第4話
自宅に戻ったレスリーとアイリーンは暫くは自宅でのんびりとした日々を過ごしていた。朝は家の庭で体を動かしてからは家でくつろぎ、午後は森の中を2人で散策する。
「レスリーと一緒になってあちこち歩いていると私も森の中や自然に居るのが好きなんだと改めて実感したわ」
「そりゃよかった。というかアイリーンもすっかり馴染んで自然に溶け込んでるよ」
家の中でそんな会話をしていると外から話声が聞こえてきた。2人がサンデッキから出てみると家の近くで薬草取りをしている3名の初心者冒険者だ。3人は2人を見つけると
「「こんにちは」」
と挨拶してくる。見た感じ皆若く17、8歳くらいだろう。冒険者御用達の初期装備に短剣を持っている。
「薬草を取りに来たの?」
「そうなんです。やっとランクがEに上がったのでギルドのクエストで来ています」
「そうなんだ。薬草取りのクエストは冒険者は誰でも通る道だから頑張ってね」
そう言ってから1人が持っている切ったばかりの薬草の束を見ると、
「そうそう。その様に薬草を採る時は根本から抜かずに土の上に出ている葉の部分だけを切り取るのよ。そうしたら根が残ってまたそこに薬草が生えてくるから。根から抜いちゃうともう薬草が生えなくなるから気をつけてね」
そう言うとわかりましたと答えてから1人の冒険者が
「失礼ですけどここに住んでるんです?」
「そうよ。旦那と2人で住んでるの。私たちも冒険者よ、2人ともランクはA。みんなも頑張ってね」
レスリーもアイリーンの横に立つと、
「誰でも頑張れば上に行ける。手抜きや人を蹴落とすことをせずに地道に鍛錬するんだ。そうすれば結果はついてくる」
ありがとうございますと言って採った薬草を袋に入れて森から出ていく3人の後ろ姿を見ながら、
「ランクが上がってDになったらどんなジョブを選ぶのかしら」
「どのジョブを選んでもそれを突き詰めて欲しいよな」
去っていく若い冒険者を見ているアイリーンの肩に手を置いて言うと
「そうね。頑張って欲しいわね」
肩に置かれたレスリーの手に自分の手を乗せてアイリーンが言った。
そして自宅で2ヶ月程過ごした頃、
「そろそろまた国内を巡る旅に出ようと思っています」
『よかろう。2人の好きにすればよい。留守の間この家は我が見守っておこう』
「ありがとうございます」
レスリーとアイリーンは師と仰ぐ大木に挨拶をすると家から王都までぶらぶらと歩いていく。そして市内を抜けて顔パスで貴族が住んでいるエリアに入りそのまま王城の入り口に。
2人が近づくと勝手にゲートが開いてそこにいた守備隊の兵士が丁重に
「どうぞ。今日は王子に御面会ですか?」
「いや、マイヤーと会いたいんだが」
「畏まりました」
駆け足で王城に消えていく兵士。前回は詰所の様な建物に出向いたが今回はそれも必要がない様だ。
「何か有名になってるわね」
「全くだ。おそらくリックとマイヤーが根回ししてくれたんだろう。ありがたいが少し恥ずかしい気分だな」
そんな話をしていると兵士が戻ってきてこちらですと案内されるままに城の中に入ると前回と同じ部屋に通される。
そうしてすぐに扉が開くとマイヤー以外にリックとマリアも一緒で3人で部屋に入ってきた。挨拶をすませると、
「リックとマリア、忙しくないのかい?」
「ちょうどマイヤーと打ち合わせをしていた時に衛兵が呼びに来てさ、マリアも呼び出したんだよ。いよいよまた旅立ちかい?」
挨拶を済ませてソファに座ると早速リックが2人を見ながら聞いてくる。
「この前ここで話した通り、今度はマリアの実家のあるアイマスと辺境領を回る予定よ」
そう言うとマリアが頼むわよ!と2人に声をかけてくる。
「いつ出発するんだ?」
マイヤーのこの質問にはレスリーが
「2、3日のうちには出ようかなと思っている。特に予定があるわけでもないし準備ができたら出ていく予定だよ」
レスリーとアイリーンの話を聞いている3人。旅にでる目の前の2人は何も言わなくてもしっかりと仕事をしてくるのはわかっているので予定を聞いた後は雑談になる。
「薬草採りか、俺たちもやったよな」
「初心者クエストの定番。誰もが通る道よね」
アイリーンが家の近くに来てクエストをしていた新米冒険者の話をするとリックとマリアがその当時を思い出している。
「レスリーは王都で冒険者になったんだからそれこそ今の自分たちの家がある周辺で採ってたんだろう?」
「そう。何度も通ったよ。だからあの森の風景は覚えていたのさ。夢で大木が出てきた時もパッと見てあの場所だって分かったからね」
聞いてきたマイヤーに顔を向けて答えるレスリー。
「そうして木と語り合えて風水術士か」
リックの言葉に頷いて
「あの時に師と合わなかったら風水術士なんてジョブは選んでないしな。そもそもそういうジョブがあるなんて事すら知らなかったし」
「レスリーはそうなる運命だったんだよ。大木と知り合えたのも偶然じゃなくて必然だったんだろう」
マイヤーがレスリーの言葉に答えていうとそうかもなと同意するレスリー。隣でアイリーンもうんうんと頷いている。
「国から見ればレスリーの様な風水術士が増えるのは好ましいんだろうが、レスリー程ののスキルを持った風水術士が出るかどうかはわからないからな」
レスリーとマイヤーの話を聞きながら果実汁を飲んでいたリックはそのグラスをテーブルに置くとレスリーを見ながら言う。すると、
「自分が風水術士としてどれくらいのレベルにあるのかは師も教えてくれないんだよ。おそらく教えるとそこで成長が止まると思っておられるのかも知れない」
「もっと精進しろってことじゃないの?」
隣からアイリーンが言うとたぶんそう言うことなんだろうなと頷きながら言うレスリー。
レスリーとアイリーンのやりとりを聞いている3人は違った印象を持っていた。3人とも目の前に座っているレスリーは既に稀代の風水術士のレベルに到達にしていると認識している。最近マイヤーが王城内にある図書室の文献から風水術士に関する書物を取り出してそれを読んだところ過去にいた風水術士でも今のレスリーの様な仕事までこなしてきたのはほんの数人だったということが分かったからだ。大抵の風水術士は風をそよがせ、土を数センチ盛り上げる程度だったとの記載があったそうだ。
文献を見たマイヤーはその内容をリックとマリアには伝えており、そして
「レスリーは今まで誕生してきた風水術士の中でも最高クラスの地位にいるのは間違いない」
と言い切っている。
「気をつけてな」
「また王都に戻ってきたら城に顔を出してくれよ」
「アイリーンも気をつけてね」
3人から激励の言葉を受け取ったレスリーとアイリーンは王城を後にした。
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