第9話

 じっと聞いていたレスリーはひょっとしてと思って、


「村長。今の果樹園の広さはその時の風水術士が教えてくれた広さなんですね」


 レスリーの言葉に大きく頷くと、


「いやいや全くその通りですわ。彼は果樹園を作る時に苗を植える場所も教えてくれましての。そして今苗を植えた場所以外に植えない様に、そして果樹園も広げない様にと言いました。広げると果樹園の木が養分を取り合って美味しくて大きな実ができなくなるとね」


 なるほどと感心しているレスリー。一方他の4人はまさに果樹園でレスリーが言っていた言葉通りだなと感心していた。


(レスリーは既にその風水術士のレベルにあるってことか)


 マイヤーとリックはそれぞれ内心で驚愕していた、レスリーがまだ20代前半で既にそのレベルに達しているという事だからだ。果樹園の広さについて、そして山の麓の草原、おそらく以前村があった辺りだろう、そこでは作物は育たない。正に全てがレスリーの言葉を裏付けている。


 レスリーは続けて気がついたことを言う。


「そして果樹園を作るために南側の斜面の木を切った。その木が今のこの村の柵ですね」


 レスリーの言葉を聞いた4人はそうなのかと納得する。そうして村長を見ると村長も正にその通りですとレスリーに答えていた。そうして


「この村はその風水術士の方の助言で生き返った村です。そしてまた若い風水術士さんが来て私らに安全な場所とそうでない場所を教えてくださる。本当にありがたいことです」


「いえいえ大変良い話しでした」


 リックが代表してお礼を言う。村長の話を聞いていた宿の主人がいい話を聞かせてもらったこれはサービスだよとこの村で取れる果実を出してくれた。


 翌日村長始め村人が見送ってくれる中5人は村を出て街道を東に向かっていった。


「レスリーの先輩ってすごい人だったんだね」


 街道を歩きながらアイリーンが昨日の話を思い出して話かけてくる。


「そうだな。俺ももっと頑張らないとな」


 他の3人は前を歩いている2人の会話を聞いてお互いに顔を見合わせていたその表情は


(レスリーだって相当なものだ)


 という表情だ。


 街道を歩いて右手に森を見つけたアイリーンがこっちよねと街道から草原に入っていくとそれに続く様に全員がその森に入っていく。周囲に風を飛ばしながら森の中の探索をする一行。例によってレスリーは生えている木の様子や下草、土の状態を見てはまた立ち上がって森を進んでいく。


 他の4人は昨夜の話でレスリーの風水術士としてのレベルが相当高いことを再認識していたので彼の好きにさせていた。


 たまに出会うランクBの魔獣はアイリーンとリックが剣を振ってて討伐しながら森の中を進んでいると小さな小川を見つけ、しゃがみ込んでその水を手に掬い取る。


「どうした?」


 水を手に掬ったままじっとそれを見ているレスリーにリックが声をかけてきた。


「ああ、この水なんだが普通の水とはちょっと違うんだよ」


「違う?」


 周囲を警戒しながら他の3人も近づいてきてどういうこと?と聞いてくる。


「薬草の成分が含まれている。この上流に薬草の群生地があるんじゃないか」


「ということはこの水を飲んだら回復するのか?」


 マイヤーがリックの言葉を理解して確認をするが


「そこまで濃くはないからおそらくわからないだろう。ただ間違いなく薬草の成分が入っている」


 飲んでも大丈夫か?というマイヤーに頷くと自分で手のひらで水を掬うと口に含むマイヤー。


「俺には普通の水としかわからない」


 マイヤーに続いてアイリーン、リック、そしてマリアも小川の水を飲んでみるが感想はマイヤーと同じだ。このまま上流に行ってみたいというレスリーの言葉に同意した4人は川にそって上流を目指して歩いていく。そして歩くこと2時間、


「初めてみたわ。薬草がここまで固まって生えているのを」


 アイリーンが声を上げているその視線の先には森の中のちょっとした広場の様に開けた場所一面に薬草が生えていた。小川はその薬草の群生地の中を流れている。


 普通薬草は森の中に生えているが固まっていることは少なく従い採取は1本1本取っては移動してという作業になる。だがここは広場のほとんどが薬草で埋め尽くされていた。


 その場でしゃがみこんでじっと地面と生えている薬草見ていたレスリーは


「ここの薬草には手をつけない方が良い気がする」


 どうして?という視線が4人からレスリーに注がれる。


「この薬草の中を通っている小川の水質が変わると下流の土壌が変わる気がするんだ」


「なるほど。薬草の間を流れているということが重要なんだな」


 リックの言葉に頷くレスリー。


「わかった。地図には書いておくが黙っておこう」


 マイヤーももちろんアイリーンとマリアも頷く。


「感覚的な言い方しかできなくてすまん」


「気にするなよ。俺達にはその感覚すらないんだからさ」


「そうそう」


 皆は納得しているがレスリーは自分はまだまだだと思っていた。なんとなくだがやってはいけないという事はわかる。ただやってはいけない事をやってしまった時にどうなるのか。そこがまだぼんやりとしている事が多い。はっきりとした未来が見えてこない。もっと鍛錬をしなければ。


 再び歩き出して森を抜けて途中で野営をして再び街道の南側を歩いていくと来る時に見つけた土壌の良い草原に到着する。


「うん。街道の両側どちらも素晴らしい土壌だ」


 そして立ち上がるとぐるっと周囲を見渡して


「ここが穀倉地帯になったら相当の量の収穫が期待できそうだ」


「間違いなくやるから安心してな、レスリー」


 将来の国王陛下がコミットしているんだ間違いないだろう。頼むぜとリックを見て言う。


 途中で村に泊まり、野営をして行きと同じ20日程経った昼過ぎに辺境領最大の街であるアルフォードに戻ってきた。


 そのままギルドに顔を出した5人。時間帯が中途半端だったせいかギルド内はガラガラで、そのカウンターで今回狩った魔獣の魔石の換金を頼むと5人はそのまま一軒家の自宅に戻っていった。


 自宅に戻ると各自が部屋で風呂に入って旅の疲れをおとし、さっぱりとしたあとで1階の居間に集まってくる。当たり前だが女性陣は時間がかかる。ようやく全員が揃うと、


「とりあえず明日は1日休養日にしよう。そして明日の夜にまた集まって次の南へ出発日を決めようか」


 リックの提案にレスリー他メンバーも異存はない。ソファに座りながらレスリーはこれからと明日をどう過ごそうかなと考えてながら聞くともなく周りのやりとりを聞いていた。マイヤーは今回の西地区の探索結果を地図に記入するのと南方面の情報収集でギルドと図書館に行くつもりだと言っている。


 マリアとアイリーンは久しぶりに街をぶらぶらしてお店を見たり喫茶店に行こうかなんて話をしていた。


「レスリーはどうするんだ?」


「予定はないな。どうしようかと考えていたところ」


「俺と一緒だな。じゃあ明日は街をぶらぶらするか」

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