第6話

 翌朝、リックを先頭に一行はアルフォードの城門を出ると西に伸びている街道を進み出した。アルフォードは北に向かって伸びているラウダーに続く街道は人通りも多いが西に伸びているこの街道は人の行き来も多くなく従って街道の幅もそれほどは広くない。とは言っても馬車がすれ違えるほどの幅の土の道が伸びている。


 アルフォードを出たところにある森は既に調べていたのでそこは素通りして街道を進み初日は小さな村に一泊する。この国では大抵人が一日歩いた距離の所に村が点在しており朝出ると夕刻には次の村に着く様になっていた。もちろん村がない場所も多くあり、その時は野営をすることになる。


 村にある宿に部屋を取りそこの食堂で夕食を取る5人。


「今日は特に何もなかったが、明日からは森の中に入るから気を引き締めていかないとな」


「それにしても思いの外街道が綺麗だった。辺境領主がしっかりと仕事しているな」


 マイヤーとリックの言葉に頷くメンバー。土で出来ている街道は定期的に整備しないと轍が深くなり歩きにくくなるが今日歩いた限りでは定期的にきちんと整備している様で轍も気にならなかった。


 レスリーは自然の状態を見ながらの移動だがリックとマイヤーは将来を見据えて各領地の事情を調査している。領主がきちんと仕事をしていない領地は道路の補修もせずに放置状態になっていたり、橋が崩れかけていたりする。


「こう言う領主ばかりだといいんだがな」


 そう言うリックを見ているレスリー。どうやら彼にはそうでない領主の思い当たる節がある様だ。そう思ってもそれは口には出さずに、


「明日からはきつい行軍になるだろう。今夜はしっかり休んでおこう」


 レスリーのその言葉で食事を終えた面々は早々にそれぞれの部屋に戻っていった。


 翌日、朝早くに村を出て街道を西に進んでいると2時間程して右手の草原の先に林が見えてきた。


 街道から外れて林に向かう途中でレスリーがいくつも風を作って前方に飛ばしそして一行の周囲にも飛ばす。それと同時にマリアがパーティ全員に強化魔法をかけてリックとアイリーンは抜刀した。


「いるな。魔獣が固まってるがランクはBだ。それほど脅威を感じない」


「わかった。レスリー、俺達に任せろ」


 リックの言葉にわかったと返事をする。レスリーの情報で林の中に入っていくとすぐに固まっていた4体のランクBが人間を見つけて襲ってきた。リックとアイリーンが前に出て向かってくる魔獣を剣で切り裂き、マイヤーの精霊魔法が背後から魔獣を倒す。


 あっという間に4体を倒し、魔石を取り出すとそのまま進んでいく一行。


 林はそのまま森になっていった。木々が生い茂り起伏が出てくる。レスリーは周囲を警戒しながら森に生えている木々の状態を見ていた。


「前方にランクA2体だ。足止めするからあとは頼む」


「わかった」


 そうしてレスリーが杖を前に突き出して足元から飛び出た土の槍が魔獣を足に突き刺さって足止めしたところをアイリーンの片手剣とリックの片手剣が魔獣の首を刎ねて絶命させる。


「装備を強化してよかったな」


「ほんとね、身体が動けるし剣の切れ味も鋭くなってる」


 4人が全員オズの店で購入した腕輪の効果に満足していた。少しずつのスキルの上乗せが本来のスキルとかけ合わさって相乗効果でさらに強くなるのを実感していた。


「こんなにスキルがあがるのにどうして買わないのかしらね」


「いろいろ事情があるんだろう。同じお金なら武器に金をかけるってやつもいるだろうし」

 

 アイリーンとリックのやりとりを聞きながらレスリーは森の中の様子を見ていた。この辺りは全く人の手が入っておらず自然のままだ。木々を見ても真っ直ぐに上に伸びて生えており、小川の水も綺麗だ。これなら問題はないなと安堵の表情を浮かべるレスリー。その表情を見ていたマリアが


