幕間 十七年ぶりの再会(2)
「この国は半年後に共和制となり、それに合わせて王族は全権利と地位を放棄する。引継ぎの準備を整えたら、わたし達は国王や王太子ではなくなるのだよ」
「はい、存じ上げています。道中に車内で、兄様に伺いましたので」
私を第一王女としてというあのお話は半分ウソで、お父様と兄様はジェナの将来を考え王制の廃止を決めていた。
現状維持の方が良い暮らしをできるのに、そうしない。やっぱりお父様と兄様は、素晴らしい人達。尊敬できる人達です。
「まもなく公布を行う故、お前に王族としての幸せを与える事はできない。すまないが、此度の介入が最初で最後の権力行使となってしまうのだよ」
「いいえ、それだけで充分です。二度も窮地を救っていただけて、本当に感謝しているのですから」
それに。
「それに私は、王族としての幸せなんて要りません。これからは2人のお父様とお母様、そしてなにより……。ディオン兄様と自由に過ごせるというだけで、幸せなのですから」
兄様との生活は、小さな頃からの夢だった。
長年抱いていた希望が叶うのなら、他のものなんて要らない。この事実は、王女の地位なんかよりずっとずっと掛け替えのないものなんだよね。
「パストとネールからの手紙を読んで、その感情は把握していたよ。そしてそれは、わたし達も――ディオンが、長年望んでいた事だ」
「伸ばされたその手を握る事ができなくて、リーズと別れる時はいつも辛かった。けれど、今はもう違う。ちゃんとその手を掴める」
傍にいたディオン兄様が、右の手を優しく握ってくれる。
「これからはもう、僕達を縛るものはない。好きな距離で好きなだけ、リーズに触れていられる」
「です、ね。私も、触れていられます」
握ってくれた手を握り返して。微笑みに微笑みを返す。
「兄様。私はずっと我慢していて、甘えたい気持ちがすっごく溜まってるんです。ディオン兄様が困っちゃうくらいに甘えちゃいますから、これから覚悟してくださいね?」
「僕の方こそ、甘やかしたい気持ちがすっごく溜まっているよ。リーズが困っちゃうくらいに甘やかすから、これから覚悟するんだよ?」
お互いに悪戯っぽく目を細めて、一緒にクスっと笑う。そうしていると、
「無粋だと承知だが、わたしも敢えて言わせてもらおう。リーズは勿論の事、ディオンにも父らしい事は殆どできていなかったからな。お前達が鬱陶しがる程に可愛がるから、これから覚悟しておくんだぞ?」
ライノスお父様も混ざって、今度は三人でクスリ。それから私達は生まれて始めて3人で時間を気にせずお喋りをして、この瞬間から十七年の空白を埋める毎日が幕を開けたのでした――。
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