第5話
「ある」
ティモナの言葉に短く答えるレスリー。それはどう言う方法なのじゃ?と聞いてきたティモナに、
「2つある。1つは周囲の木を伐採して木々の間隔を広く取ることだ。ただこれはエルフの教えには反するだろうけどな」
「その通り、エルフは自然に寄り添って生きている。あるがままの自然に寄り添うというのが基本の考え方だ。木を切るのは我らの思想にはないぞ」
予想通りの答えが返ってきた。レスリーはそうだろうなと言って頷くと、
「もう1つの方法はこの大木の周辺の土にもっと養分を与えれば良い。沢山の木々が好きなだけ養分を吸い上げても問題がない程に」
「それは具体的にはどうするんじゃ?」
こっちに、とレスリーは皆を従えて大木の裏にある木々の間を歩いていくとそう遠くないところに小川が流れているのが見えてきた。レスリーはさっき大木の周囲を回った時に近くに小川が流れているのを感じ取っていたのだ。小川の縁で立ち止まると手のひらで水を掬ってじっと見る。予想通りだ、これなら問題ないだろうと呟いてから、
「この小川の水をあの大木の近くに通すんだ。用水路の様にして川の一部が大木の近くを流れる様にすれば養分を多く含んだ水が大木の近くに流れてくる。この小川の水は山の養分をたっぷりと含んでいるからな。そうすれば大木もそして周囲の木々も好きなだけ地中から養分を吸い上げることができるだろう」
レスリーの言葉を聞いているエルフ達。しばらくしてティモナが
「やってくれるか?」
「わかった」
頷くと小川の近くに立って杖を持っている手を前に突き出すとまるでそこに新しい小川ができたかの如く地面が凹んで小さなせせらぎを流す川が現れた。
驚愕した目でそれを見るエルフ達。レスリーはゆっくりとその新しい小川を伸ばしていく。そうして地面を凹ませて作った小川は木々の間を抜けて大木の根の近くを通るとそのまま再び木々の間を縫う様に流れ、最後は元の小川に戻っていった。
そこにできたのは用水路の様な人工的なものではなく誰が見ても元よりそこにあったとしか思えないほど自然に同化した小川になっていた。
レスリーは新しく作った小川をもう一度ゆっくりと見て回ってから
「これで良し」
と顔を上げる。
「見事じゃ。まるでずっと昔からそこに水が流れていたかの様な小川になっておる」
出来上がった小川を見てティモナが感心していうと
「ここまでできるとは」
男性エルフも感嘆の眼差しで新しい小川を見ながら声を出す。
「またスキルが上がったんじゃない?」
アイリーンの言葉に頷くと
「さっきこの大木から精気をもらっただろう。そのおかげだと思う。また一段階段を登ることができたよ」
そう言うと大木の生えている場所に戻り、大木に手を添えて
「これで大丈夫だ。好きなだけ養分を吸い上げて大きく育ってくれ」
『久しぶりに目が覚めたぞ』
大木が話かけてきた。レスリーとアイリーンはその言葉がわかる。エルフ達には言葉はわからないが別のものが見えていた
「妖精だ。木の妖精だ」
大木の枝から妖精が姿を現した。どうやら大木が寝ていた間は妖精達も同じ様に眠っていた様だ。
『我の木の妖精も目覚めた様だな。お主らのおかげで我ももっと成長できるだろう。礼を言う』
「目が覚めてよかったね。これからは遠慮なく養分を吸い取って成長してちょうだい」
アイリーンの言葉にそうさせてもらおうと答える大木。
「2人は御神木と話をしておるのか?」
ティモナが声をかけてきた。振り返ってそうだと答える2人。
「俺達には妖精は見えない。見えないがこの大木と話をすることはできる。この大木が目が覚めて妖精立ちも目が覚めたそうだ。そしてこの大木はこれからまた成長できると仰っている」
木々の間から飛び出してきた妖精達はエルフの森を飛びはじめ、それを見つけたエルフの住民達が喜びながらそれを見ている。ティモナは喜んでいる住民達を見てからそして2人に顔を向け、
「2人のおかげじゃ。これで我らの森も元の様に賑やかになるだろう」
「よかったですね」
ニコニコしているアイリーンの隣でレスリーもよかったと頷いていた。
『2人は我の精気を取り込んでいる。これでもう一段成長できるだろう。これからもその姿勢を貫いてくれ』
