第4話

 アルフォードに戻ってきたメンバーはギルドに寄って魔石を換金するとリックの提案で次の東方面への探索は1週間後することになった。


「とりあえず今日と明日は休養日にしてそれからはアルフォードの周辺で体を動かそうか」


 という提案に皆が同意する。彼らは既にランクAでもありまた金策やレベル上げを毎日行う必要のない立場にいる。従ってギルドにも最低限しか顔を出していない。そしてそれは各都市のギルドマスターにとっても有難いことになっていた。


 レスリーはアイリーンと2人でアルフォードの街に繰り出した。マイヤーは1人で地図の作成や今までの西と南に出向いた時のことをまとめるといい、リックはマリアに誘われて買い物に行くと言う。買い物と聞いてリックはレスリーに助けを求める表情をしてきたがレスリーは顔を左右に振る。俺だって同じなんだよという意味でアイリーンに顔を向けると2人でがっくりと首を落とした。


 宝箱から得た大量の金貨や魔石を換金して得たお金などは公平に5等分され皆お財布の中が潤っている。


「何買おうかなぁ」


 通りを歩きながら左右の店に視線を送っているアイリーンの隣でレスリーは今日は仕方がないと腹を括っていた。しばらくウィンドウショッピングを楽しんでいたアイリーンがレスリーの手に自分の手を絡めると


「今日の本当の目的はこっちよ」


 そう言って連れて行かれたのはなんとオズのアイテム屋だった。


「ここ?」


 店の前で思わず声を出すレスリー。


「そう。服とかアクセサリーはこの前マリアと2人でいっぱい買ったから今は欲しいのがないの。それよりも戦闘で役に立つアイテムの方が今欲しいのよ」


 そう言って先に店の扉を開けて中に入っていくアイリーン、後ろからレスリーが店に入ると奥からオズが出てきた。


「いらっしゃい。今日は休みかい?」


「そうなの。今日と明日は休養日なの」


「それでデートかい。それにしてもデートにしちゃあ無粋な店に来てるね」


 笑いながらオズが2人にテーブルを勧めてお茶を置くとアイリーンが


「何かいい品物はないかなと思って。お金も入ったし」


 その言葉にそうかいと言い、アイリーンの格好を見てから


「お金があるのならアイリーンにお勧めのがあるよ」


 一旦立ち上がって店の奥にいくとしばらくして布袋を持ってきたオズ。テーブルの上にそれを置いて中から取り出したのはローブとズボンだ。


 ローブは落ち着いた臙脂色で白の綺麗な縁取りがされている。そしてズボンもローブと同じ色になっている。ズボンにも裾の部分にローブと同じ白い糸で綺麗な縁取りがされているた。それをじっと見るアイリーンとレスリー。


「ローブとズボン?」


 テーブルの上の服を見たアイリーンが声を出すとその通りだよと言い、そして


「前衛職の防具がローブって事で戸惑った顔してるね。でもただのローブとズボンじゃない。レスリーは何か見えるかい?」


 顔をレスリーに向けてくる。


「何かまでは分からないが、この縁取りしている白い糸は普通の糸じゃないってことはわかるよ」


 レスリーの言葉に大きく頷くオズ。


「流石に風水術士だね。その通りだよ。このローブのこの縁取りしてある白い糸は普通の糸じゃない、これはエルフが森の妖精から頂いた加護を糸に染み込ませて縫ってあるのさ」


「「妖精の加護?」」


「そう。エルフは森の民だ。そして森にいる妖精達と通じ合うことができる。その妖精から加護を頂いて縫ったのがこのローブとズボンだよ」


「それでその加護ってのは?」


 聞いてきたアイリーンに顔を向けると、


「このズボンとローブにはそれぞれ素早さが上がり、魔法と物理のダメージを低減する効果がある」


 オズの説明を聞いてびっくりする2人。


「持ってごらん、軽いよ」


「本当だ。すごく軽いわ」


 ズボンとローブを手に持ったアイリーンがびっくりしている。オズがローブを広げるとそれはレスリーのと同じ様に前合わせのところは首の下、胸の上の部分に大きなボタンが1つ付いているだけだ。


