高嶺の花の彼女たちは男装女子のボクには身に余る!

幻想花

第1話 ボクの学校生活

ボクの名前は月野天つきのそら。名前やボクという一人称、見た目から男の子と思われているけど、れっきとした女の子である。


この春、私立花森高校に入学したボクには大きな問題があった。それは、男子の制服を着て、男子のフリをしているということ。


なぜかって?ボクも好きで男子の制服を着ているわけでは無い。


中学生の時の出来事がきっかけで、家族の前以外で女の格好をすることに抵抗があるのだ。今は日常生活でも男装(元々服の好みは男っぽいものだったけど)をしている。


それだけなら「男装をしている女子」で通せばいいのだけど、不運なことに入学後の自己紹介で、先生が間違えてボクのこと「月野天」と呼んでしまい、男の見た目やボクという一人称から完全に男子と思われてしまった。


中学生のほとんど保健室登校していたボクでは、大勢の目の前で話すことに緊張でパニックを起こし、本当は女子という訂正もできず、ぼそぼそとしゃべるだけで自己紹介の時間が終わってしまった。どうしてこうなった…。


そのあと「ぼそぼそしゃべる陰キャ男子」という印象が定着してしまった。

今更自分が女子であると訂正するなんて、怖くて無理だった。

そんなこんなで学校では男子のフリをしてすごしている。


体育が男女合同であったり、ボクに友達ができず、クラスの人とは必要最低限の会話だけだったりと、いろいろな要因が重なり、女子だとバレることなく1か月半が過ぎていった。



そして現在、



午前の授業を終え、昼休みを向かえたボクの目の前には、3人の美少女がいた。

え?何故かって?ボクが一番聞きたい。


「あっ、月野君は今日もお弁当手作り?」


今話しかけてきてくれたのは、天使葵あまつかあおいさん。

彼女は、才色兼備・文武両道を兼ね備えており、学年成績1位。それに加え、積極的に話しかけてくれる気さくさ、困っている人を即座に助けに行く優しさから、男女問わず人気を獲得している。


「そ、そうです」


そんな完璧美少女から話かけられ、動揺しながらも答える。

オ、オーラがまぶしすぎる。


「男子なのに、毎朝お弁当を作ってくるなんて珍しいわね。しかも、量も見た目もかわいい」


ボクのお弁当を見ながら感心しているのは、羽星汐音はねほししおんさん。

彼女は、天使さんと違い積極的に他人とは関わらず、いつもクールな雰囲気をまとっている黒髪美人さんだ。それでも天使さんとは仲が良く、学力を競うなど、一緒いることが多い。そして男嫌い、らしい。


というのも、一応男子のフリをしているボクとは普通に接しているからだ。彼女曰く「なぜか、他の男とは違う感じがするの」ということらしい。


なかなかに勘の鋭い人だ。怖い。


「い、家の料理担当はボクですから。あと最近は男子でも作る人いると思いますよ」


たまに女子であることがバレそうな質問をされることがあるので、毎回ドキッとしてしまう。ちなみに料理は、ダメダメなボクの数少ない自身のあるものなのだ。


「いや、てん君みたいに親や妹ちゃん達の分まで作るような男子はいないよ!

それに、彩りまで意識されたお弁当なんて女子力高すぎるよ‼」


勢いよく声をあげたのは、棗朱莉なつめあかりさん。

人懐っこい笑顔や明るい性格から、クラスの中のムードメーカー的存在。彼女は、天使さんと同じでいろいろな人とコミュニケーションをとっており、仲がいい人をあだ名で呼んでいる。


ボクのあだ名の由来は、始めボクの名前を「そら」ではなく「てん」と間違えたことからである。


「ははは…」


あなたの総女子力は53万でしょうに。ボクなんて料理があってようやく総女子力が5ですよ。


彼女たちは、その容姿や性格から学年全体で人気が高く、よく一緒にいる3人のことを通称「天使てんし花園はなぞの」と呼んでいるほど有名なのだ。


つまり現在の状況を客観的に言葉で表すと「陰キャ男子が天使の花園と昼食をとっている」という状況。


そう。ボクは今、クラスの男子からものすごい量の嫉妬の目を向けられているのだ。


ここまで心の中で現実逃避をしていたが、そろそろ厳しくなってきた。


現実から逃げるなって?


しょうがないじゃないですか!だって怖いんだもん‼


誰に言うでもなく、心の中で文句を言う。


そもそも大勢の人から見られるだけでも萎縮してしまうのに、それが嫉妬ともなると、ボクのメンタルでは耐えることができない。


よし、逃げよう。


「す、すす、すみません。ボクお手洗いに行ってきます!」


幸い、ボクは少食でもうお弁当を食べ終わった。

この視線には耐えられない。もう無理。


ボクは教室から逃げ出した。


「いってらしゃーい」


棗さんの声が聞こえたのを最後に、教室の喧騒は遠くなっていった。


*****


教室から逃げたボクが向かった先は、校舎の屋上。普通は立ち入ることのできない場所。


ボクが屋上に入れるのは、屋上までの扉を知っているのと、図書委員であるから。


屋上に行く扉は図書室にあり、図書委員であるボクは、掃除の時間に屋上も掃除するので、先生から鍵を預かっている。


一人になりたくなったときによく訪れる場所なのだ。


「どうしてこうなったんだっけ」


落ち着いたのはいいけど、この先同じように何回も逃げるわけにはいかない。

この状況になった理由。そこを考えないと。


そのためには、ここ最近の記憶を振り返ってみよう。


うん。まぁ、この1か月半、集団生活慣れることに精一杯で、何があったかほとんど覚えてない…

彼女たちに対して特別なにかをした覚えもない。


覚えているのはこの状況になった経緯。


「月野君、だよね?よかったら一緒にごはん食べない?」

と天使さんの方から誘ってくれたこと。

月の始めに突然。


友達ができたと喜んだ。その日の夜、ベッドの中で枕を濡らした。

彼女たちと過ごすことは嫌ではない、むしろすごく嬉しい。

初めてできた。友達だもん。


あれ?友達だよね。これで一方的だったらどうしよう。

とにかく


「この先どうなるのかな」


友達ができた嬉しさや、曖昧な経緯と嫉妬を向けられる状況の不安などいろいろな感情が混ざり合ったボクの声は、


きれいな青空と町の喧騒に溶けこんでいった。

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