7話(2)

「フィルマン殿はマリー・レーヴァの誘惑を受け、あっさり心変わりをしてしまった。その結果、婚約者であるリーズが邪魔になってしまった。そこでマリーと共に件の五人や医師を操り、我が妹に無実の罪を背負わせたのですよ。非難を浴びる事無く、婚約を破棄できるように」

『『『あの発表は――ううん。今の発表も、ウソだったの……?』』』

『『『根も葉もない話をしたら、国際問題に発展する……。だから、本当だとは思うけど……』』』

『『『クノアス殿下の、言葉だけではね……。証拠がないと、信じれなないわよね……』』』

「証拠なら、きちんとありますよ。……皆さん、お願い致します」


 兄様が壇上から促すと、5人の男性がしずしずと登壇した。この人達は、あの5人への報酬を販売した店の責任者さんだ。


「僕はフィルマン殿の説明で違和を覚え、独自に調査をしていました。そうしたらこちらの方々と出会い、良心の呵責に苦しんでいた皆様は勇気を出して打ち明けてくれたのですよ。マリー・レーヴァが例の5人に礼として渡していたはずの品々は、フィルマン殿の使者が購入していたと」

「「「「「はい。間違いありません。王家より口止めをされておりましたが……。わたくし共が接客し、販売致しました」」」」」


 男性が一様に首肯して、一人一人が大よその来店時刻とその時の状況を口にしてゆく。

 昨日お兄様は『少々準備』と言っていて、今日は数時間出掛けていた。その間に出し惜しみしないディオン兄様が、出し惜しみしない何かをして協力者にしたみたい。


「実は僕の国では、明確な証拠がないと立証できない、しかしながら犯人達が決して証拠を残してはくれない問題がありましてね。それを解決できるように、とある粉末を用いて『指紋』を特定する技術を生み出したのです。購入の際に使用した紙幣や硬貨を調べれば、誰が持っていたか分かるのですよ」

「…………………………っ。……………………」

「店の方曰く王族とは最近取り引きがなかったようですし、使者殿個人もなかったそうです。にもかかわらず紙幣に使者殿の指紋が付着していたら、おかしいですよね?」

「…………………………っ。……………………」

「幸いにも購入時に使用した紙幣は一部が残っており、すでに紙幣と硬貨の――ついでに、店内にあるショーケースなどの確認も、終わっております。もしも事実であるなら再調査を行わないといけませんので、使者殿の指紋を採取させていただけますか?」

「………………………。…………………………」


 フィルマンは、一向に返事をしない。激しく動揺した目をしきりに動かして、言い訳を必死に探している。


『『『……殿下が無言ということは……。やっぱり――』』』

「僕への説明は全て嘘偽りだった、という事になりますね。…………このままでは埒があきませんので、国際法に則って捜査に介入させていただきましょう」


 ため息を一つ。兄様のそんな行動を合図に一部の人々が動き出し、統率された動きで12人の男女が壇の傍に整列した。

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