第3話
普通なら方向感覚を失いそうな程同じ様な風景が続く森の中をレスリーとアイリーンの2人は途中で止まって森の中を観察しながら南を目指して進んでいく。
この日はランクSの魔獣のエリアを歩いていく。レスリーの風と土の槍で動きを止めたところをアイリーンの片手剣が次々と魔獣の首を刎ね飛ばしては討伐する。
「ランクS相手だからアイリーンも良い訓練になってるだろう?」
「本当ね。気が抜けないけどやっぱり高ランクとの戦闘が一番訓練に良いみたい」
1体の時はレスリーの助けなしでも1人でランクSを倒していくアイリーン。剣の腕と装備品そして身体能力の高さは高ランクを相手にするほど本領を発揮する。
「この森は本当に良い森だ。木々も大きく成長している。それらが綺麗な空気を大気に出してくれているのが良くわかるよ」
「ってことはこの森は手出し無用ってことになるのかしら」
「それがいいだろう」
そんな話をしながら森の中を進んでいって、ちょうど半分位の距離に到達したころ何故か周囲の魔獣の数が急激に減ってきた。その中を進みながら
「魔素が急に薄くなってきている。どうしてだろう」
そう言って魔獣の姿が見えない森の中を歩くこと半日ちょっと、レスリーが立ち止まって前方を見るとそれにアイリーンも気がついた。
「レスリー、あれ」
「うん。アイリーンにも見えるんだな。結界が張ってある」
「やっぱり」
2人の前方木々の間から見えるその先に非常に大きな結界が張ってあるのが見える。
「こんなところに結界があるなんてね」
「行ってみよう」
レスリーにはこの結界の先にあるものの予想がついたので結界に向いながらそのことをアイリーンに言うと
「あり得るわね。私もそう思う」
そうして結界を超えるとその中は魔素が全く無い場所だった
「魔素が無い」
「そうなんだ。となるとレスリーの予想が当たりっぽいね」
深い木々が生えている森には変わりはないが魔獣の気配が全くない森の中を2時間程歩いた頃二人がその場で立ち止まる。
「見たところ人間の様だがエルフの森に何用だ?」
2人の予想通りここはエルフの森だった。
「結界が張られていたのが見えたからな。中に入ってきたまでだ。特に用事があった訳じゃない」
レスリーが見ている前方の木々の影からから3名のエルフが姿を見せた。3人とも男で弓を持っている。話かけてきたのは一番前にいる男だ。そしてその後ろに男が2人弓を構えて立っている。3人とも同じ様な格好をしている。動きやすそうなシャツとズボン。そして長弓を持っている。
「用がないのなら帰ってもらおう。ここはエルフの森、人間がくる場所ではない」
そう言ってレスリーを見てから視線をアイリーンに向けるとその男の表情が変わる。
「そちらの女。そのローブとズボンはどこで手に入れた?」
聞かれたアイリーンはレスリーと顔を見合わせてから正面の男に向き直ると、
「辺境領のアルフォードの街にいるエルフのオズさんの店からよ」
アイリーンの言葉を聞いて目の前の3人の顔色が変わる。そして2人に話かけていたエルフが視線をレスリーに戻すと、
「先ほどの言葉は取り消させてもらおう。エルフの村に案内する。ついて来てくれ」
そう言うと踵を返して歩き出した。急に変わった態度にびっくりしながらも2人もエルフ3人に続いて森の中を歩いていく。
森の中を小一時間程歩くと木々の間に木で作った家が建っているのが2人の視界に入ってくる。そうしてそのまま歩いているとちょっとした広場に出てきた。
広場の周囲は木々が生えておりその中にエルフの家だろう。同じ様な造りの家が建っている。それなりの数のエルフが住んでいそうだと思うレスリー。
そして広場に視線を戻せば広場の奥に一際大きな木が生えているのが見え、その近くに平家の建物が見える。周囲にある住居には見えない。どちらかと言えば集会所、いやもっと厳かな場所に見る。
2人を案内するエルフはその大木の近くにある平屋の建物の前に立つとここで待てといい先に家に入っていき、すぐに出てくると、
「エルフの村の長がお会いになられる」
そう言って2人のためにドアを開けてくれた。アイリーンの背中を押して後から家に入っていくレスリー、中は大きな広間になっていて入ったドアの正面の大きな椅子に1人の女性のエルフが腰掛けており、その左右に護衛と思われるエルフの男性が立って中に入ってきたアイリーンとレスリーに視線を向けている。その彼らの前には大きな木のテーブルがあり、こちら側にもいくつか椅子が置いてある。2人を案内したエルフは入ってきた扉の前に立った。
「エルフの村にようこそ。私はこの村の長をしているティモナという」
椅子に座っていたエルフの女性が立ち上がって挨拶をしてきた。
「はじめまして、王都から来たアイリーンです」
「同じく王都から来たレスリーだ」
そうして勧められるままに椅子に座る2人。
「よく我らの結界を見つけたものじゃ。滅多なことじゃあ見えないんだが」
全員が椅子に座るとティモナがそう言い、そしてアイリーンに顔を向け、
「その装備はオズから手に入れたと言う話じゃな。オズがそれを渡したということはオズがそなたを認めたということになる。つまりエルフの森に来る資格があるということだ」
なるほど、それでアイリーンの装備を見たエルフが態度を変えたのかとレスリーが思っているとティモナがレスリーに顔を向け、
「オズの装備を身につけていると見えるのはわかるがお主にも我らが結界が見えていたとはな」
視線をレスリーに向けたティモナ。隣から何か言おうとしたアイリーンを手で止めると正面のティモナを見て、
「ジョブのせいかもしれないな。俺は風水術士というジョブをしている冒険者だ」
レスリーの言葉を聞いたティモナの表情が大きく変わった。周囲にいる他のエルフの表情も一変する。
「風水術士、もう何十年もなった奴がいないジョブだ。レスリーはその風水術士だというのか」
レスリーは頷くと自分が風水術士になったきっかけ、経緯、そして今までの活動を話ししていく。黙って聞いているエルフの面々だが時に驚愕の表情になり時に納得する表情になる。
じっとレスリーの話を聞いていたティモナは
「よかったらその手に持っている杖を見せてはくれまいか?」
レスリーが差し出した杖を受け取るとじっくりとその杖を見るティモナ。そうしてしばらくしてから杖を返すと、
「ここまで木の精気が詰まった杖は見たことがない。レスリーの言った言葉が嘘じゃないという証拠だな」
そう言ってから
「いやいやレスリーの話を疑っていた訳ではないのじゃ。ただエルフ以外でそこまで自然というものを理解している人間がおるというのを素直に受け止められなかっただけじゃ、申し訳ない」
そう言って頭を下げるティモナ。それを見たアイリーンが慌てて
「いえいえ、うちの人はちょっと異常。そう普通の人じゃないから」
「おい、こら」
レスリーの言葉に周囲から笑みが漏れて雰囲気がぐっと良くなった。
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