第9話

「人の往来が多いわね」


 すれ違う冒険者達と挨拶を交わしたアイリーンが言う。


「賑やかになるのは悪い事じゃない」


 同じ様に挨拶をしたレスリー。そうして街道を歩き左右に森があるとその中に入って様子を見ながらの二人は途中の村で休みながら南を目指していった。


 前回なかった場所に小さな村ができていた。柵は簡易の柵で覆われているだけだがその中には宿屋や食堂などがあり数軒の民家も建っていた。


 宿に入っていった二人は受付にいた女将と思しき女性に部屋が空いているかと聞いて部屋の鍵を受け取ってから


「こんにちは。この村って以前は無かったですよね?」


「そうなんだよ。この街道の先にある村がタケノコとお茶を作り出してね。それ目当てに結構な商人がこの街道を行き来し始めてさ、ちょうど村と村との間に商人らが泊まる場所を作った方が良いだろうと領主様が村を作って下さってね。私らは他の村からここに移住してきたんだよ。農業やっている人は移住も難しいだろうけど私は元々違う村で旅屋をやってたんだよ。そっちは宿が2軒あったのもあってこの新しい村に来たって訳さ」


 快活な表情で話をする宿の女将。二人はその話を聞きながら辺境領のロン公爵の手腕に感心していた。できるだけ野営をしない様に宿泊場所を作るという一般人目線での対応はなかなかできるものではない。そして野営が減り宿に泊まれるとなれば商人も買い付けに行きやすくなりそれが物流の増加、しいては辺境領の発展に繋がる。見事な政治手腕だ。


「今の国王陛下が信頼を置いているだけあって三大貴族の人って凄いわね」


「まったくだ。私利私欲に走らず領民や商人のために働く。大した人たちだよ」


 二人は部屋でそんな話をしながら宿で一夜を過ごすと翌日再び街道を南に歩きだしそうしてアルフォードを出てから3週間後の昼過ぎに街道最南端の村に着いた。


 宿の女将は二人のことを覚えていてすぐに村長を呼んでくる。

 

 宿に入ってきた村長、二人を見ると頭を下げて


「おかげさまでこの村も賑やかになりました。これも全てあなた方のお陰です」


「タケノコとお茶が有名になってよかったですね」


 アイリーンが言うとおかげさまで村の特産品になって商人が買い付けに来てくれる様になり、それに伴って村人の生活もずっと楽になってきたと言う。


「これもそれもあなた方が私等に教えてくれた結果です。村も元気になって特産品までできました。本当にありがとうございます」


 そう言って村長がお礼を言うと宿の女将もあんた達には皆感謝してるよとお礼を言う。


 二人は村長らのお礼を聞きながら村が賑やかになってよかったと思っていた。ほとんどの人たちは日々魔獣に怯えながら慎ましやかな生活を送っている。本当ならもっと良い暮らしをしたいんだろうが現状を受け止めてその中で自分たちが出来ることをしながら日々を過ごしている。


 そんな人たちも当然幸せになる権利がある。そのきっかけをレスリーらが見つけることができてそれによって人々の暮らしが良くなったのであればそれこそが風水術士としての役目だろうとレスリーは思っていた。


 宿に泊まった翌日から二人は竹林や村の裏にある果樹園やお茶畑を見てそれらが何も問題が無いことを確認するとその旨を村長に報告する。


「竹林も計画的にタケノコを収穫されていますね。あれなら大丈夫でしょ。お茶畑や果樹園も見た感じ問題がありませんでした」


「そう言っていただくと助かります。以前皆さんが仰られた通りにしております。これ以上の収穫はわしらも望んでおらんのです。自然にあるものを大切にして少しずつ自然から頂戴する。これが最善の方法だと思っております」


 全くその通りですねとアイリーンが言う隣でレスリーも大きく頷いている。


 そうして村で3泊した二人は村人からお土産だと沢山のタケノコとお茶を貰って4日目の朝に村を出るとアルフォードに戻っていった。



「南の村は変わり無かったかい?」


 アルフォードに戻ってギルドに顔を出すとギルマスのスティーブが二人を部屋に呼んで話かけてきた。


「賑やかになってたわ。村の人の表情も以前よりずっと明るかった。街道の途中に新しい村もできてたし商人の人たちも楽に移動できるわね」


 アイリーンの言葉に頷くギルマス。商人が増えて護衛クエストの依頼が多くアルフォードを起点に東西南北と伸びている街道はどれもクエストをする冒険者達で賑わっているそうだ。


「最近じゃこのアルフォードが美味しいって話で結構他の街からも冒険者がやってきてな。そいつらも護衛クエストやダンジョンやらでここでの生活を楽しんでるんだよ」


「よかったじゃない」


「時々勘違いしてる冒険者もいるが、大抵の奴らはいいやつだ。大したトラブルもなく今んところはうまく廻ってるな」


 勘違いしてると言うことで二人は以前通りで絡まれた向こう見ずのランクBの冒険者のことを思い出したが、ああいう手合いはどこの街にでもいるだろうしここなら高位の地元の冒険者も多いので問題ないだろうと思っていた。


「それでしばらくしたらいよいよ東に向かってレスリー街道かい?」


「そうなるな。まだいつかは決めてないが」


 いまだにレスリー街道という呼び名に慣れないレスリー。ギルマスは


「アルフォードのギルドはお前さん達は大歓迎なんだ。ゆっくりしていたいだけこの街にいてくれよな」


 そう言ってギルマスとの面談を終えてギルドから一軒家に向かって通りを歩いているとアイリーンが、


「すぐに東に向かう?」


「それでもいいんだけどさ。二人でこの前のダンジョンに潜ってみないか?13層までは攻略してて14層はランクSが出てきていただろう?今の俺達ならなんとかなりそうな気がするんだ」


 ダンジョン攻略と聞いてアイリーンの目が輝く。


「そうね。リックもいないし、二人だけでどこまでいけるかやってみましょうよ」


 そうして東に向かう前にダンジョンの攻略をすることにする。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る