第4話
翌日宿で朝食をとった5人は3つの組に分かれた。リックとマリアは並んでコリングの街をぶらぶらしながら街の様子を探る。
街は領主の施政が反映される。住民のことを考えているか、街に金をかけているか等街の中をよく見ればわかる。通りの道は整備されているか、ゴミは落ちてないかなど。そして一番わかりやすいのはそこに住んでいる住民の表情だ。圧政に苦しんでる住民はみな生気がなく疲れて俯き加減だ。一方良い領主の街は住民も生き生きとしている。
2人は街の中のあちこちの通りを歩きながら観察している。露天の物売りの声も他の街と変わらないし通りを歩いている市民の数もそこそこだ。生活が苦しくて困っている様には見えない。
「可もなく不可もなしってところ?」
露天とそこに集まっている人たちを横目に見ながらマリアが言う。
「そうだな。でももっと活気があると思ってたけどね」
「そうね。木材をあれだけ切り倒してるんだからお金は持ってるはずよね」
そんな話をしながら歩いていると一軒の店の前で商品を並べている中年の女性が目に入って近づいていく。そうして並べている商品を見て
「こんにちは」
マリアが声をかけるとそこにいた女性が振り返って2人を見て、
「いらっしゃい。冒険者さんのカップルかい。どうだい?彼女に一つ買ってあげなよ」
そこはアクセサリーを取り扱っている店だった。マリアがいろんなのを売ってるわねと商品を手に取って見ている横でリックが女性の店主に
「いろいろと置いてあるね。ところで木製ので可愛らしいのはないのかい?」
「木製?無いことはないがどうして木製なんだい?」
と聞いてきた。
「いや、この街の周囲の山の木がないからさ。この街はきっと木材の街だろうと。となると木工製品でいいのがあるんじゃないかと思ったのさ」
リックの言葉に女店主はそう言うことかいと言って
「他所からやって来たらあんた達みたいに思う人は多いんだよ。でもねこの街は木材の街じゃないのさ。あの切った木材は全部商人が買い取ってどっかに持っていっちまってるよ。この街には切り倒した木材の恩恵はないね」
「そうなんだ。それも何か変な話だね」
装飾品を見ていたマリアが言うと、全くだよと言う店主。そして
「何でもここの領主様がさ、国王様に認めて貰おうとかなりの寄付をしてるらしいんだよ。その寄付の財源があの禿山になっちまってる木々だという話だよ」
顔を見合わせる2人。リックは王家に寄付されていると聞いて内心でびっくりする。
「何それ?領主様が木を切って得たお金を国王様に献上してるっていうの?」
マリアが言うと店主は今更何を言ってるんだいと言った顔をして
「そう聞いてるよ、街の人は大抵知ってる。皆んなそこまでして貴族の位を上げたいものなのかね何て言ってるよ」
女店主はそう言ってからまぁ街の整備にもお金をかけてくれてるみたいだし領主様が何をしようと私らの生活が悪くならなきゃ関係ない話だけどね。と付け加える。
結局その店でかわいいブローチを買った2人。店を出て再び通りを歩き出すと
「関係ない話って言ってたけど大雨が降ったらこの街にも洪水の影響が出るんじゃない?」
「その通り。でも普通の人は気づかないんだろうな」
リックはそう言ってから献上してるのかと1人でつぶやいてから、
「確かに税金とは別で王家に寄付をすると王家からの覚えはよくなるな」
「とは言ってもそのために山の木々を切り倒してまでやるなんてやりすぎよね」
「もちろんだ。でも王都で城の中にいるとどうやってその寄付の金が用意できたかなんて分からない。寄付を受け取ってあいつはいい貴族だってことになるんだよな」
リックの言葉に頷くマリア。マリア自身もずっと王都にいたら気がつかない話だ。自分も含めて貴族は王家に税金を納めるがそれ以外に国王にアピールしようと日々画策をしている。珍しい地方の物産品を献上したり冒険者がダンジョンの奥から取ってきたレアアイテムを買い取っては献上したり。全ては王家から認められようとしての事だ。
王家から認められればさらに大きな領地を任されたり、国政の際の発言権が強くなったりと十分な見返りとメリットがあることを知っているからたいていの貴族は王家に対して物や金でアピールをする。
その後も何軒かの店に入って品物を見ながら店主に話しを聞いていった。どこの店主も最初のアクセサリーを売っていた店の女店長と同じ話をする。領主の寄付の話はこの街ではすっかり有名らしい。ただ住民の暮らしはそれほど酷くなく領主の噂話をしながらもあれは領主の道楽みたいなもんさ。と自分たちの生活が脅かされるほどの圧政ではないので大きな不満はなさそうだ。
「それにしても皆噂話が好きだよな」
「特に女性はね。でもそのおかげで情報が集まったわね」
そうして昼食を挟んで午後も街の中を歩く2人。街の中を歩いている時にマリアが気がついた。
「ねぇ、おかしいと思わない?あれだけの木を切ってるのに街の中に切られた木を置いておっく貯木場もないし、木を加工する工場もないわ。朝から歩いてるけどそれらしいのがないのよ」
「確かに。言われてみたらそうだ。もっと木が積み上げられている場所や木を加工す製材所があってもいいはずだ」
マリアの言葉を聞いたリックが歩きながら周囲を見てみる。
その後2人は街の中を広範囲に渡って歩き回ったがマリアが指摘した様な貯木場も製材所も結局見つからなかった。
おかしい、これは何かあるぞと言いながらもその理由が分からないままリックとマリアは夕方に宿に戻ってきた。
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