなんでもないような事を話しながら馬車は進んでいく
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