「この辺りは問題ないって顔してるわよ」


「ああ、問題ないね」


 そうして再び森を進んでいく一行。森が抜けると目の前には広大な草原が広がっていた。ほとんど起伏のない草原地帯を心地よい風が流れる中、一行はゆっくりと草原を進む。


 レスリーは草原を歩きながら途中で何度もしゃがみ込んでは地面の様子を見ていた。そうして草原を横切る様に流れる川に近づいた時に又しゃがみ込んで草が生えている土を手に掴み間違いないと言うと立ち上がって後ろにいたリックらを見て、


「森を抜けてからずっとこの草原の土を見ているんだが、この辺りの土壌は養分が豊富で農地にすごく適している。この川の水も使えるし、ここで農業をしたら間違いなく成功する」


 その言葉を聞いたリック顔を左右に動かして草原を見渡し、


「この辺り一帯全てかい?」


「そうだこの草原全てだ。この川に沿って左に歩くと街道にぶつかるだろう。そこまで歩いてみたい。街道近くでも同じ土壌なら街道のそばで農業をしたら魔獣もあまり来ないだろう」


 レスリーの言葉に従って一行は今度は川に沿って南に歩いていくと1時間ちょっとで街道にぶつかった。街道には橋がかかっていて川は南に流れている。レスリーは1人で街道の南側の草原に行くとそこでも土を掴んで見ていたがすぐに戻ってきて


「南側も同じ土壌だ。南側は見た限り森も林もない。安全面からみると街道の南側の方がいいかもしれない。いずれにしてもこの辺りの街道の両側を放置しておくのは勿体ない話だよ」


 レスリーの話を聞いている他の4人。マイヤーは持っている地図にこの場所に印をつけている。


「もう何度も同じセリフを言ってるけど、流石ね」


 アイリーンが感心していうとマリアも他の言葉が浮かばないほどよねと言ってから


「リック、これってすごい情報でしょ?」


「もちろんだよ。新しい農地が増えれば食料が増えて国も民も皆潤うからね。しかも草原は街道の左右に広がっている。広大な農地になるよ」


 そう言ってからマイヤーを見ると、


「大丈夫だよ。地図に印をつけた」


 顔を向けられたマイヤーが答える。


「レスリーがいなかったらわからなかった。広い草原で気持ちがいい場所だ…で終わってただろう。ありがとう」


 リックがお礼を言うが


「俺の仕事はそういうものさ。それよりもここの開発は大変だよ。街道の両側に相当な広さがある」


「その点は大丈夫だ。場合によっては王家から金を出してでも開発するよ。それだけの価値がある」


 リックは目の前に広がる草原を見ながらこの広大な土地を開発して得られる農作物のことを考えたら初期投資の開発費用はすぐに回収できるだろうと考えていた。リックの隣にいたマイヤーも同じ様な考えだった様で、


「金をかけてもすぐに回収できるだろう。この広さが農地になったら相当量の食料が確保できる。やらない手はないだろうな」


 レスリーとリック、マイヤーのそれぞれの立ち位置は違うが目標は同じだ。国が潤う方法を探している点において。


 せっかくだからとその後は街道の南の草原も調査して北側と同じだと確認したレスリー。その報告を聞いたリックとマイヤーは満足げな表情をする。


 時間をかけて街道の南側の調査を終えた頃には陽は大きく西に傾いていた。そのまま街道の南側の草原で野営の準備をする。周囲に風を飛ばして警戒しながらの夜食の時に


「レスリー、ここ以外でもいい場所や逆に悪い場所を見つけたら遠慮なく言ってくれ。開発すべき場所は開発し、開発を止めるべき場所は止めさせるからな」


「わかった」


 その後夜の見張りを交代でしているとき、レスリーとペアになっているアイリーンがレスリーの隣に寄り添いながら聞いてきた。


「ねぇ、このパーティって王都に戻ったら解散になるよね、リックとマイヤーは国の仕事をするって言ってるしマリアはリックの奥さんになるでしょ?そうなった時にレスリーはどうするの?」


 アイリーンの肩に手を回して抱き寄せていたレスリーは


「俺は師との約束がある。国中を回って見てこいという約束が。だからパーティが解散しても国中を廻るつもりなんだ」


「そう…」


 つぶやいたアイリーンの肩に回している手に力を入れてぎゅっと抱きしめると


「一緒に廻ってくれるかい?」


 アイリーンはレスリーにしがみついて


「うん」


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