懐中時計が刻むとき君はいない

@alicemare

第1話

 九月十八日僕は最愛の人を失った。本当に美しい人だった、綺麗な長い黒髪にあの優しげな笑顔、声、全てが愛おしく思えた。妊娠中だったためお腹の子も一緒に。本当に突然だった、

 会社で仕事を終え、スマホを開くと不在着信が何件も来ていた、留守電が一件、僕はその留守電を聞いてみた、そこには警察官を名乗る方から

「田代奏さんが交通事故で死亡したので、身元を確認するために○○警察署まで来て下さい。」

 僕は慌てて警察署までタクシーで向かった。お釣りも受け取らずに、何かの間違いだと信じて。警察署に着くと一人の警察官が事故の経緯を説明してくれた、僕は冷静を装いつつも内心は動揺していた。それから、身元の確認などを行い、遺体安置室に入るとそこには間違いなく妻が横たわっていた。遺体の損傷は激しくはないものの綺麗な顔には擦り傷があった。あまりにも唐突過ぎて受け入れることが出来ないのが現状だった。長い検視が終わり、僕は家に帰された。検視の結果事件性があったため司法解剖を行うようだ、僕は正直、彼女にメスを入れられることがどうしても耐えられなかった、只でさえ傷の付いた身体を更に傷つけるのが嫌だったからだ。僕は、精神的にもボロボロの状態で家に帰って来た、そしてリビングで僕は泣いた。暗くて静かな冷たい部屋で、涙が枯れるまで泣いた。ひとしきり泣いた後、疲れてそのままリビングの床で眠りについた。

 僕の最愛の人、僕の妻、田代奏は交通事故で死んだ。

 これは今朝の話だ、会社に行くために家を出ようとしたとき、彼女は珍しく

「今日のお夕飯何食べたい?」

 と聞いてきた、僕が

「肉じゃがが食べたいな」

 と答えると

 彼女は、微笑みながら

「分かった、楽しみにしてて」

 と言った。食材を買いに行くために出掛けたとき、居眠り運転をしていた車に跳ねられてしまったらしい。妻もお腹の子も即死だった通行人が発見したときにはすでに行きを引き取っていたため救急車は呼ばずに警察に電話をしてくれたようだ。

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