第18話 人外用
俺は食事の後、風呂に入って自分の足を観察していた。実は、異世界に転生して数日。体に問題が発生していた。
足先が痛いのだ。それは確実に、奇怪な体に変異した事が原因であった。足の爪は鉤爪になり、長さ数センチほどに伸びている。緩くカーブを描いているのだが……靴を履いていると爪が当たって痛い。
それが原因かは分からないが……下半身に不調が続いている。
犬なんかもそうだけど、ペットって爪を切ってあげなきゃいけないんだよね。ペット用の爪切りがあって、室内で飼っている場合は切ってあげた方がいい。ペットショップとか獣医に相談するといいだろう。
野生で暮らしている場合は爪って勝手に削れていくけど。伸びると割れたり引っ掛かったり、転んだりして危ないのだ。だが……素人が切った結果、ペットが死んでしまった例もある。出血したり、病気になったり。暴れた所を無理に押さえつけるのは危険なのだ。
不安になってきた……爪切りじゃなくてヤスリにしようかな……。
俺は携帯電話で鳥類用の爪切りを探す。ついでに、獣人用の靴下なんかも検索していた。
すると、まぁまぁな数の品が出回っているようだ。流石は人外ワールドという事か。
「タッチー、おなかがすいたですー。……って、何してるですか? まさか……ッ」
そこへ、ノックもせずにヴィータが部屋に入ってきた。
いや「まさか……」ちゃうわ! 爪を切りたいねん。っていうか腹が減ったって……小一時間前に夕飯を食べたばかりだが? 忘れてしまったのだろうか。
前回、買い溜めしておいた食糧をヴィータが勝手に食べてしまった。あの一件以来、我が家の食事事情は許可制になった。食べる時、お腹が空いた時は俺に言う事。それがルールとなっている。
「コーンフレークがあるから牛乳をかけて食べとき」
「分かったですー!」
質より量だな。今後はコスパ重視で買い物をしないといけなさそうだ……。
ヴィータは声を弾ませて、部屋を出て行った。扉が閉まったのを確認して、俺はまた検索を再開した。
爪切りは……ふむふむ、ネイルクリッパーというのか。俺の脚ってダチョウやエミュー並みにでかいからな……合うサイズがあればいいんだけど。インコや文鳥の比じゃないからね。
案外高額なのだが、購入しておいた。それから獣人用の靴下を探す……のだが、見つからない。「靴下 有翼人用」で検索してみるが……全然見つからなかった。存在しないみたいである。
獣人って言っても色々居る。鉤爪の付いた俺の脚に合う物は無さそうだ。
あいつら、そもそも靴履いてないもんな……。オオカミさんも裸足だし。となると、俺も裸足で外を駆け回らなきゃいけないのか? い、嫌だよ! そんな未来少年コナンみたいなの! あいつら未来とか言っておいて全然未来じゃないし……!
いや、それに怪我しそうだし、シティボーイの俺には無理だ。
それから一個問題があって、蒸れるのよね。今、どうやらアロファーガは夏季のようで。季節という概念があるのか分からないけど、暖かな気候をしている。で、俺の足って毛がボーボーなもんだから、ズボンを穿いていると非常に蒸れるんだよね。何とかならないだろうか。
「ああ、そうだ、短パンにすればいいのか」
オオカミさんはハーフパンツだったよな。それからレア社のキャラクターも半裸だ。あいつらを獣人と呼んでいいのかはさておき……露出面積を増やすってのは理に適っている行為なんだな。きっと。
俺は大手ネットショップを徘徊して、良さそうな商品をカートに追加していく。短パン、それからサンダルがいいな。靴下がないなら穿かなければいい。逆転の発想だ。
……これでよし、と。
段々と衣食住が充実してきた。これで生活は安定しそうかな。後は……欲を言えばテレビを購入したい。まぁ、でも今はいいか。ラクリマの探索に移りたい所だ。
勉強もない。趣味もない。そうなると就寝まで時間がある。俺はキッチンに行き、明日の朝食を作り置きしようと考える。ついでに、野菜なんかは炒めておいて、冷凍しておけば数日は保存が利いた筈だ。
リビングに行くと、ヴィータが寝ていた。ソファがあるのだが、彼女の寝床になっている。一応ヴィータの部屋はある筈なんだけど……リビングに居る事が多いみたいだ。
少女らしい、あどけない寝顔。穏やかな寝息。思わず笑みが零れた。もし……俺が前世の
ふとキッチンに行くと、空になった皿があった。その横にはコーンフレークの袋。あと、牛乳。全部空だった。
……皆、知ってる? 業務用のコーンフレークって一キログラム入っているんだぜ。なぜ、もうカラなのかな? 牛乳も、リッター単位でカラなんだけど……。
はぁ……一週間はもつと思っていた。……計算が甘かった。一日何キロ食うんだよ、こいつは。猛獣か。
国王に貰った大金も、底をつく可能性がマジで出てきたな。
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