第9話

 しばらくの間じっと前を見ていたレスリーは方針が決まったのかリックを振り返ると


「まずは川幅を少し狭くする。それから橋を作って川にかける」


「レスリー、橋は馬車が通れる橋にしないと意味がないぞ」


 レスリーの言葉を聞いてマイヤーが声をかけるがそれに分かっていると短く答えると右手に持っている杖を盛り上がっている土地に突き出した。


 すると盛り上がっていた土砂がゆっくり川の方に移動して次々と川に入るとそのまま川の端を埋めていく。川幅に気をつけながら手前側の土砂の大部分を川に埋めると今度は杖を川の向こう側に突き出して同じ様に向こう側で盛り上がっている土砂を川に埋めていった。


 レスリーの仕事をじっと見ている他の4人。その目の前で川がゆっくりとその姿を変えていく。それほど深くはないが広かった川幅は半分の5メートルほどになった。そして土砂があった場所は周囲の草原と同じ高さになる。


 再び杖を動かすと川に埋めた土が固まっていく。対岸も同じ様にして川の補修が終わった。最後に全体を確認して満足すると大きな息を吐くレスリー。


「これが以前の川幅だったのか?」


 4人が前に出てきてレスリーの横に並んで修復された川を見る。


「杖を地面に向けた時に頭の中に洪水前の川の姿が浮かんできたんでね。その姿の通りに川を埋めたんだよ」


 修復した川を見ながら聞いてきたリックに説明するレスリー。


「初めて来た場所でそこまでできるのか」


 レスリーの言葉にびっくりするリック。隣のマイヤーも目を見開いている。


「正直できるとは思わなかった。最初は少しずつ川に土砂を埋めていこうかと思ってたんだけど杖を向けたら勝手にこの川の以前の姿が頭の中に浮かび上がってきたんだよ」


「レスリーには驚かされっぱなしね。風水術を完璧にマスターしているんじゃない?」


 マリアの言葉に大きく頷く他のメンバー。レスリーは目の前の自然の状態だけじゃなく過去のその姿まで見える様になったのかと。


「いや、まだまだだろう。いつも見える訳じゃないし」


 レスリーはそう言ってから杖を突き出すと今度はこちら側の河原の一部分の土が盛り上がる。そしてまた杖を突き出すと盛り上がった土の両端が80センチほどの高さの壁になった。対岸部分も同じ様にすると80センチの高さになる。その土の壁の長さはこちらも対岸もそれぞれ2メートルほどの長さになっている。手で触ると土は壁の様に硬くなっていた。それに満足するレスリー。


 後ろを振り返ると皆を見て


「次は橋を作る。川のそばにある大きな流木を10メートル程度の長さに切るんだ。何本も必要になるな。そして作った丸太をこの壁と壁の間に木を入れていく」


 その言葉でメンバーが動き出した。マリアが強化魔法をかけるとメンバー全員で河原にある流木の枝を切り落とし10メートルの長さに切っていく。レスリーは切られた丸太を風の渦巻きで浮かせると土を盛り上げた場所から対岸に向けて並べていく。そうして風の刃で木の表面を削り丸太と丸太に隙間ができない様にしっかりと密着する様にして綺麗に並べ終えると木の両端に土を被せて緩やかなスロープにして歩きやすい様に仕上げた。


「これでとりあえず人が通れる橋はできた」


「すごい。あっという間にできちゃった」


 アイリーンをはじめメンバー全員が出来上がった橋を見てびっくりしている。


「まだこれで終わりじゃない。マイヤーが言ってる通りこのままだとまだ馬車は通れないからな」


 丸太を並べているだけなので橋の表面は平になっていない。再び杖を持ったレスリーは街道から少し外れた場所にある草原の土を次々と運んでは丸太の橋の上に撒いて丸太の隙間を土で埋めていく。凸凹だった橋の表面が砂で綺麗に鳴らされて均一になっていく。さらに土を今度は全面に綺麗に撒いていき表面を平にすると、杖をぐいっと前に突き出して今までで一番強いスキルをその杖に送り込んだ。

 

 丸太の橋と土の壁や丸太の上に撒いた砂が数度蠢く様に動くとギュッと締まった様な音がしてそのまま蠢きが止まる。


「ふぅ〜これで完成だ」


 流石に最後はありったけのスキルを注ぎ込んだせいか少しフラフラしている。


「大丈夫?」


 アイリーンが寄ってきてレスリーの体を支える。


「なんとか。流石に最後はスキル全部注ぎ込む勢いでやったから疲れたよ」


「座ったら?」


 アイリーンに支えてもらいながらその場で座り込むレスリー。そして顔を上げてリックを見ると


「これで完成だ。相当硬くしたからちょっとやそっとじゃ壊れないよ」


 仕事を成し遂げた満足した表情のレスリー。


「ここまで出来るなんてレスリーはやっぱり凄いよ」


「本当ね。あっという間に完全復旧させちゃうなんて」


 マリアもリックも感嘆している中マイヤーが橋を渡って向こう岸に行き、戻ってくる途中橋の中央で何度かジャンプする。


「ものすごい強度だ、これなら木材を運ぶ馬車が通ってもびくともしないだろう。それに橋の幅も十分に広いから安全だ。2台の馬車がここですれ違ってもまだ橋の幅に余裕がある」


 その言葉にリックとマリアも橋を渡って向こう岸に行ってそして帰ってくる。


「まるで石で作った橋の様だな」


「これでこの街道が再び生き返ることができたわね」


「ホロの街に着いたらギルドに報告しよう」


 レスリーが疲れていたので一行はその日は出来上がった新しい橋の傍で野営をした。翌日になるとすっかり元気になったレスリー。


 朝食を済ませると川に沿って上流に歩いていき洪水で広くなっていた川幅を以前の幅に戻していき、そして今度は橋から下流側も歩いては川幅を調整して元の川の姿にする。


 そうして川を以前の状態に戻すと改めて出来上がった橋を渡ってそのまま左右の森や林の中の探索をしながら街道を北上し続けて2週間後の昼前、


「あれだ、着いたぞ」


 リックが指差す街道の先にの国境の街ホロの城壁が見えてきた。


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