第6話
エルフの森を出た2人は再び南を目指して深い森の中を歩きだした。結界を抜けてしばらくすると再び高ランクの魔獣が徘徊するエリアとなってくる。
「新しい防具の威力が凄いの。以前のもよかったけど今度のはそれ以上よ」
2体のランクSを倒して魔石を取り出しながらアイリーンが言う。
「そうみたいだな。見ているだけでわかるよ。動きが一段と良くなってる」
そうして魔素の薄い場所を見つけるとそこで野営をする。
「それにしてもエルフの森ってあんな場所にあったのね」
夕食を取りながらの会話だ。周囲に風を飛ばしている中、向かいあって食事を取る2人。当然だが火は使わない。
「あれじゃあ見つからない訳だ。普通じゃまずあそこに辿り着くことができない」
「そうよね」
「それでこの森のことだけど、オズはもちろんだが、あとはいつもの3人だけには報告しようと思う」
リックとマリアとマイヤーは仲間だ。話をしても大丈夫だろうし話すことによってあの森はずっと手付かずになるだろうと言うとそれがいいとアイリーンも賛成する。
「こんな高ランクの魔獣が徘徊している森、オズはどうやって抜けたのかしら」
「今度会ったら聞いてみれば?おそらくだけど妖精に案内させたんだと思うよ」
「なるほど。その手があったか」
それからも森の中を探索しながら南に進んでいく2人。高ランクの魔獣には時にアイリーン1人で、時にレスリーと2人で倒しながら同時に森の探索もして進んでいった。
そうして深い森を進むこと1ヶ月と少し、ようやく2人の視界の先に森の出口が見えてきた。深い森を抜けると流石に2人ともホッとして大きなため息を吐いた。
「やっと抜けたわ」
「お疲れさん」
とアイリーンの肩を叩くレスリー。そしてそのまま草原を南に降りて街道に出るとそれを左に歩いていった2日後、ホロの街の城壁が見えてきた。2人がドーソンから森に入ってから3ヶ月近く経っていた。
「久しぶりだな」
城門を通って市内に入り、そのままギルドに入ってギルマスに面談を求めるとすぐに奥に案内され、ギルマスのポールが部屋に入ってきた。
「ドーソンのエバから手紙が来ていた。お前さん達2人が南の森を抜けてホロを目指すってな。最初読んだ時はびっくりしたぜ。あの深い森を抜けてくるなんて正気の沙汰じゃないってな」
「でも抜けてきたわよ」
涼しい顔をして言うアイリーン。レスリーも
「簡単ではなかったけどな。あの森にいるのは高ランクばかりだった」
そう言って2人で森の中にいた魔獣について報告をしていく。聞いているギルマスのポールはこいつら一体何モンなんだよ?という目で報告を聞いていた。
「てことはあの森にはランクAとSしかいないってことか?お前さん達夜はどうしてたんだよ?」
「レスリーが魔素の少ない場所を見つけることができるの。だからそこで野営してたわ」
アイリーンの言葉にレスリーが続けて、
「風水術士のスキルなのかどうかは知らないが。魔獣がいる森の中でも魔素は均一ではない。場所によっては魔素が薄い場所がある。そこには魔獣が近づかない。俺はその場所を見つけることができたんで魔素が少ない場所を見つけてはそこで休んでたんだよ」
「となると魔素の薄い場所を見つけられない奴があの森に入ったとしたら?」
「ああ。おそらく生きては出られないだろう。高ランクが大抵は複数体で徘徊していたからな」
ギルマスは目の前に座っている2人の評価をさらにあげていた。一見どこにでもいる冒険者に見えるがその実力はランクA以上だろう。こいつらは本当に只者ではないなと。同じ様なローブにズボンという格好だがその防具もよく見れば何かのスキルが付与されていそうな防具だ。
2人の報告が終わるとそうだと言い、
「お前さん達が修復してくれたここから南の辺境領に続く街道だがな」
そう言ってギルマスが話をしたのはレスリーが修復した街道が以前と同じく馬車の移動でも全く問題が無いとわかるとあの街道経由でウッドタウンやアルフォードに向かう商人や冒険者が増えたらしい。
「途中にある村も賑やかになってな。宿もできたし皆喜んでるよ」
「そりゃよかった」
その後もギルマスと雑談をしてから
「それでこれからはどこに行くんだい?」
とギルマスが聞いてきた。
「ラウダー経由で一旦王都に戻ろうかと思ってる」
「辺境領には行かないのか?」
「それは次回ね」
そうしてギルドで魔石を大量に換金した2人はホロの街の宿屋に入り久しぶりにベッドの上で寝て疲れを取った。
ホロで2日程過ごした2人はギルドに挨拶してからホロの街を出てラウダーへと続く街道を西に歩いていく。
この街道は以前探索をしていたので今回は街道から周囲を見ながらの移動だ。
「街道から見てる感じだとこの前と変わってない感じ?」
「そうだな。特に変化はなさそうだ」
そうして街道を歩くこと数日、2人の目の前に禿山が見えてきた。コリング領だ。レスリーとアイリーンは無言で街道を歩いて行くが以前見かけた街道沿いの魔獣を討伐している冒険者の姿がない。もちろん魔獣そのものも全く見かけない。
そうして禿山がよく見える場所に近づいていくと禿山だと思っていた山に無数の植林がされているのが見えてきた。
「ちゃんと植林をしているわね」
「王家の通達だ。やらないとどうなるかは貴族ならわかっているだろう」
そうしてコリング領を歩いているとその中心都市であるコリングの城壁が見えてきた。そのまま街に入るとギルドに顔を出す2人。
「ギルマスのダニーだ。お前さん達は例のパーティメンバーだったんだろう?」
リックのパーティは有名だ。ギルマスの言葉に頷くと
「今はレスリーと私の2人だけどね」
「以前この街に来た時はマイヤーだけがここに顔を出して俺と話をした。今はマイヤーも時期宰相らしいな」
王都での動きはしっかりと掴んでいる様だ。
「それでだ、見ただろう?禿山に植林がされているのを」
2人が頷くとギルマスのダニーが説明を始めた。リック達がこの街を出てから数ヶ月後に王家から国内に通達が出た。それを見たここの領主のコリングはすぐに外部との業者との取引を打ち切り木工ギルドと会合を持って今までの方針を180度転換したらしい。
「木工ギルドの奴らから聞いた話だが、王家の通達を見て領主は顔色を変えたらしい。そりゃそうだろう。最悪貴族爵位の降格まであるって話だからな。ここの領主、いや貴族は一般にそうだろう。総じて上には弱い。通達を見てすぐに方針変更したのさ」
ギルマスの執務室のソファに座って大きく伸びをしながらダニーが言う。
「でもそれでようやくこの街も正常になるってことね」
「その通りだぜ、アイリーン。それで植林を始めると魔獣が麓まで降りなくなってきた。恐らく山に植林したことで少しずつだが魔素が溜まり出してるんだろうと思ってる」
「よかったじゃない。これで街の人も安心できる」
その言葉に頷いてから2人を交互に見ると、
「お前らが王都に戻って国王陛下に話をつけたんだろう?」
「報告はしたが決めたのは国王陛下だよ」
「どっちにしてもお前らのおかげで街道に魔獣が出なくなって住民や商人が安心して通れる様になった。俺からも礼を言う」
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