第104話 ファッション

 店に戻ると、アプフェルとアマンが服を何着か手に持ち、何かをブツブツと唱えていた。

 近くには、呆れた様子で二人を見ているピケ。



「どうしたんだ、ピケ?」

「あ、ヤツハおねえちゃん。お話終わった? おばあちゃんは?」

「うん。サバランさんは早速お洋服を作ってくれるって、知り合いの人たちに会いに行ったよ」

「え~、せっかく遊びに来たのに~」


「ごめんな。サバランさんは俺たちのためにお仕事を優先してくれたんだ。ピケにはよろしくって言ってたぞ」

「うん……お仕事なら仕方ないっか。また、今度遊びにこようっと」

「ほんと、ピケは良い子だ」


 俺はピケの頭を撫でる。

 ピケは気持ちよさそうに体を預ける。



「それで、二人は何してんの?」

「服を買うかどうか悩んでるの。アプフェルちゃんは今月はきびしいって、ブツブツ。アマンちゃんは自分サイズにオーダーメイドするといくらかかるだろうって、ブツブツ」

「あ、そう。人が仕事している間、こいつらは……おい、二人とも」


 手をパンパンと叩きながら話しかける。

 すると、二人は同時にこちらを振り向く。

 それをジトっと睨んでやる


「あ、ヤツハ……」

「ヤ、ヤツハさん……」

「エルフの手土産の話、終わったぞ。彼らのために服を作ってくれるって」


「あ、そうなんだ。ごめんなさい、つい」

「申し訳ありません。興味深くて」


「いいけどさ。買うの買わないの?」

「それがさ、なかなかのお値段で、ちょっと厳しいかなぁって」

「私も、来月にならないと余裕が」


「だったら、来月買えばいいじゃん」

「わかってないなぁ、ヤツハは。こういうのは欲しいと思ったときに買うのが楽しんじゃない」

「そうですよ。鉄は熱いうちに打てと言いますし」

「じゃあ、買えば?」

「でも」「ちょっと」


「はぁ~、ピケ。帰ろうか」

「うん。アプフェルちゃん、アマンちゃん。欲しいものを待つのも、楽しみだよ」

「……うん、そうする」

「そうですね。私もそうします……」


 二人は服を元あった場所に返す。

 俺とピケは先に店を出ていく。だけど、二人は何度も服をチラ見しながら、なかなか店から出てこようとしなかった。




 店を出るとすぐにフォレとパティに出会った。

 二人の方は思った以上に工房への依頼がスムーズに進み、こちらへ合流しようしていたそうだ。

 時間に余裕ができたらなら、パティももう少しフォレとの時間を楽しめばいいのに、真面目なやつ。


 フォレは俺が頼んでおいた、とあるブツの試作品を渡す。


「工房の方から、試作品を預かってきました。どうですか?」

「おお~、早いねぇ。ま、この形に削るだけだからか? 本当は色々バランスを考えなきゃならないんだろうけど」

「駄目でしょうか?」

「いやいや、十分。この形でいいよ」


 そう言いながら、ブツを握って左右に振り回す。

 フォレは物珍しそうな顔で俺の動きを見ている。


「一見、木刀のようですが、木刀とは違う使い方をするのですか?」

「うん、本来はこれでボールを。ま、武器にできないこともない。とゆーか、今回は武器になるけど」

「よく、わかりませんが……たしかに完成品は……」



 フォレは俺が手渡した図面の見つめる。

 すると、横からパティが首を伸ばし、図面を見ながら俺が手にしているブツを交互に見た。


「武器とするなら、完成品の見た目はかなり凶悪な武器ですわね。殺傷能力は刃物よりは劣りそうですけど」

「見た目が凶悪だからいいんだよ。この武器はファッションみたいなもんだから」

「「ファッション?」」


 二人は揃って首を傾げる。

 たしかに、こんなモノをファッションと言われても理解できないだろうけど。


「とにかく、コレも服も、エルフのソウルを刺激する逸品だから大丈夫だよ。俺たちの方もサバランさんと話をつけたから、今日はこれでおしまい。フォレ、元の贈り物の換金の方をよろしく」


「あ、そのことでしたら、フィナンシェ商会にお願いしましたので大丈夫です」

「パティの?」

「ええ、わたくしどもの商会が資金に必要な分だけ引き受けますわ。その方がサシオン様への負担も少ないでしょうから。書類の面で……」


 

 二人が俺をじっと見つめる。

 俺は視線から逃げるように、顔を横へ向ける。


「もしかして、フォレたちはサシオンのところに寄ってきたの?」

「はい、サシオン様にフィナンシェ商会が秘密裏に換金を受けてくださるという話を。おかげさまで書類上の審査は後回しにできます」

「ヤツハさん、あまりサシオン様の心労を重ねるようなことはしない方がよろしいですわよ」


 二人は書類の山に埋もれて苦しんでいる、サシオンの姿をばっちり見てきたようだ。

 そして、俺の勝手な判断がさらなる書類の山を生んだことを知っている。

 俺は気まずくなり視線を下へずらす。

 そこにはピケが。


「おねえちゃん。よくわからないけど、迷惑かけちゃダメだよ」

「……うん、今度から気をつけるよ、ピケ」

「うん。それじゃ、みんなはこれからどうするの?」

「えっと……とりあえず、今日はおしまいかな?」


 俺はフォレとパティに視線を投げる。

 二人とも軽く頷いて、俺の声に答えた。

「そうですね。では、私はこの後、サシオン様のお手伝いを」

「それでしたら、わたくしも。フィナンシェ家が請け負う仕事の書類ならば……あら? そういえば、アプフェルさんやアマンさんはどちらに?」



「え? あいつら、まだ店の中かよっ?」

「お二人で何をされているんですの?」

「服を買おうか悩んで、店に捕らえられた」

「そういうわけですの。まったく、お二人は……わかりました。お二人の方はわたくしにお任せなさい。ヤツハさんはピケさんを宿まで。フォレさんはお仕事に」

「悪い、パティ」

「パティさん、よろしくお願いします」


 俺とフォレの声に、パティは微笑みを返す。

 面倒事を押し付けたことが申し訳なくて、俺は最後にもう一度軽く頭を下げてから、ピケに顔を向けた。

「それじゃ、ピケ。帰ろっか」

「うん」



 ピケと手をつないで、宿へ戻る。

 フォレも東地区へ戻るまで一緒だったけど、途中で別れ、サシオンの屋敷へと向かっていった。

 パティはアプフェルとアマンの面倒を見るため店へ…………彼女たちが店から離れたの頃には、日は沈み切っていたそうだ。

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