数十年ぶりに誕生した風水術士、その能力は半端なかった
花屋敷
序章(そして終章)
王城にて
第?話 Prologue & Epilogue
部屋の窓辺に近づいてバルコニーへと続くガラスがはめ込まれている大きな扉を開けると外から室内に心地よい風が部屋に入ってきた。扉を開けた男性が女性の背中を手で軽く押し、二人でバルコニーに出るとそこからは王都の街の城壁の外に見える畑や草原、そして遠くの山々が視界にはいってきた。
バルコニーから城の外、遠くを見ている男性の年齢は30代の後半。引き締まった身体、落ち着いていて周りに安心感を与える雰囲気を全身から醸し出しており、精悍な顔に銀色の髪、濃いブルーの瞳は慈愛に包まれた優しい目をしている。
そしてその隣には女性が隣の男性に寄り添う様にして立っている。年齢は隣の男と同じだが年齢よりもずっと若く見える。美人で大きめのクリっとした黒い瞳が男と同じ様に城の外の遠くにある山々を見ている。長めの黒い髪を頭の後ろで一つにまとめて肩甲骨のあたりにまで垂らせていた。
男性は深い緑色に金の縁取りと刺繍がされたローブに同色のズボン。そして右手には足元から肩の辺りまでの長さのある使い込まれた長い杖を左手に持っている。この杖は決して歩く時の補助の杖ではない。彼の仕事に於いて必要不可欠な杖だ。この杖は今まで幾度となくこの国を救ってきた。いくばくもの風雪にも耐えたこの杖はかれこれもう10年以上使っている。
そしてその隣の女性は燕脂色を基調としたローブ。白の縁取りのデザインは隣の男と同じ模様だ。そして同色のゆったりとしたズボンを履いている。ただ男性と違うのは杖の代わりに片手剣を腰に差しているいることだ。
二人が着ているローブとズボンはエルフの村の長老から是非にと贈答された二つとない業物である。
王城に入る者は騎士や王室の魔導士など城に勤めている者以外は武器の帯刀が禁じられているがこの二人は例外なのか当たり前の様に杖や剣を装備していた。周囲の騎士達や衛兵も何も言わない。
バルコニーから窓の外の景色をじっと見ている二人の背後から声が聞こえた。
「老師、奥様、そろそろ国王陛下との謁見の時間でございます」
その言葉に振り返ると部屋の中にこの王城の警備の最高責任者である王城守備隊の隊長である騎士が立っていた。声をかけてきた騎士に男性がわかったと隣の女性の腰に手を回してバルコニーから部屋に戻ってくる。そして扉の近くで待機している別の騎士が開けてくれたドアから女性と二人廊下に出ると最初に声をかけた騎士が先頭を歩きその後ろにローブを着ている男女、そしてその後ろにも騎士が2人という並びで王城内をゆっくりと進んでいく。
「その老師という言い方はどうにかならんのか?いつ聞いても年寄りくさくて気にくわないんだが」
「国王陛下がそうお呼びしていらっしゃる以上は私どもも同じ様にお呼びさせていただきます」
老師と呼ばれた男の前を歩いている守備隊長の騎士が顔を前に向けたままで答える。
「まったくリムリックも余計なことを言いやがって。あいつも私と同じ歳のくせに」
普通なら国王陛下のことをあいつ呼ばわりすれば侮辱罪に問われても仕方のないところだが老師の前を歩く守備隊の隊長、そして後ろを歩く2名の騎士達は歩きながら注意もせずに苦笑しているだけだった。今自分たちが案内をしている老師と呼ばれている男とその奥方の2人の数々の偉業。そしてと彼らとこの国の国王陛下との関係は王都はもちろんの事、国中で知らない者はいないほど有名だからだ。
隣を歩く女性が男性に諌める様に
「もういい加減に諦めたら?相手は国王陛下よ。何言ったって勝てる訳ないじゃない」
「そうなんだけどさ、それにしても」
とぶつぶつ言いながら廊下を歩く老師。
王宮内を少し歩いていくと謁見の間だ。国王陛下との面談は普段はここで行うが、今日はこの部屋を素通りしてその奥の部屋に向かう。奥の部屋の前につくと扉の両側に騎士が立っていたが守備隊長を見るとさっと扉を開ける。守備隊長に続いて部屋に入っていく男女。守備隊の騎士達は入った部屋の扉の前に移動するとそこで直立不動で立つ。
この部屋は国王陛下と特に近しい人たちが陛下と話をする談話室だ。談話室と言っても部屋は大きく、そこには大きなソファにテーブルがあり、反対側には椅子とテーブルが備え付けられていてちょっとした会議や打ち合わせができる様になっている。
老師と言われていた男性と女性が部屋に入るとソファに座っていた国王ともう一人、この国の宰相で国王の右腕と呼ばれている男、マイヤー、そして国王妃が立ち上がり皆握手をする
