第7話

 翌日再び街道の北側を探索していき、途中で森の中の様子や川の様子を見ていた一行はアルフォードを出て20日ほどたった夕刻に辺境領最西の村に着いた。この村はそれほど高くない山の裾の少し高い場所にあり周囲をしっかりと柵で覆われていて、その中に500人ほどの村人が住んでいる。その村人のほとんどが農業をしており村の周辺には山の南側の斜面を利用した果樹園があった。


 「日当たりが良いので果実を育てるのにはいい環境なんですわ」


 村に一軒しかない宿で夕食をとっているとそこの主人が教えてくれる。


「確かに美味しいよね。これって街で買ったら結構いい値段するわよ」


 アイリーンがここで採れる果物を口にして感想を言うと皆も美味しいと言いながら出されている果物を口に運ぶ。


「この辺りは魔獣は出るのかな?」


 リックが果物を口に運びながらそばに立っている主人に聞くと、


「あまり見ないね、村の柵の外に果樹園があるが滅多に魔獣は見ないね。山の上からも降りてこない。ただこの山の裏側は魔獣がいるって話しだ。村の連中は山の裏には行かないから本当のことは知らないがね」


 リックの話しに答える宿の主人。そうしてごゆっくりと言って主人が厨房に戻り食堂にいるのが5人だけになると


「レスリー、明日はどうする?」


「そうだな。まずは果樹園がある場所とその周辺を見たい。それからできたらその山の裏にも行ってみたいんだが」


「それでいいんじゃないか。行き先はレスリーに任せているし」


 マイヤーの言葉で明日からの方針が決まった。その後は旅館の部屋に戻ったメンバーは久しぶりにベッドの上でゆっくりと休むことができた。


 翌日朝食を旅館で済ませると一行は村の外にある果樹園に出た。緩やかな山の斜面を利用して沢山の木が植えてあり大きな実をつけている。


 レスリーはその果樹園の土を掴んではじっくりと見てそして顔をあげると


「いい場所だよ。日当たりがいいせいか土がたっぷりと養分を含んでいる」

 

 そうして果樹園の中をぐるっと見て回り果樹園の端までくると


「果樹園の広さもいい感じだ。木に養分が十分に行き渡っている。これ以上果実の木を増やすと木同士で地中の養分の取り合いになる。そうなるとどの木にも満足な養分が行き渡らなくなってその結果果実の味が落ちるだろう。これ位がちょうどいい感じだ」


「なるほど。広ければ良いって事でもないんだな」


 リックが感心している。


「場所や条件による。ここはそう言う場所だということだよ」


 そのまま果樹園を抜けるとそのまま山裾に広がる森の中に入る手前で一行は立ち止まって山裾から遠くを見ると自分たちが歩いてきた街道や草原が一望できた。


「すごく綺麗ね」


「うん、いい場所。こう言うところで一日のんびりしたいね」


 マリアとアイリーンが話しているのを頷きながら聞いている男達。目の前に辺境領の雄大な景色が広がっている。


「あの街道がアルフォードまで続いているんだな」


 顔を南から東、正面から左に向けるとそこには木々の隙間からまっすぐに東に伸びている街道が見えていた。


「それにしても心地よい風が吹いてる」


 マイヤーとリックもしばらくその景色を楽しんでいた。もちろんレスリーも皆と同じ様に遠くを見ながらこの自然は大事にしないとなと思っていた。


 そうして一行は山裾に入っていく。中に入ってしばらくしてからレスリーが


「果樹園もそうだったけどここも魔素が薄い。これなら魔獣はほぼいないだろう」


 果樹園を抜けた山は自然のままに放置されている。山裾から山の頂上に向けて緑の木々が高い幹を天に伸ばす様に生えていて足元には赤みがかった土と低木の木々や草が生えている。その木々の間を一行はゆっくりと進んでいく。


 レスリーは例によって時々立ち止まると木々の様子を見たり下に生えている草や土の状態を見ていた。周囲には風をとばしておりリックら4人も四方に目を向けて警戒をしている。


 村が山の南に位置しており一行が山の西側に差し掛かってきた時、


「この辺りから魔素が濃くなってきている」


 レスリーの言葉でリックら4人が戦闘態勢にはいった。


「正面の右上、斜面の上にランクBが2体いる」


 飛ばしていた風が探知した魔獣の気配。リックとアイリーンは抜刀しマリアが5人に強化魔法をかけ、マイヤーは杖を手にしっかりと握ると気配のする方向に近づいていく。


 そこにはランクBのウルフが2体、こちらを見つけると唸り声を上げながら襲いかかってきた。事前に敵を察知していたリックがナイトのスキルで敵対心をアップさせて2体の注意を自分に引きつけたところでアイリーンがリックの横から剣を振って1体を倒したと同時にマイヤーの精霊魔法がもう1体に直撃して2体のウルフがその場に倒れた。


 魔石を取り出すとレスリーが作った穴に2体の魔獣を埋めて土を被せる。そうして再び進み出して村がある山裾を一回りして村に戻ってきた時はすっかり日が暮れていた。


 旅館に戻って遅めの夕食をとりながら話する5人。


「山の南側だけが魔素が少ないってことになるのか?西、北、南とBランクの魔獣が生息するエリアになっていたな」


 今日の活動をマイヤーが整理する様にふりかえって言うと、


「そうなるね。この南側だけが魔素が少なかった。おそらくだけどここは風の通り道になっているんだろう」


「風の通り道は魔素が溜まりにくいってこと?」


 聞いてきたアイリーンに顔をむけると


「俺もまだよくわかってないんだけど、この村の場合はここらの地形のせいか魔素が村の裏側、山の北側に集まりやすくなっている様だ。溜まりやすい場所があれば魔獣はそこに集まる傾向がある。逆に魔素が均一なら魔獣の生息地は分散するみたいだよ」


「じゃあこの村は襲撃される可能性が低いってことね」


「そうなるな。絶対無いとは言えないけどね」


 アイリーンとレスリーのやりとりを聞いていたマイヤー


「仮に魔獣が来てもランクBクラスならこの村のこの柵なら十分だろう」


 そうだなと頷くメンバー。


「じゃあ明日は山の上に行ってみる?」


「そうしよう」


 マリアの提案にリックが賛成して明日の方針が決まった。

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