第6話

 その2週間後、リックとマリアの結婚式が王都の王城で盛大に行われた。大勢の貴族が列席する中レスリーとアイリーンも末席に招待されこの日の為に買ったパーティ用の服装を来て参加した。この席上でリック自らが結婚の報告と同時にマイヤーを参謀とすると発表する事もあり会場ではマイヤーは上座に近い場所で立っていた。


「マリア、すごく綺麗ね」


「本当だ。それにリックも似合ってるな。やっぱり王子だよ。威厳がある」


 レスリーは冒険者の2人しか知らなかったので今目の前で立派な格好をしている2人を見るのは初めてだった。リックはもちろんだがマリアも貴族としての振る舞いが完全に身について自然にできている。一朝一夕では身につかない優雅さだ。


 時間になると国王陛下が登場し挨拶のあと、貴族達の挨拶が始まった序列の順に挨拶をする貴族。その長ったらしい終わるとようやく立食でのパーティが始まった。レスリーとアイリーンが末席にある一番端に置かれたテーブルの上にある料理に手を伸ばしていると暫くしてマイヤーがそこに近づいてきた。そして周囲に聞こえない声で2人に


「いやぁ、疲れるな」


 と言う。アイリーンは今のうちにしっかり顔を売っておかないとダメでしょ?というとその通りなんだよと言いながらも


「なんで貴族ってのはああも話しが長いんだろうな。皆同じことばかり言ってるし。それに俺のところにも次から次と挨拶に来るんだよ。もう大変だよ」


「貴族ってそんなもんじゃないの?格式や形式を重んじるんだしさ。そしてマイヤーに挨拶にくるのは当然よ。だって未来の宰相でしょ?今からコネをつけておこうって皆考えるわよ」


 アイリーンが言うとレスリーもぐったりしているマイヤーを見ながら


「自分で選んだ道だ。頑張れよ」


「リックの右腕で政をするのは全く問題ないんだがこういうパーティとかは格式だ形式だとうるさいだろう?それを頭に入れるのが大変なんだよな」


 それも仕事でしょ?とアイリーンが冷たく言う。その後もマイヤーの愚痴をひとしきり聞き、そして3人で話をしているとそれまでも上座をチラチラと見ていたアイリーンが


「今ならお二人に挨拶に行けるわよ」


 その言葉で3人が上座に進んでいくとそれを見つけたリックが手を挙げてくる。隣にいるマリアも手を振って応える。


「「おめでとう」」


 挨拶の後にアイリーンがマリアを間近で見てすごく綺麗ねと言うと、

 

「ありがとう。レスリーとアイリーンのその格好も似合ってるじゃない」


 マリア言われてアイリーンは満更でもない表情だがレスリーは


「アイリーンが選んでくれたんだけどさ。こんな格好したことがないから慣れてなくてさ、肩が凝るよ」


 そう言って笑いを誘う。久しぶりに5人が揃っていろんな話をした後でリックが真面目な表情になると


「これからはレスリーとアイリーンの2人で頼むぞ」


 そのリックの言葉に頷いて任せておけよと返事する。


「それで今度はいつ出発するんだ?」


「まだ決めてないが1週間後くらいかな。東のドーソンに行ってそれから山の中を抜けてホロまで行くつもりだよ。俺達よりそっちこそこれから大変だろう、いずれ国王陛下だ。やるべきことは多そうだな」


「確かにやるべき事、学ぶべき事は多いけどマリアもマイヤーもいるし何とかなるだろう」


「そうね。仲間が近くにいるから頑張れるよね」


 とアイリーンが言うと大きく頷いて


「そう言うことだ」


 そう言ってから


「俺達はこれから王城が仕事場になる。レスリーとアイリーンの2人はいつでも王城に来ていろんなことを報告してくれ。2人は王城にはフリーパスで入られる様になってるから」


 その言葉にびっくりする2人。マイヤーがそうだったと言ってから


「2人に言うのを忘れてたよ。今リックが言った様にレスリーとアイリーンについては事前のアポイント無しでリックと面談できる様になっているからいつでも来てくれ」


 そんな大事なことはちゃんと言ってよとアイリーンがマイヤーに軽く文句を言っているとリックがレスリーを見て、


「この前国王陛下から頂いた小箱の書があるだろう。それを見せればフリーパスだ。逆に余り顔を出さないとこっちから捕まえに行くからな」


「わかった。いい事も悪い事も報告する様にする」


 その後別の貴族が新郎新婦に挨拶にきたのを機に3人は末席に戻っていくと、


「さっきリックが言っていたがリックやマリア、そして俺だけじゃなく国王陛下もフィル公爵も2人には期待されている。国中を見て回るのはもちろんだが、王都にいる時も郊外の家にこもってばかりじゃなくってちゃんと城にも顔をだしてくれよ」


 そんな風に3人で話をしているとそこに3人の貴族が末席に近づいてきた。中央にフィル公爵、そしてその左右に同じ様な格好をしている2人の貴族。近づいてくる3人を見てマイヤーが


「三大貴族だ」


 とレスリーとアイリーンに呟く。フィル公爵が3人に近づくと、


「いい機会なんで紹介しておこう。こちらが辺境領を収めているナッシュ家のロン公爵、そしてこちらがドーソンを収めているフランクリン家のジェームス公爵。2人とも私とは旧知の間柄なんだよ。レスリーの風水術の話から辺境領の開発が進んだって話をしたらぜひ挨拶をしたいと言われてね」


 レスリーとアイリーン、そしてマイヤーも挨拶をすると、ロン公爵が


「君が風水術士のレスリー君か、いや辺境領に土壌の良い農地に適した土地があると教えてくれてありがとう。助かったよ。国王陛下からの指示もあり早速開拓を始めた。2、3年もすればあのあたりも大きな穀倉地帯になるだろう。国民への食料が増えれば飢えが減る。農地で働く人も増えて収入も増える。いや本当にありがとう」


 そう言ってレスリーに握手を求めてきた。それを見ていた隣のジェームス公爵も


「今度はドーソンにも来てくれよ。ドーソンの西側は穀倉地帯なんだが東側の山側をどうやって開発したらよいか悩んでたんだよ」


「ドーソンには近々お伺いするつもりです」


「そうか。その時は街の東側を見てくれるとありがたい」


「わかりました」


 その後もしばらく雑談をしてから3大貴族は上席の方に戻っていった。

 そうして長かったパーティが終わりようやくお開きになるとレスリーとアイリーンは城から出て郊外の新居に戻ってきた。


「疲れたよ」


「本当ね。パーティなんて滅多にないからね」


「俺は初めてだよ。田舎じゃなかったしこっちに来てからは冒険者で動き回ってばかりだあったから」


 心底ぐったりとしたアイリーンは硬っ苦しいパーティの服を脱いで普段着に着替えてソファにゴロンと横になる。同じ様に着替えてきたアイリーンもソファに座るとレスリーを膝枕してレスリーの頬や髪を指でなぞりながら


「リックやマイヤーが言ってたけど皆レスリーに期待してるよ。その期待に応えなくちゃね」


「アイリーンが一緒ならなんとかなるだろ?」


 そう言ってすぐにレスリーはそのままアイリーンの膝枕で眠ってしまった。


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