第8話
「災難だったな」
ビールを飲みながらピートが言う。
「こっちは災難だと思ってない。人が多い通りを我が物顔で歩く奴らにはお灸になっただろう」
「そうそう。強くもないのに威張り散らしてる勘違い冒険者は更生させないとね」
「まぁな、あいつらは普段から素行が悪かったんだ。これでちょっとは反省してくれるといいんだがな」
ここはアルフォードの中にあるレストランの個室だ。
2人に絡んできた4人が逃げる様に立ち去ってからアランが一緒に飯を食おうとレスリーとアイリーンを誘って市内のレストランにやってきた。
「辺境領では2人は有名だ。レスリー街道にアイリーン村だからな」
狩人のロイドが言うと
「やめてほしいわね、その言い方」
アイリーンはそう言ってから、でもあの4人は知らなかったみたいだけどねと付け加える。
「あいつらは自分たちの実力をわかってない阿呆な連中だよ。ランクBのくせに自分たちが強いと勘違いしてるどうしようもない奴らさ」
精霊士のムーンの言葉にアランがその後を続けて
「あいつらの事はおいといてこの街所属の冒険者達のほとんどはレスリーとアイリーンの実力を見ている、ギルドの鍛錬場でな。そしてその後二人が辺境領内でしてくれた数々の事業のことも知っている。皆感謝してるよ」
その言葉に頭を下げる二人。
「それにしてもアイリーンがあそこで剣を抜いたのを見ることが出来た奴はいたのか?俺は見えなかった」
「アランでもか。俺は当然見えなかったぞ」
ピートが言うと他の3人もおそらく見えた奴は誰もいなかっただろうと言う。
「そしてレスリーの竜巻。かなり威力を落としてたがそれでもあの威力だ」
アランは話をしながら目の前に座っている二人を観察していた。二人ともどこで手に入れたのかわからないが高級そうなローブに身を包んでいる。レスリーはどっしりと落ち着いていて風格があるし隣のアイリーンも美人でパッと見た限りは戦士に見えない風貌だが全身から醸しだしている雰囲気は強者のそれだ。低ランクではわからないだろうが俺達Aランクならわかる。下手に手を出すと返り討ちにあうということが。
おそらく元からあった優秀な才能が開花したんだろう。一流いや超一流の戦士だ。アランがそう思って見ていると、
「二人とも普段から鍛錬はしてるからね」
料理を口に運びながら普通の口調でアイリーンが言う。
「二人ならランクSでも問題なく倒せるだろう?」
聞いてきたピートに顔を向けるともちろんよと頷き、
「レスリーは一人で倒してるわよ」
「土や木や風がそこらにあるという条件付きだけどな。もちろんアイリーンも一人で倒してるよ。リンクしたら二人別々にランクSの相手をした方が効率がいいからな」
とこちらも普段の口調だ。そこには気負いや驕りは全くない。二人とも全てが自然体だ。それがまた二人の凄みを増している。アランらのパーティメンバーは目の前に座っている二人の実力を知っているので一人でランクSを倒しているという話を聞いてもそれを疑うものは誰もいない。
「西の村に行ってきたんだろう?どうだった?」
話題を変えてピートが聞いてきたのでアイリーンが西の様子を話する。最西端の村を広くしてきたというと皆びっくりし、その村の近くを流れている川の向こう岸の森の中に入るとAランクとSランクの魔獣の生息地だったと言うとまた驚かれる。
「村を広くしてきたってあっさり言うけどさ。普通はそれって大規模工事だぜ?」
聞いていた僧侶のスミスが呆れた声で言うと周りもその通りだ。2日で村を広げてきたってレスリーとアイリーン以外の奴らが言ったら何を寝ぼけた事言ってんだって話になるよなと。そして森に入ってランクSを乱獲してきただと?全くあんた達には驚かせられてばかりだぜと。
「二人が入っていった森は俺たちも西に行った時に行ったことがある。森に入ってすぐにランクAがいるだろう?それを相手にしてたんだよ。奥にはもっと強そうな魔獣がいるだろうとは思ってたけど俺達じゃあせいぜい入口でランクAを相手にするのが精一杯だ」
アランが言うと他のメンバーも入口でも結構きつかったよなと話している。
「それよりも途中の開拓地の開発が想像以上に進んでいたのでびっくりしたよ」
レスリーが話題を変えると、
「あの開拓のおかげでこのアルフォードの冒険者、特にBランクの連中には常時護衛クエストが出ていてな。物資を運ぶ馬車や人夫の移動の護衛クエストがひっきりなしなんだよ」
とアラン。
「Bランクの人にとっては良い話じゃない」
「アイリーンの言う通りだ。そして他所からここに武者修行に来てるBランクの連中にとっても護衛クエストは美味しいクエストになっている」
レスリーはその話を聞いてなるほどと頷いてから
「1、2年もすればあの開拓地は大穀倉地帯になるだろう。そうするとここから国内各地に農産物を出荷することになってまた護衛クエストが増えるな」
レスリーの言葉に頷く他のメンバー。冒険者がクエストポイントを貯める手段が増えるのは冒険者達当人にとってはもちろん、ギルドにとっても悪い話じゃない。
「ところで西に行ってきたお二人さんは今度は南か東に行く予定なのかい?」
ピートの問いかけにアイリーンがレスリーに顔を向ける。
「アルフォードで数日休んでから南に行こうかと思っている」
レスリーが答えるとロイドが
「南の最南端の村だが、レスリー達が教えたんだろ?タケノコとお茶が村の特産品になってるよ。そして果物も美味いのがある」
ロイドが言うとその後をピートが続けて
「タケノコはアルフォードにあるレストランから引っ張りだこだしお茶は辺境領の外から商人が買い付けに来るほどだ」
「よかったじゃない。でもどうして私たちが教えたって知ってるの?」
アイリーンの疑問にはアランがさっきも言ったけどお前さん達は超がつくくらいに有名なんだよと前置きしてから、
「護衛クエストであの村に行ったこの街所属の冒険者達が現地で聞いてきた話さ。風水術士がやってきてタケノコの生えている場所を教えてくれて、ここでお茶や果物を作るといいのができると教えて貰ったって言ってたんだよ」
なるほどと言うアイリーン。一方レスリーはその話を聞いてちょっと微妙な感覚になっていた。レスリーが見つけたのではなくてあの村の近くに生えていた大木から教えて貰った話だったからだ。
食事が終わるとレストランの前でアランらと別れて一軒家に戻る道を歩いていると
「レスリー、さっきの話気にしているんでしょ?」
「まぁな。自分で見つけたわけじゃなくて大木の教えを村の人に伝えただけなのに俺が村を助けた様に言われてもな」
レスリーが言うとアイリーンは隣を歩くレスリーの腕を両手で掴んで寄りかかり、
「大木と話しができたレスリーだから出来た仕事よ。リックもマイヤーもマリアも話なんてできない。私もあの時は出来なかった。風水術士としてレスリーが自然と人間との仲立ちをしたから出来たんじゃない。レスリーがいなかったら誰もわからなかったわよ?そうでしょ?」
そう言って腕を掴みながら上目遣いに見てくるアイリーン。
「そうだな。アイリーンの言う通りだ。自然界と人間との橋渡しも風水術士の仕事の1つだ。それがきちんと出来て村の人の暮らしが良くなった。うん。それでいいんだ」
アイリーンの言葉でレスリーも気持ちが吹っ切れそのまま夜のアルフォードの街を並んで歩いて家に戻っていった。
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