第41話 動力源?
掃除を終えて、螺旋階段を下っていく。
因みに、一応エレベーターのボタンを押してみたけど、予想通り反応はなかった。
動けば楽に帰れたんだけど……。
行きと同じく、アプフェルは俺の前を歩いている。
彼女の背中を眺めつつ、先ほどの出来事を考える。
(お地蔵様は地球と似た世界へ渡すと言ってたけど……だからと言って、地球の数字や日本製のエレベーターが出てくるっておかしいだろ。この世界は、何か奇妙だ)
頭を捻り、異世界『アクタ』がどんな世界なのか、想像の風呂敷を広げる。
・俺は刺されて意識不明で夢を見ている?
・ここは地球の未来で俺の知っている人類が滅びた後の世界?
・ここは現在の地球で、この『アクタ』は謎の組織が作り上げた実験場?
・平行世界?
・実は地獄で何らかの刑罰が発生している?
さらに思考の奥行きを増す。
(そういえば、ミズノとかいう英雄。たまたま日本人みたいな名前かと思っていたけど、日本人なのかも。そう考えるならば、他にも地球から来た人がいて、知識のある人がこの世界でエレベーター作った? いや、それでは説明がつかない。わざわざ、社名を刻む必要もないだろ)
よほどの愛社精神の持ち主なら別だけど、まずそこまでしないと思う。
それに、いくら知識があってもエレベーターって簡単に作れるものなのか?
構造はわからないけど、制御する機械が必要で……。
(あ、動力源!? 動かす場所があるはずだ。でも、どこに?)
一階にはそれっぽい場所はなかった。
上を見上げる。すでに一階に近づいており、天井は遠い。
戻るとなると、かなり疲れる。
(ふむぅ~、上は諦めよう。地下があることを願って下へ向かおう。もしなかったら後日改めて来ればいいや)
一階まで到着し、すぐにアプフェルは出口へ向かおうとする。それを呼び止める。
「ちょっと待って、アプフェル」
「何?」
「少し、見学したい」
「見学って言っても、一階には何もないよ」
「見た感じそうだけど、地下とかないの?」
「地下? たしか、学士館から借りた見取り図に、エレベーターの後ろに下へ続く階段があったけど、どうして?」
「あんのかっ? よし、じゃあ行ってみよう」
「いいけど……あんまり変なことしないでよ。怒られるの私なんだから」
「何もしないって、見るだけだし」
困り顔のアプフェルを後ろに置いて、エレベーターへ近づく。
先ほどまで、この近くでマヨマヨがうろ居ついていたのに、今は誰もいない。
「マヨマヨはどこに行ったの?」
「さぁ?」
「まさか、地下にいたりしないよな」
「いたとしても、別に何の問題もないでしょ」
「そ、そう」
俺の目から見ればすっごく怪しげな存在なのだが、アプフェルは特段気にした様子を見せない。
彼女の様子から、この世界においてマヨマヨとは空気のような存在みたいだ。
俺たちはエレベーターの後ろに回り、下へ続く階段を降りていく。
十段ほど降りてすぐに、金属製の扉。
ドアノブに手を掛けるが、カギはかかっていない。
そういうわけで遠慮なく中へ入っていくことにした。
部屋の中は真っ暗で何も見えない。
アプフェルの光球を頼りに周りを見渡すと、壁に電気のスイッチを発見。
パチパチといじってみるが、天井にある蛍光灯は無言のままだ。
「くそ、ダメかっ」
「何してるの?」
「え……いや、ちょっとね」
彼女はスイッチを電灯のものだと認識していないみたいだ。
電灯は諦めて、光球を動かしながら、室内を見回す……マヨマヨはいない。
ほっと胸を撫で下ろす。なんとなく不気味な存在なので。
改めて、室内に目を向ける。
なんだかよくわからない機械類が並んでいる。
壁の端に配電盤のような箱がある。
近づいて、中を覗き込んでみた。
それをアプフェルは口調きつく咎めてきた。
「ちょっと、何してるのよ?」
「いや、気になって」
「変な人。壊さないでよ」
「いや、すでに壊れてるんだろ?」
「もっと、壊さないでってことよ!」
彼女はスレンダーな桃色尾っぽを膨らませて怒っているが、それを無視して配電盤を覗き見回す。
いくつかスイッチがある。
パチリパチリと跳ね上げるが、反応はない。
「う~ん、動力がないからかぁ?」
「ちょっと、変なことしないでって」
「わかってる、わかってる。おっ? 線が取れてる。ここは銅線がむき出しになってるなぁ。線をはめて、銅線を結んでっとっ、うわっ!?」
銅線が激しく火花を吹いた。
慌てて配電盤から飛びのく。
「びっくりしたぁ! スイッチ入れっぱなしだったからか?」
「びっくりしたのはこっちよ! あんた何したの!?」
「何したって、あっ」
天井にあった蛍光灯が僅かに
奥にある機械類は何も反応しない。
「おおう、電灯は生きてるのか」
「ヤツハ……あんた、本当に何したの……?」
「え?」
アプフェルは怪訝な顔を露わにして俺を見ている。
(まぁ、そうなるよね……どうしようか。なんて、誤魔化そうかなぁ)
「え~っとね、テキトーに繋がってない線を繋いでみただけなんだけど」
「それは後ろから見ててわかってるけど……でも、どうして、線を繋げようと思ったの? どうして、線を繋げたら明かりがつくと思ったの?」
「あ~、それは……」
明かりがついたのはたまたまだったけど、ここに動力と繋がるものがあると知っているだけでも不審に思われるのは当然か。
さて、どうしたものかと室内の奥に目をやると、何か奇妙な音が聞こえてくる。
「アプフェル、この音は?」
「え、何かな? さっきまで聞こえてなかったけど」
キ~ンっと、機械音やエンジン音とは違う、空気を震えさせる音が響いてくる。
俺は音に惹かれるように、出どころへ向かう。
「あっち、か?」
「ヤツハ、待ちなさいよっ」
音の発生源へ近づく。
音は金属製のボックスの中から響いている。
ボックスの周りからは、太い銅線らしきものが何本も飛び出している。
(もしかして、動力源か?)
ボックスの扉は金属製で、横にスライドさせるタイプ。
早速、扉に手をかけて横へスライドさせる。
「これは……?」
ボックスの中心には真っ赤な丸い水晶が浮かんでいた。
水晶の四方には、水晶を包み込むように半月の形をした金属板がある。
水晶は小刻みに揺れて輝き、それが空気を震わせて音となり、周囲に広がっているようだ。
半月の金属板は水晶から放たれる光を吸収しているように見える。
これが動力源のようだけど、こんな動力、見たことがない。
「アプフェル、これ何?」
「私が知るわけないでしょ? こっちが聞きたい」
アプフェルも知らないとなると、この世界の技術ではないということ。
じゃあ、これは一体?
「なぜ、扱える?」
入口そばにある扉から、低くこもった声が聞こえてきた。
俺とアプフェルは背中をびくりとさせながら、入口へ目を向ける。
そこには赤色の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます