第45話 再会する?
高等部での模擬戦2日目。
昨日の事もあるので僕達は大人しく観戦する。
試合の日程はスケジュールで決まっているので、試合がすぐに終わっても、長引いても、午前・午後1試合づつで終わる。
昨日は聞かなかったから知らなかったけど、この1週間で模擬戦をするのは高等部の中で成績が高いTOP20のチームで、成績が高い程出番は後になるようだ。
なので、今やっている3試合目は学内成績15位と16位の試合になる。
試合が進むに連れて戦いは激しさを増していく仕組みになっている。
それと、顔が見えないのにどうやってアピールするのか聞いたら、気になる生徒がいたら話が生徒にいくらしい。生徒側も会いたい相手なら素顔で会うようだ
顔がわからないことで、事前の評価とは関係なしに、その場の実力次第で声が掛かるため、本番1発勝負で参加者なら誰にでもチャンスがあるようにする狙いもあるみたいだ。
うまく出来ている。
午後の試合も終わり、中等部に戻って教室で今日の分のレポートをまとめてから帰る。
3日目、4日目も同様に過ぎて5日目
高等部に行って僕は驚く。人の多さにだ。
試合表の事もあり、日に日に観客は増えていたが今日の観客の数は昨日の比ではない。
予想して昨日より大分早く出発したのに座る場所が無い。
階段までもが人で埋め尽くされている。
「しまったな。考えが甘かった。しょうがないから後ろの方にまだ空きがあるからそこで見ようぜ」
ダイスくんが言う空きとはもちろん座席ではない。
通路である。最後列の通路には確かに少しだけ空きがあった。
立って見ることにはなるが、昨日と同じ時間に出発していたら、中に入る事も出来ずに見れなかったと思うと、ギリギリセーフだった。
第9試合目、成績4位と3位の試合が始まる。
熱気はすごいけど、皆の目的は次の試合のようだ。
9試合目は接戦の末、氷魔法を主軸に戦っていたチームが勝利した。
そして、10試合目が始まるまでの昼食タイムになる。
…が、こんなにギュウギュウに詰め込まれた状態では食べるのは難しい。日差しと周りの人からの熱気で汗が止まらない。
「水分摂ったほうがいいね。はい、飲んで。」
僕は2人に飲み物を渡す。汗がすごいので少し塩を入れておいた
「ありがとう」
「ああ、助かる」
それにしても暑い。
あまり目立つのは良くないと思っていたけど、限界だ。
「2人ともちょっとだけ足元開けて」
「あ、ああ」
僕は足元に桶を置いてその中に氷を入れる。
足元からひんやりとした空気が流れてくる。
「あ、涼しい」
ラクネも結構限界に近かったけど、これで少しは復活すると思う。
冷やしたはずなのに何故かさらに暑苦しくなった。
理由はわかっている。冷気につられて近くにいた人がこっちに寄ってきたからだ。
寄ってこないように氷入りの桶をそこらじゅうに置いて分散させればいいんだけど、流石に桶を何個も取り出したらおかしいだろう。
そう思って我慢していたけど、やっぱりダメだ。
僕は目立つのを覚悟で足元の床を広範囲で凍らせた。
周りの人達が急に足元が凍ったことに驚き騒がしくなるけど、これで周りから人が離れた。
それにかなり涼しくなったな。
「エルク、やりすぎだ。また反省室に送られるぞ」
「僕がやったと言わなければ……ダメかな?それにもう限界だったよ。みんな喜んでるし」
僕の周りの人は涼しくなって喜んでいる。
遠くの席にいる人は目が死んでいる気がしてヤバい。
「……そうだな。これは人助けだ。教員が来ても知らない振りをしよう。ラクネもそれでいいな?」
「うん。私も限界だった。あのままだったら倒れてたかも……。足元はいつのまにか凍ってた」
僕達の心配を他所に教官が来ることはなかった。
これだけ人が詰まっているから、来たくても来れなかった可能性もあるけど……
僕達が暑さと格闘し始めて数時間後やっと最後の試合である10試合目が始まった。
「あれ、向こうのチームは2人しかいないね」
高等部1位のチームが入場してきたけど、2人しかいなかった。
対して2位のチームは3人いる
「ああ、うちのクラスもだけど3人チームでちょうどにならなかったんだろう。2人でも高等部で1番成績がいいってのはヤバいな。」
1位のチームは異様に背の小さい女の子と獣人の女性だ
「あの子が例の去年飛び級した子?」
僕はダイスくんに聞く
「俺も会ったことないし、魔法で顔が見えないからなんとも言えないけど、背格好からするとその可能性が高いと思う。まあ背が小さいだけかもしれないけどな」
「そっか。なんかどこかで見た気がするんだけど……気のせいかな。あっちの獣人の女性はリーナさんだよね?」
リーナさんは獣人ってこともあってわかりやすい。顔に認識阻害をされていても人か獣人かはわかる。
「うん、たぶんお姉ちゃんだと思う」
「リーナさんすごいね。復学したばかりなのにもうトップのチームだなんて」
「えへへ」
ラクネは嬉しそうだ
試合は始まってすぐに決着がついた。
リーナさんが魔力を溜める。
小さい女の子も何か魔法を使っているようだけど、何をしているかはわからない。
リーナさんが溜めた魔力で炎の波を作ってそのまま相手を飲み込もうとする。
相手チームはなんとか逃れようと土魔法と水魔法で壁を作って盾にしたけど、壁が溶けて水は蒸発した。
あの炎はありえない程、高温のようだ。
炎の波はそのまま相手チームを飲み込んだ。
え、相手チーム死んだんじゃ……
炎の波が消え、そこには水の膜をドーム状に覆った相手チームがいた。
あの炎を防ぐなんて相手チームもスゴイと思ったけど、実際は違った。
相手チームがそのまま降参したのだ。水の膜の中で女の子がペタンとお尻をついている。
あの水の膜はあの小さい女の子が張ったみたいだ。
「リーナさんすごかったね」
僕は興奮したままラクネに話しかける
「う、うん。お姉ちゃんは前からすごかったけど、あんなことが出来るとは思ってなかったよ。多分、あの子が何かやったんじゃないかな?」
ラクネの視線は小さい女の子を向いている
「そうだね。あの炎もあの子の水魔法で防いだみたいだし、多分あの子の魔力の方がリーナさんより上なんだと思うよ。でも、あれだけの魔法をコントロールしてたんだからやっぱりリーナさんはスゴイよ」
ラクネは照れている
「あの女の子、噂以上にヤバかったな。ラクネのお姉さん?もすごかったけど、他の人とは格が何段も違って見えたぜ」
興奮が冷めない僕達は中等部に帰ってからも、あの女の子とリーナさんのチームの話をし続けていた。
あの女の子、どこかで見た気がするんだよなぁ。どこだったかな……
僕は女の子のことが心の奥で少しだけ引っ掛かっていた
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