第3話 ラーザの街


 ラーザの街へと辿り着いた俺たちを待っていたのは、信じられない光景だった。


「ちょ、どうなってんだよ……!」

「間に合わなかった……のかな」

「……酷い」


 既にラーザの街は崩壊寸前といえるほどで、街は火の海と化していた。


「ザックは……ザックは何してんだ!いるんだろ!?」


 俺がわき目もふらずにそう叫ぶと、背後から何者かが近づいてきた。


「……おやおや。こんなにも早く勇者様が来られるとは、光栄なものですなあ」


 その声につられて振り返ると、そこにはピエロのようなメイクをした不審な男が立って居た。

 ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべるそいつからは、尋常じゃない気配を感じる。おそらく、こいつが今回の親玉だろう。


「悪いが、俺たちは勇者ではない。……お前を逃がす気もないがな」

「それは威勢の良いことで。……しかし、言い伝えられている勇者一行の特徴と一致しますが……おや、言われてみれば一人欠けていますねえ」


 俺たちが戦闘体勢に移行しても、その男は余裕の笑みを浮かべていた。

 魔王軍のやつらはいつもそうだ。謎の自信と余裕に満ちている。むしろ、そこが突くべき弱点でもあるのだが。


「いないのは……ああ、あの聖剣を振り回す男ですか。つまり、その男が勇者だと」

「……」


 一人でしゃべり続けるその男に対して、俺たちは武器を構え続けていた。

 いつもならローザが容赦なく先制攻撃を放つのだが、ローザも黙りこくっている。それを合図に戦闘を始めていた俺にとっては、動き出しづらい状態だった。


(ザックがいないから慎重になっているのか?たしかにザックがいないのは不安だが……やるしかないだろう!)


 俺は内心で焦りを覚えながらも、ローザの動きを待つことしかできない。

 最後方のリリアも、おそらく様子を見ているのだろう。


「ふむ……面白くない。面白くないですねえ。勇者を捻り潰しに来たというのに……その勇者が不在とは」


 その男は、そう言いながらもにやりと笑った。


「しかし……貴方達を殺せば勇者も──」

「……『ロックキャノン』」


 男の声を遮るように、ようやくローザが魔法を放った。

 上空に現れた巨大な岩石が、男に向かって降り注ぐ。


「──おっと!これは……ッ!」


 その男が岩石を躱すタイミングに合わせて、俺も剣を構えて突っ込んだ。

 ロックキャノンは凄まじい威力を誇り、当たればどんな敵だろうとひとたまりもない。それ故に俺たちはロックキャノンを誘導に使うことが多く、あえて回避しやすいポイントを作るように放つのがローザの癖でもあった。


 その回避ポイントに突っ込んだ俺を確認して、ずっと薄ら笑いを浮かべていた男が初めて表情を崩した。


「『スラッシュ』」


 もはやパターンとなっているこの戦術に、機械的な動作でスキルを打ち込む。

 その男が慣性の力で流れ込む位置に向かって、斬撃が放たれ──なかった。


「なぜ……ッ!?」


 スキルが不発に終わる。

 そんなこと、聞いたことも経験したこともなかった。


(いや、驚いてる場合じゃない……!)


 今一番危険なのは、敵に向かって無防備に突っ込んでいる俺だ。

 既に剣は振り終えていて、攻撃態勢も防御態勢もとることができない。

 その男が俺の様子を見て笑みをこぼすと同時に、地面を蹴ってこちらに向かって──来なかった。


「なっ……これは!」

「……『マッドプリズン』。あなたも知ってるはず」


 驚愕する男に向かって、ローザが言葉を返した。


「馬鹿な……それは闇魔法だぞ!」


 その男が叫んだ通り、マッドプリズンは底なし沼を作り出す闇魔法だ。

 闇魔法とは魔王が持つ力を使って鼻垂れる魔法のことで、賢者であるローザといえど到底扱うことなどできない魔法だった。


「ありえない!勇者一行風情が……いや、そうか!貴様も魔王様の手先ということか!」

「……そんなわけない」

「嘘だ!だったらなぜ──ッ!」


 マッドプリズンがその男をどんどん飲み込んでいき、ついにその男は喚くことすらできなくなった。

 闇のように黒く染まっていた地面は男を飲み込むと同時に、まるでそこには最初から何のなかったかのような元の地面へと戻っていた。


「ローザ!どういうことなの!?」


 衝撃の連続で呆気に取られていた俺は、リリアのその叫びを聞いてようやく我に返った。


「……マッドプリズン」

「そんなことわかってるよ!どうしてローザが闇魔法を使えるの!?」


 ローザたちの方を振り返ると、杖を構えながらローザを追及するリリアと、無防備で佇むローザの姿があった。


「……そんなことはどうでもいい。それよりケイン──」

「どうでもよくない!!」


 ローザの言葉を遮って、リリアが叫んだ。

 しかしローザはそれを気に留めることもなく、リリアに背を向けて俺の方へと向き直った。


「……ケイン。スキルは使えなかった?」

「え……あ、ああ。スラッシュは何故か発動しなかったが……」


 俺の返事に、ローザは満足そうに頷いた。

 そんなローザに、リリアが食って掛かる。


「ちょっと、ローザ!私の話は!?」

「……まとめて話す。まずは落ち着けるところに行くべき」


 ローザの言葉に納得したようなしてないようなリリア。

 それでもローザが歩き出してしまったので、俺もリリアも後をついて行くしかなかった。

 しかし、こんな状況の街で落ち着けるところなんてあるのだろうか。それに、街の人たちに報告もした方がいいだろう。


 そして、ザックはいったいどこにいるというのだろうか。

 マーダの予言が外れるとは思えない。


(まさか、すでに戦って負けたのか──いや、相手の意表をついた勝利とはいえ、あんな相手にザックが負けるわけないか)


 俺はその考えを振り払うと、現状の確認をした。


(ローザの闇魔法。ザックの行方。俺のスキル。……わからないことが多すぎるな。ローザは何を知ってるんだ?)


 前を歩くローザの背中が、とても遠いもののように思える。

 何か言い知れない恐怖を感じながら、俺はただローザの後を追い続けた。

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幼馴染四人組の勇者パーティーで、ただの戦士なんて必要ないと追放されました。~え、聖女も賢者も必要ない!?俺は一人で魔王を倒しに行く!?ちょっと待て、お前は何を言っているんだ~ @YA07

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