「わかりました」
2人で礼を言い、今大木と話をした内容をティモラに伝える。
「我らエルフが敬っておる御神木から好かれるとはレスリーもアイリーンも大したものじゃ」
そう言ってからしばらくこの村で過ごしてくれんかとティモナから頼まれる。
「結界の中を色々と見て回ってもらえると嬉しいんだが」
「そういうことなら問題ないな」
そうしてレスリーとアイリーンはエルフの森始まって以来のエルフ以外の客人として村に滞在することになった。
エルフは空いていた1軒の家を2人に勧めた。食事は毎回家まで誰かが運んでくれる。
2人は朝からエルフの森の結界の中を歩いては土や木の状態を見て周り土壌の良い場所を見つけるとここに畑を作ると良いとか、ここは日当たりが良いから果樹園に向いているなどと同行するエルフに説明をしていく。
そうして結局10日程かけて結界の中を全て見て回った2人。一番最初に訪れた平屋の建物に入ると初日と同じ様に中央にティモナが座って2人を待っていた。
「毎日報告は聞いておる。2人のおかげでこの森ももっと発展するだろう。本当に世話になった。改めて礼を言う」
頭を下げてきたエルフに同じ様に頭を下げる2人。そうして顔を上げると、
「エルフに尽くしてくれた2人にお礼の品を用意した。受け取ってもらえるか?」
そう言うと村の長のティモナの隣に立っていた1人のエルフが手に持っているものを2人の前に置く。
「エルフの森の民が作ったローブとズボンじゃ。アイリーンの今の防具とズボンも悪くないがそれよりもずっと優れたものができた」
レスリーが手に取ったのは深い緑色を基調に金の縁取りと刺繍がされたローブに同色のズボン。
そしてアイリーンが手に取ったのは燕脂色を基調としたローブ。白の縁取りのデザインは隣の男と同じ模様だ。そして同色のゆったりとしたズボン。
「軽いわ」
「御神木が目を覚まし、多くの妖精が森の中を動く様になって我らが得られる妖精の加護も大きく増えた。アイリーンのローブとズボンはこれまでの素早さの上昇、魔法、物理攻撃のダメージ低減効果があるがその効果が今のローブとズボンよりも上がっている」
「すごい」
新しい服を手に持ちながらびっくりするアイリーン。
「そしてレスリーのローブにも同じ様に素早さがあがり、魔法や物理のダメージを低減する効果がついておる。残念ながら我らエルフでは風水術のスキルまでは上げることはできない、その点については申し訳ない」
「いや、それは全然構わない。それよりも素早さやダメージ軽減は動き回る時に助かるよ、ありがとう」
礼を言いそうして早速新しいローブとズボンに着替える2人。
「軽いし動きやすそう」
「これはいいな。それにしても業物のローブとズボンだ」
2人ともその場で立ったまま体を捻ったりして感触を確かめると
「良いものを頂きありがとうございます」
アイリーンが代表して言うと村の長のティモナも頬を緩め
「気に入ってもらえてなによりじゃ」
そうして2人と長のティモナらエルフ全員が建物から出る。2人は大木の前に立つと大木は眠りから目覚める前よりも葉の緑は濃くなり、枝もしっかりと伸びている様に見える。
「目覚めて元気になってなによりだ」
『お主らのおかげだ』
「私たちはこれからまた森の中に旅にでます。元気に育ってください」
『んむ。そちらも気をつけてな』
最後に大木に一礼をすると振り返って背後にいたティモナをはじめとするエルフの民に、
「お世話になった。加護のついている業物の防具まで頂いてありがとう。これからまた森を抜けて南を目指していく。お互いに気をつけて」
「ありがとうございました。大木も元気になってよかったです」
レスリーとアイリーンが礼を言うと、
「レスリーとアイリーンはエルフの真の友となった。2人はいつでもこの村に来るが良い。エルフはいつでも歓迎するぞ」
ティモナがそう言うとその背後で他のエルフたちも大きく頷く。
「ありがとうございます。では、お世話になりました」
最後にもう一度アイリーンが挨拶をして2人はエルフの村に別れを告げた。
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