「このボタンと留めている糸にも加護がついているから滅多なことじゃ切れない。そして胸から下にはボタンがないから左右にはだけていて腰に片手剣をさしていても抜きやすいんだよ」


 レスリーはオズの説明を聞いてびっくりしていた。すごい性能の防具だ。そして妖精の加護というものにも興味が湧いてきた。風水術士と森の民のエルフ。接点がある気がする。いつかエルフの森と言われている場所にも行ってみたいなと思うレスリー。


「着替えてみな」


 オズの言葉でアイリーンがローブとズボンを持って奥に行き、しばらくして着替えたアイリーンが戻ってきた。


「似合ってるな」


 思わずレスリーが言うとオズもアイリーンの格好を見て


「うん、似合ってる。この防具を着るに相応しいよ」


 2人に褒められて満更でもないアイリーン、その場で軽く身体を動かしたり腰から剣を抜いてみたりして、


「軽いし動きやすいわ。剣を抜くのも問題ないみたい」


 そう言ってから


「どうしてこの防具をお店に陳列してないの?」


「これは普通の売り物にする気はなかったのさ。私が見てこれという冒険者が現れた時に紹介しようと思って置いてたのさ。アイリーンにはその防具を着る資格があると私が思ったからね」


「ありがとう」


 オズに頭を下げるアイリーン。そしてその場で金貨を払ってローブとズボンを手に入れた。


「いいものを勧めてくれてありがとう」


「アイリーンやレスリーそして他の3人。あんた達のパーティは他の冒険者とは違う。考え方もしっかりしているし何よりも周囲に優しい。私にとっちゃあそれは大事な事でね。強さをひけらかす冒険者や金があればなんでもできると思ってる冒険者達には売る気はなかったのさ」


「なるほど」


 目の前のオズはエルフで長命だ。今までいろんな冒険者を見てきた彼女なりの物差しで冒険者を判断しているんだろう。アイリーンはついでにオズの勧めでローブの中に着るインナーも購入する。


「これは体温調節機能がついている。寒さや暑さに強いよ」


 それを聞いたレスリーは自分を含めた他のメンバーの分も購入するといい4着購入した。


「いいものを買えたよ。ありがとう」


「こっちも商売だからね。また良いのが入ったら置いといてあげるよ」


 オズにお礼を言って店を出る2人。通りを歩きながらどうだい?と聞くと、


「うん。本当に軽いの。動きやすいのがわかる。それにしてもオズって凄いね」


「本当だよ。あまり自分のことは言わないけどエルフって凄い民なんだろうな。いつかエルフの森に行ってみたくなったよ」


「エルフの森か…エルフ以外は誰も場所を知らないのよね」


 エルフの森はこの大陸のどこかにある森の奥にあると言われているがエルフ以外の人がそこを見つけるのは不可能だと言われている。それが不便な場所にある為なのかそれともエルフの結界がエルフ以外を拒絶しているのかは分からないが。大陸にあるどの国にも属さずに独自の世界を作っているエルフ。大陸にある国家も敢えてエルフの森は探さないというのが不文律になっていた。



「これはまた凄い防具があったんだな」


 とリック。一軒家に戻って全員の前でアイリーンが新しい防具をお披露目した。アイリーンがその性能とオズから売ってもらった背景を説明すると皆びっくりする。


「我々のパーティが長命な森の民のエルフに認められたってのは嬉しいな」


 早速新しいインナーを身につけたマイヤーが言う。いやマイヤーだけじゃなく全員が新しいインナーを着ている。


「新しい防具に新しい片手剣、アイリーン、相当強くなったんじゃない?」

 

 マリアが言うとそうかもと素直に頷くアイリーン。


「アイリーンの戦闘能力が上がるのはパーティにとってもいい事だ。それにしても普通の糸じゃないとわかったレスリー、流石だな」


 リックが感心した表情でレスリーを見る。


「何か違うなってのはわかったんだよ。でも何がどう違うのかまでは分からない。まだまだ修行しないとな」


 皆黙って聞いていたが内心ではそこまで見分けられる事ができるレスリーの才能、スキルに流石だなと感心していた。

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