第5話

 その後1ヶ月ちょっとかけてレスリーとアイリーンは王都の北と西を探索してきた。王都周辺は王家が直接支配している領地でもあり治政に問題はなく、自然もしっかりと保護されており何ら問題がなかった。


「王家のお膝元の領地で不具合があったら流石にまずいよな。いずれにしても何もなくてよかったよ」


 マリアの敷地内にある借家に戻ってきたレスリーとアイリーンがマリアとマイヤーに報告すると聞いていたマイヤーがホッとした表情で答えた。


「それで俺達だが1週間ほど休んだら今度は東のドーソンを目指していくつもりだ。師に聞いても行っていない場所にどんどんといくべきだと仰ってるしな」


 2人を前にレスリーが言うとマイヤーがマリアと顔を見合わせて


「その件だが、東への旅立ちはちょっと待ってくれないか?」


「どうしてだ?」


 隣のアイリーンも首を傾げてマイヤーを見る。マイヤーはしばらく間をおいて


「実は2日後にリックとマリアの結婚について王家から正式に発表がある」


 アイリーンはマリアを見て


「いよいよなのね。おめでとう」


 レスリーもおめでとうとマリアに声をかけると、


「ありがとう。もうちょっと先かなって思ってたんだけど王家から早めにしたいというお話が来て」


 そこまで言うとマイヤーが後を続けて


「リックの国王就任の前に結婚した方が良いだろうということになったらしくてな。結婚式を挙げてそれから1年から2年後を目処に国王が代わるという流れになっているらしいんだよ」


 今はまだ許嫁の身のマリアは普段は実家であるこのウエストウッド家の屋敷に住んでいる。それが結婚すると王城にて生活をすることになる。早めに王城での生活に慣れておくのがいいだろうという王家の判断だとマイヤーが2人に説明してくれた。もちろんマリアがいるウエストウッド家にそれを断る理由は何もない。


「なるほど。それで結婚式はいつなの?」


「発表してから3ヶ月後」


「となるとドーソンからホロに行っていると結婚式には間に合わないな」


 アイリーンとマリアのやりとりを聞いていたレスリーの言葉にそうだろうと頷くマイヤー。


「リックとマリアからは俺とレスリーとアイリーンは必ず結婚式に参加して欲しいってね」


「当然でしょ?というかお二人さん、もちろん来てくれるわよね?」


 とマリア。


「もちろんよ。喜んで出席させてもらうわ、ね、レスリー」


「もちろん」


 レスリーも即快諾する。


「そう言うことなのでしばらくは王都から遠くには行かないでくれるか?」


「わかった。問題ないよ」


 その後の雑談の中でコリング家の献上を横取りして自分の手柄にしていたと見らえるフェアモント家には王家の指示で査察団が派遣されたらしい。おそらく証拠を掴まれてフェアモント家はきつい罰を受けるだろうということだ。その罰の内容がどうなるのかはレスリーもアイリーンも興味がなかったが貴族の中では爵位の降格などの罰は死に等しい程きついものよとマリアが言っていた。




 そうして2日後王家から国中にリムリック2世王子の結婚が発表されると国中が王子の結婚を祝い、国中でお祭り騒ぎとなった。


 そんな中レスリーとアイリーンは王都郊外にある大木の前に来ていた。


『良いのか?街の中でなくても?』


「構いません。私もアイリーンも街に住むより師のそばで住む方がずっと安寧を得られます」


『なら問題はないだろう』


「ありがとうございます」


 そうして2人は師の許しを得ると大木の周辺にある倒木や古い木を切り倒して大木のすぐ近くに丸太を組んで家を建てていく。平家の大きな家の枠組みを丸太で組み、家の中はアイリーンの希望を取り入れて部屋を作っていく。家の中で必要なものは馬車を借りて王都で購入しては家に運んでいき、レスリーとアイリーンの新しい家が森の中にできたのはリックとマリアの結婚式の数週間前のことだった。


 東のドーソンに向かうのが延期になった後、2人で話合っていつまでもマリアの家に居候するのも申し訳ないし新しい家を王都の外にある大木の近くに作らないかとレスリーが提案するとアイリーンも二つ返事でOKしたのだ。


 出来上がった大きな平屋の家には広いリビングがありその前には同じ様に広いサンデッキが伸びていて、そしてそのすぐ先に師の大木がある。その大木から伸びている枝や葉が屋根の上にまで伸びており夏でも直接日が当たらない様になっている。リビング以外にキッチンやバストイレ、そして寝室、それと来客用の部屋が2つと大きな倉庫部屋がある立派な家ができた。近くを流れている川から家まで水を引いて飲料や家庭用として使える様にもした。


『立派な家ができたな』


「ありがとうございます。色々と助言を頂いて助かりました」


 アイリーンが答えると


『家全体を我の精気で包んでおる。魔物は来ないし家の中の空気や水もいつも澄んでいるだろう』


「ありがとうござます」


『2人が留守の間は我とこの森がこの家を守ってやろう。安心してでかけるがよい』



 新しい家を作る前に2人は世話になっているウエストウッド家の屋敷でフィル公爵やその奥方、そして家にいたマリアとマイヤーの前で王都の外に自分たちの家を作ってそこに引っ越しをしたいと話をした。


 その話を聞いて最初は皆びっくりしたがその理由を述べると納得する。


「レスリーが師と仰ぐ大木のそばで暮らしたいということであれば私もここにいてくれと強く言えないな」


「気を使わずにこれからいつでもここに来てくれていいのよ」


 公爵と奥方の言葉にお礼を述べた2人。そうして家が出来上がったと報告に来ると多忙な中マイヤーとマリアが新しい家を見たいと王都の外にある新居にやってきた。


「これは見事な家だ」


「本当ね、想像以上だわ」


 外見に感心し、家の中にはいるとまた感心する2人。


 大きなリビングの窓からはサンデッキが見え、その先にレスリーが師と仰いでいる大木が正面に見えている。


 アイリーンが居間にある木で作った大きなテーブルの上にジュースを置いて4人でソファに座る。正面に座っているマリアを見てアイリーンが


「あともう少しね」


「もう準備はほとんど終わってるの。私はもう特に当日まですることがないんだけど周りがバタバタしていてね、だから外に出られてよかったわ。息抜きにもなるし」


「これからはそう頻繁に王都から外に出ることもなくなるだろうしな。それでマイヤーはどうなんだい?」


 レスリーが顔を向けると、


「俺もマリアがウエストウッド家を出たら出るつもりだったのでもう家を探した。来週に引っ越しするよ」


 そう言ってマイヤーが教えてくれた新しい家の場所は王城からそう遠くない場所だ。


「いい場所が見つかったのね」


 アイリーンが言うと実はリックが紹介してくれたという。自分との打ち合わせが多くなるので王城の近くがいいだろうとリック自ら動いてくれたらしい。


「王子の問い合わせなら断るところは無いわよね」


「その通りでね。おかげでいい物件が見つかったよ」


 とマイヤーも満足そうだ。

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