テーブルの上にはジュースと山盛りの果実が用意されていた。
「レスリー、アイリーン、久しぶりだな」
「リムリックもマリアも、そしてマイヤーも元気そうでなにより」
相手が国王でも全く普段と変わらない口調で話しかける老師ことレスリー。
「どうした?ご機嫌斜めか?」
レスリーのブスッとした表情を見て問いかけてくるリムリック2世国王。
この部屋にいるのは国王とその王妃のマリア、宰相のマイヤー、レスリーとアイリーン、護衛の騎士達だけだ。リムリック2世国王も普段の堅苦しい口調ではない。
「リックが俺のことを老師と言ってから周囲も皆俺を見て老師老師と言いやがる。年寄りくさいからやめてくれと言っても国王陛下がおっしゃっていますからの一点張りだ」
そういうと隣のマイヤーを見て
「マイヤーからも言ってやってくれよ。つまらないことを言うなってな」
歯に衣着せぬレスリーの言葉にマイヤーはもちろんリムリック2世国王も声をあげて笑って。
「そう言うな。レスリーの偉業は老師と呼ばれるに相応しいと思ったからそう言ったまでさ」
国王のリムリック2世が言うと隣のマイヤーも
「彼の言う通り。風水術士として魔獣を倒し農地や河川を整備し人々の暮らしを飛躍的に向上させた。その功績を讃えて老師と呼んでいる。ちゃんと理由はあるな」
さらには国王妃のマリアも
「レスリー、あなたを老師と呼ばずして誰が老師なのよ。それよりもアイリーン、元気にしてた?」
レスリーは国王妃のマリアにも文句を言おうとしたが先にアイリーンに話をふられて文句を言うタイミングを逸してしまう。
「おかげさまで元気よ。レスリーは老師って呼び方が気に食わないって毎日ぶつぶつ言ってるけどね」
その言葉でレスリー以外の4人がまた声を立てて笑った。
この5人が揃うのは半年ぶりだ。国王とその奥方の王妃、そして宰相は常に王城の中におり日々貴族との面談や政の打ち合わせをしている。
一方、レスリーとアイリーンは普段は王都から少し離れた森の中に家を建ててそこで住んでいる。3人が王都に住めと言っても頑として受け付けず、俺は自然の中で暮らすのが合っているのさとその場所に家を建て、それ以来普段はその家にアイリーンと2人で住んでいる。とは言っても年の半分程は国内のあちこを2人で歩き回っていてその家にはいないが。
そして家にいる時も大抵は家の近くの森の中や山を歩いており滅多に王都には行かない。奥方のアイリーンも都会より森の方がずっと気楽でいいわよとこちらも都会に住む気は全くない。
もっとも王城にいる3人もレスリーとアイリーンが郊外の森に住んでいる本当の理由を知っていた。
レスリーの家は丸太を組み合わせた今でいう平屋の大きなログハウスでそのすぐ近くにはレスリーが自分の師と仰ぐ大きな大木が生えている。この家の近くは魔素が少なくて魔獣の生息エリアにはなっていない。
今の彼と彼女は森の中でこの大木とともに暮らすのが一番の安寧なのだ。
そしてこうして5人で逢う時はレスリーとアイリーンも森の家から出て王都に出向いていく。それも護衛もつけずに二人で歩いて向かうのだ。周りから馬車だ護衛だというのを全て断っていつも2人で歩いて王都に向かうと王城に顔を出す。
この5人は昔、20代の頃から冒険者としてパーティを組んで以来の仲間だ。5人で国内中を動き廻って魔獣を討伐し、森の奥を探索し、時にはダンジョンを攻略した一流の冒険者達だった。
そしてパーティが解散しても5人はこうして年に数度仕事ではなく完全にプライベートで会っては旧交を温めている。とは言っても実際はレスリー以外の3人はいつも王城におり普段から顔を合わせているのでこの会合は実質的には3人がレスリー夫妻と会いたいがための会合となっていた。もちろんレスリー夫妻も昔の仲間に会うのはいつも楽しみにしている。
「ことしも豊作になりそうだな」
ひとしきり笑った後で今は宰相であるマイヤーが言う。
「農作物もいい感じで育っている。師に聞いても今年も去年同様に大きな災害はなさそうだと仰っている」
「それは良い話しだ。国民がしっかり食べられてかつ備蓄できる食料があるなると安心だな」
レスリーの言葉にリムリック2世国王が言い、マイヤーもマリアも大きく頷く。
「そういうことだな。これでまた国王の評価があがる、いいじゃないか」
「これも老師のおかげだな」
「それを言うなって言ってるだろうが」
そこでまた笑いが起きる。
その頃になると皆すっかりリラックスしてきてそれから遅くまで最近の話や冒険者時代の話に花を咲かせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます