7話(1)

7話(1)

「本日はお集まりいただき、感謝します。これより大事なお話が2つありますので、どうか御耳を傾けてください」


 ナイラ城の裏側にある、立派な壇が設けられた大きな広場――初代国王が建国の演説をしたとされる、2000人以上を収容できる『建国広場(けんこくひろば)』と呼ばれる場所。そこには大勢の人が集まっていて、フィルマンは丁寧に頭を下げた。

 ……コイツって、外ずらだけはよくって……。だから私も、良い人だって思い込んじゃってたんだよね……。


「一つ目は先日お伝えした、不祥事によるリーズ・ライヤルとの婚約破棄の訂正と報告です。この件は全て、被害者とされていたマリー・レーヴァの自作自演。リーズの婚約に嫉妬していた彼女は医師と目撃者を買収しており、リーズ・ライヤルは無実だったのです」

『『『あの事件は、なかった話!? じゃ、じゃあ……っ』』』

『『『婚約の破棄は、中止……? ライヤル様が、王太子妃に戻られる……?』』』

「いえ、婚約は破棄されたままです。ただし経緯が変わり、自分が勘違いの責任を取る形での解消となります」


 信じられなかったこと。復縁する資格はないこと。などなど。どよめき始めた会場に心にもない言葉を伝え、その騒ぎは納得と感嘆と共になくなった。


「そしてマリー・レーヴァとその一味についてですが。国際法に則り、彼女達は全員が極刑となります事をご報告します」

『『『??? 国際法……?』』』

『『『伯爵家と伯爵家の問題なのに……? どういうこと……?』』』

「皆さんの疑問に関しましては、こちらの方よりご説明があります。……ご傾聴をお願いします」


 無駄に紳士的に促され、控えていた私達は姿を現す。

 そうしたら建国広場は、一瞬にして大騒ぎ。兄様を目にした全員が唖然となって、何回も目を瞬かせた。


『『『あ、あそこにいらっしゃるのって……』』』

『『『ジェナの、王太子殿下……。ディオン・クノアス様……』』』

『『『どうして隣国の王太子殿下が……? この騒動と、なんの関係があるんだ……?』』』

「皆様の貴重なお時間を不必要に頂くのは忍びない故、単刀直入に申し上げてまいります」


 兄様はそう伝えたあと手短に自己紹介を行い、私を一瞥。優しい、温かい眼差しが注がれた。


「自分の隣にいるリーズ・ライヤル。実を申し上げますと彼女の本当の名前は、リーズ・クノアス。とある事情で存在が秘匿されていた、自分の実妹――第一王女なのです」

『『『…………。お、おうじょ、さま……?』』』

『『『リーズ様が……。隣国の王女殿下……』』』

『『『……あ、そっか……。伯爵家じゃなくて、王家だったから……』』』

『『『国際法、なのね……』』』

『『『……………………。へぇ……』』』」


 皆さん揃ってポカンとして、シンクロしたようにパクパクと口を動かす。

 そう……。そうなんですよね……。驚き過ぎちゃうと、こんな反応になっちゃうんですよね……。


「これまでリーズが幸せな毎日を過ごせ、ここまで成長できたのは、皆様のおかげでもあります。心より、感謝を申し上げます」

「街の皆様、お父様、お母様、サシャのおかげで、今の私があります。近いうちに立場は変わってしまいますが、私は私です。今後も今までのように、この国の一員として接していただけると嬉しいです」


 兄様と一緒に深くお辞儀をして、ここにいる人――これまで関わってくれた人達すべてに、感謝をする。

 この国での色んな出会いが、刺激が、この私を作ってくれた。本当に、本当にありがとうございます。


『『『『『はいっ! こちらこそ、よろしくお願いしますっっ!』』』』』

「妹へのありがたい言葉、痛み入ります。…………できる事なら、もう少し謝意をお伝えしたいのですが――。本日は、もう一つお話があります。そのため申し訳ありませんが、ここまでとして次に移らせていただきます」

「え? もう一つ?」


 今度は、フィルマンがポカンとする番。兄様が予想外のことを言い出したものだから、間抜けにキョトンとしてる。


「ディオン殿、お話は以上のはずですが……? もう一つとは、なんなのですか……?」

「ああ。そういえば、フィルマン殿にはお伝えしていませんでしたね。これから皆様の前で行うものは、事件の再訂正。あの件の黒幕はマリー・レーヴァではなく、マリー・レーヴァとフィルマン・オズナウだった。というお話をするのですよ」

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