第40話 付け狙う影
王都に帰ってきて、俺は両親の死と助け出した子達が行方不明になった事を知った。
それは俺が安易に行動を起こしたからで、その代償としては大きすぎるものだった。
だが聖女だけは無事だった。それが俺には一つの救いのようにも感じられたのだ。
王都に戻ってからの3日間は休みが貰えるので、俺はその間に何があったのかを調べる事にする。しかしこれを公にする事はできない。秘密裏に動く必要がある。
なぜなら、この件にはこの国の王族や貴族が関わっているからだ。どこに誰の目があるのか分かったもんじゃないからな。
しかし……
両親がいなくなった俺に、ここにいる必要は無くなってしまったのではないか、との考えもある。
今までは養子になった侯爵家から逃げ出したくなっても、王都にいる両親に迷惑がかかってはいけないという思いから、どんな辛い事にも耐えてここまでやって来れた。自分が両親を守っていると高を括っていたんだ。
けれどもうその必要はない。それどころか自分が両親を危険な目にあわせてしまった。これは俺の責任だ。
両親が殺された原因と、連れ去られた子達を探し出さなければならない。それにイザイアはああ言ったが、シルヴォが生きている可能性もある。独自にシルヴォを探し出す事もしていかなければ。
その事が判明すれば、俺はこの場所に囚われる事なく自由でいられるのではないか。もちろんレーディン侯爵家や騎士団には世話にはなった。
だが、このまま貴族として生きていくのには抵抗がある。なぜなら、両親を殺した奴等は確実にこの国の貴族が関係しているからだ。
この事は簡単に許せる訳も、割り切れるものでもない。
真相が知れたら、王都を離れようか。そしてまたジルと旅をするのも良い。
あぁ、ジルのあの笑顔が見たい。ジルの空気に触れたい。癒されたい。
自分から離れて行った癖に、もうこんな事を考えている……
今回の事は結構精神的にヤラレていたようだな……情けない……
空を仰ぎ、深呼吸してから気持ちを入れ替える。よし。調査をしよう。
俺は休みの日に、よく市井に来ていた。様々な店の様子や人々の状態等を見るのが趣味のようになっていて、そんな時は貴族と思われないように服装を変え、護衛もつけずに一人で観察しながら楽しんでいた。
だから俺の顔見知りはあちこちにいて、雑談を話すふりでよく情報を得ていたのだ。今回もそんな感じで人々から怪しまれる事なく情報を探っていく。
そこで知り得た情報の一つに、心中事件というものがあった。その情報は、ギルド内にある食堂の給仕をしている、情報通の人物から得たものだった。
「心中って、なんでそんな事をしたんだろうな」
「さぁ? まだ若い子達なんだって。一緒になれない事情とかあったのかなぁ?」
「そんな身分差とかあったのか?」
「貴族と平民とかじゃ、反対されるのも分かるけどさ。そうでもなさそうだよ? 着ている物とかは質素なものだったらしいから」
「そう、か……じゃあなんでだろう」
「質素ながらも、キチンとした服だったって。そこから、どこかの貴族や富豪に雇われていた子達じゃないかって」
「そうなのか?!」
「噂だよ。ほら、下女の子が富豪のお手付きになって、でも共に働いていた二人は愛し合ってて逃げるしかなくなって、それで心中したとかじゃないかってね。そんな噂になってるよ。そう思うと悲恋ってなるよねぇー?」
「その二人の容姿は?」
二人の髪や瞳の色を確認すると、俺の邸で働いていた子達と同じだった。これは間違いなさそうだ。
二人が心中する等、それはないだろう。想い合っていたかどうかは分からない。その可能性はあったかも知れない。が、だからと言って逃げ出し命を絶つ等、そんな事をするとは到底思えなかった。
虐げられた環境の中であっても、二人は生き抜いてきたのだ。そう簡単に自ら命を手離す等とは、やはり考えられない。
ではなぜ二人は亡くなってしまったのか。
……殺された、か……
イザイアを秘密裏に呼び出し、心中事件に関する事を詳しく調べるよう告げる。俺は他に情報を得る為に動いた。
だが、市井では分かる事は限度があり、今回の事は貴族が絡んでいるからそれも相まって真相には、なかなかたどり着けないでいた。
そして、そんな風に情報を得ようと街を歩いている自分を付けている存在がある事にも気づく。常に付かず離れずの状態だが、何かをしてくる様子はない。俺が隠密として訓練を受けていなければ、その存在に気づく事はなかったと思う程の者達だから、向こうも相当の手練れの者なんだろう。
そしてそれは、王都に帰ってきてから何処に行っても感じるようになっていた。侯爵家の邸にいる時も、騎士団の訓練所近くにある騎士舎にいる時も、だ。
付けている奴は同じ人物でもない。場所によって人が変わっていたり、時間によって変わったりもする。どうやら俺は常に監視されているようだ。
いつでも俺をどうにでも出来るようにしているのか。それとも俺が誰かと会うとでも思っているのか。
そんな事が何日も続き、落ち着く事も出来ない日々が続く。そうであっても、俺はそれに気づかない振りをする。そして時々気配を消し、イザイアと密談する。
そうしてイザイアから、俺は驚きを隠す事すら忘れてしまう程の情報を入手した。
それは、聖女があの塔から解放されると言う事だった。
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