第3話
「レスリー、どう思う?」
マイヤーの話が終わるとリックがずっと黙っていたレスリーに聞いてきた。
「実際に見ないとわからないが、聞いている話だけだとあまり良い状況とは言えなさそうだ。山の木は雨水を浄化したり洪水を防いだりする役割がある。もちろん魔素が多ければそこに魔獣が生息するけどな。山や森の木が乱伐されると川の水の水質が悪くなったり山崩れが起きやすくなる。そして生息していた場所の環境が変わった魔獣が住処から出てくることになる」
レスリーの言葉に頷く他のメンバー。しばらくしてからリックが
「レスリーには悪いが今回は状況を調査するだけにとどめたい。今の時点で貴族と揉めることは避けたい。それはもう少し先の時点でその時は正面から攻める」
時期国王である王子が冒険者として国内を移動しているのは秘密事項だ。相手が農民なら何も問題はないが相手が貴族となると話が変わる。彼らは地位もあるし権力もある。そんな相手にこれはやっちゃあ駄目だとかこうした方がいいなどと一介の冒険者が言ったところで聞く耳は持たないだろう。しつこくやると権力を行使してくるのは明らかだ。
リックの説明を聞きながらマリアも頷いていて、
「リックの言う通りよ。私が言うのもあれだけど貴族って自分たちは特別な階級の人間だと思ってる人が多いの。そして冒険者は貴族から見たら平民と同じ。どこの馬の骨ともわからない人の言葉を聞くとは思えないわ。そして一方で貴族は皆自分より身分が上の人達に対してはすごく弱いの。上に弱く下に強いのが貴族ね。このコリングを治めている貴族より地位の高い者からガツンと言った方がずっと効果があるの」
「そういう点ではマリアは特別な貴族よね。例外中の例外貴族」
アイリーンが言うとありがととアイリーンに笑顔を見せるマリア。俺もだぜと続けてリックが言う。そうそうリックも特別よと軽く言うアイリーンの言い方に笑いが起きた。
「わかった。リックやマリアの立場もあるだろうから見るだけにする。ただしその無計画な乱伐がギルド指導なのかそれとも領主指導なのかを確かめてくれるかい?聞いている限りでは貴族だろうとは思うが念の為に」
リックは辺境領のウッドタウンで見た木工ギルドの仕事ぶりに感心していたので今回の件がまさか木工ギルドが行っているとは思いたくなかった。
「それは俺がやろう。誰が指示してるかによって今後のこちらの対応も変わってくるからな」
レスリーの言葉にはマイヤーが答える。その通りと頷くレスリー。他のメンバーもそう言う調査ならマイヤーが適任だと彼に任せることにする。
そして翌朝ギルドに顔を出した一行はギルマスに挨拶をしてホロの街を出て街道を西に進んでいく。ギルドでは
「ラウダー経由で王都に戻るんだな」
「そう。短い間だけど世話になった」
そう言って短いやりとりでリックらを送り出したギルマスはすぐに本部に報告を出す。リックらが今朝ホロを経ってラウダー経由で王都に戻るということ、そして風水術士のレスリーが通行不能だったホロと南の辺境領の村とを結ぶ街道を風水術で修復したことなど。
報告を書き終えると自ら受付に足を運んで、
「悪いがこれを大至急王都のギルド本部に送ってくれ」
ホロの街を出た一行は街道を西に進んでいく。街道沿いの森や林の様子を見ながら進むこと5日目、
「これはひどいな」
「本当に一目瞭然ね、それにしても想像以上だわ。これはやりすぎよ」
リックとマリアが街道で立ち止まって前方を見ながら言葉をかわす。
街道沿いに点在している山々。それまでは木々が生えている山だったが突然街道の左右にほとんど木が生えていない山が見えてきた。コリング領だ。
レスリーも普段は見せない程の厳しい表情を前方に見える山に送っている。その表情に気づいたアイリーンが隣に立っているレスリーの手を強く握ってくる。
レスリーはアイリーンを見るとわかってると言う風に頷いてみせた。
街道を歩いて近づいていくと左右に見えていた木が生えていない山の様子がだんだんと良く見えてくる。山肌には伐採した後の無数の切り株がそのままで放置されている。
「植林もしていないのか」
「大雨が降ったら鉄砲水になるぞ」
レスリーの仕事をずっと見てきたリックとマイヤーは山のあるべき姿やその役割について理解できる程になっていた。
彼ら素人目に見ても相当やばい状況であることがわかる。歩いているレスリーの背後からリックが
「レスリー、切れるなよ」
「わかってる。じっと我慢しているよ」
そうしてコリング領に入ってしばらく歩いていると街道のすぐ横の草原で魔獣を倒している冒険者達が見えた。5人の冒険者が獣人を囲んでタコ殴りしている。どうやら冒険者はランクBクラス、魔獣はランクCクラスだ。
「あれがクエストで街道を警備している冒険者か」
「本当に魔獣が街道の近くまで来ているな」
マイヤーとリックが話しをしていると
「山に木がなくなって生息できなくなったんだろう。ランクCだけど普通の農民や商人にとっては大きな脅威だ」
「本当ね。子供も外を出歩けないわね」
レスリーの言葉にマリアも頷いている。
そんな話をしながら街道を半日ほど歩いて一行は夕刻になってコリングの街に入ってきた。市内にある宿に部屋をとった5人は荷物を置くとマイヤーの部屋に集まる。
「明日だが、俺とマリアは市内をうろうろしてこの街での領主の貴族の影響力がどうなっているか調べてみる。マイヤーは木工ギルドや冒険者ギルドを頼む。レスリーとアイリーンは街の周辺の状況を見てくれ。夕刻にここに戻ってこよう」
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