海神(ポセイドン)
第1話
旅立ちの用意をし大木の師に挨拶をした2人は陽が登った頃に家を出て街道を南に向かって歩き出した。ラウダーまでは前回も通っていたとは言いながらも何か変わっていなかと街道の左右の風景に目をくばりながらの旅だ。そのせいか歩みの速度は遅いが2人は全く気にしていなかった。
すれ違う商人や冒険者を見たり時には挨拶を交わしたりしながら街道を歩いて王都を出てからもうすぐ2週間となる日の夕刻に2人はようやくラウダーの街に着いた。
ラウダーに宿を取った次の日2人はギルドに顔を出すとここのギルマスのフランツとの面会を受付嬢に依頼する。
すぐに戻ってきた受付嬢に案内されて2人はギルドマスターの執務室に入るとフランツが座っていた執務机から回ってきた。
「久しぶりだな」
2人と握手をしながら言いそのままソファを勧める。
「前回はホロから王都に戻る途中だったが今回は王都から来たんだろう?どこに行く予定なんだ?」
受付嬢が持ってきたジュースをテーブルに置いている途中でギルマスが聞いてくる。
「アイマスに行ってそれからここ経由で辺境領に行くつもりだよ」
そうして受付嬢が部屋から出るとそのジュースを一口飲んで2人を見て
「お前さん2人についちゃあ行動に何ら制限をかけてはいけないってお達しがギルド本部から来ている。好きに動いてくれ。もっともお前さん達は今やランクAの5人パーティよりもずっと強いからな、全く心配はしていない」
「えらく俺達を買ってくれてるんだな」
「本当ね」
2人が言うと、
「当たり前だろう?ドーソンからホロまで2人だけで3ヶ月かけてあの森の中を抜けて来られる奴なんてこの国の中でもお前らだけだ」
2人の森の踏破については既にホロのギルドから報告が上がっていた。2人を知っているギルマス達はそのレポートを見て誰も驚かなかったという。あいつらならさもありなんという話だ。
そうだレスリーとギルマスがレスリーを見ると、
「お前さん、ホロから南の辺境領に続く街道を完全に修復させたんだろう?」
レスリーは俺だけじゃないけどなと言いながらも頷くと、
「あのホロから南に伸びている街道、レスリー街道って呼ばれてるらしいぜ」
「何だって!嘘だろ?」
ギルマスの話を聞いて素っ頓狂な声を出すレスリー。隣ではアイリーンが声を出して笑ながらレスリー街道?格好いいじゃんと茶化してくる。
「あの街道が修復してからそこを通ってホロにやってきた商人達がギルドに顔を出してあれを修復したのは誰なんだという話しになったらしくてな。たまたまそれを聞いていたホロのギルマスのポールがあれを完全に修復したのは風水術士のレスリーって奴だって言ったらそれからいつの前にかあの街道をレスリー街道って呼ぶ様になったらしいぞ」
言っているギルマスのフランツもニヤニヤしていて
「街道に人の名前が付くなんて聞いたことがない。お前相当有名になってるぞ」
レスリーはその場で頭を抱えてしまう。横からアイリーンがレスリーの背中を叩き、
「街道に名前が付くなんて凄いじゃない。羨ましいわよ」
「アイリーンまでバカにしてるだろう」
とレスリーは心底いやな顔をする。
「もう大勢の奴がそう言ってる。今から何を言ってももう遅いな。覚悟するんだな」
笑いながらギルマスが言う。
その後もしばらくその話題で盛り上がってようやくそれが落ち着くと、
「じゃあ明日の朝ここを出てアイマスに行ってくるよ。辺境領に向かう時はまた一旦この街に戻ってくる」
「時間があったらまた顔をだしてくれ」
そう言ってギルドを後にした。
「それにしても勘弁して欲しいよな」
「レスリーはそれだけ凄いことをしたのよ。もっと胸張って!」
「張れるかよ。恥ずかしくて」
ラウダーの街の宿で夜を過ごした2人は翌朝街道を西に向かって歩き出した。
アイマスに続く街道をのんびりと歩き、そうしてラウダーとアイマスの中間あたりで北の森に入っていった。
以前レスリーがデビルフロッグと言われているランクSの魔獣を討伐した沼、リック達と出会った場所に着くと目の前にある沼に視線を送る。
魔獣を討伐した沼は今は澄んで豊かな水を貯えている。沼の淵でしゃがみこみ手の平で沼の水を掬ってじっと見る。そうして立ち上がると
「綺麗なままだ。これなら大丈夫だ」
「ここでレスリーに会ったのよね」
隣にきたアイリーンの肩に手を回し
「そうそう。この沼の魔獣を倒しているときだったよな」
そうして思い出す様に沼の淵に立って静かな湖面を見てる2人。しばらくしてから
「行こうか」
「うん」
その後森を抜けて再び街道に戻るとその後も左右の様子を見ながらのんびりと街道を進んでいくと2人の前にアイマスの街の城壁が見えてきた。
アイマスの街に入るとそのままギルドに顔を出してギルマスのオリーブと面談をする。
「5人だったのが2人になっちゃったのね」
「そう。これからは2人で国の中をあちこち移動することになったの」
「2人でドーソンから南の森を抜けてホロまで出てきたらしいじゃないの。地元の冒険者ですら危険だと言って中に入らない森を2人で入って南まで抜け出てこられるのならどこに行っても大丈夫ね」
オリーブの元にもギルドのレポートは回ってきていた。ドーソンとホロのギルマスが2人とも目の前にいるレスリーとアイリーンはただのランクAの冒険者ではない。実質それ以上の実力の持ち主だと記載している。
オリーブの見方も同様だ。目の前に座っている2人は普通じゃないわと思っていた。レスリーが目立ってはいるがアイリーンの実力についてもギルドではレスリーレベルとの評価を下している。目立たないが半端ない実力者だと。
「それでアイマスではまた周辺を見て回るの?」
オリーブの言葉に頷くと、
「そう。そうして一通り見てから辺境領に向かう予定」
「わかったわ。2人は好きにしてくれて構わないけどアイマスを出るときはギルドに一声かけてちょうだい。それと王都のマイヤーから2人に伝言が来てるの。アイマスではマリアの家を使ってくれて構わないって」
「それは助かるわ。ありがとう」
「流石だな。気配りがすごい」
2人はマイヤーとリック、そしてマリアらの気遣いに感謝していた。
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